【医師監修】糖尿病は治る病気なの?~良好な血糖値を維持する基本をおさらい~
当記事は、内科認定医・糖尿病専門医 古賀 萌奈美先生にご監修いただきました。執筆はライター 松原知香(管理栄養士)が担当しました。*シンクヘルスブログ監修・執筆者情報一覧はこちらをご覧ください
医師から病気の診断を受けたら、真っ先に気になるのが「治るかどうか」ですよね。それは糖尿病の方も同じ想いでしょう。
以前まで、糖尿病は「不治の病」と思われていました。今でもそのイメージは根強いですが、最近の研究では日本の2型糖尿病の方の100人に1人が、薬を使わなくても血糖管理ができる状態(以下、寛解)まで改善することがわかってきました。
今回は糖尿病は治る病気なのか、また薬に頼らず血糖管理をするには何をすればよいのか、最新の研究報告も交えてお伝えします。
ぜひ最後までご覧ください。
目次
糖尿病が治るってホント?
糖尿病は「治る」と言いにくい病気です。というのも、血糖値は食事改善や運動習慣をつけることで良好になるケースもありますが、再び生活習慣が乱れると悪化してしまいます。
そのため、風邪のように「完治する」のは難しいのです。
2型糖尿病は寛解することもある
最近の研究では、糖尿病の中でも2型糖尿病の方が食事改善と運動をしつつも薬に頼らず血糖管理ができる、いわゆる「寛解(※)」の状態を目指せることがわかってきました。
(※)寛解の定義:薬による血糖管理を必要とせずにHbA1c6.5%未満を3か月以上維持している状態
調査結果によると、通院治療をしている2型糖尿病の方の約1%に寛解の状態がみられました。これは、100人に1人の割合で寛解したといえるのです。
また、寛解した方にはいくつかの特徴がありました。
・HbA1cが低い方
・ベースラインのBMIが高い方
・体重の減少幅が大きい方(5%以上)
・服薬による血糖管理を行っていない方
個人差はありますが、これらの条件にあてはまれば寛解する可能性が高いといえるでしょう。
参考記事:【医師監修】2型糖尿病とは〜原因・症状や治療についてわかりやすく解説〜
痩せたら治ったというのは本当か?
たしかに、2型糖尿病の寛解にみられる特徴には「体重減少の幅が大きい」とあります。
そもそも2型糖尿病の方は、膵臓に存在する『ランゲルハンス島β細胞』という細胞が、血糖値を下げるインスリンというホルモンの分泌を絶対的・相対的に十分に分泌できていない状態にあります。
そして、インスリンの効果を妨げる要因の一つに「内臓脂肪」があるのです。
大幅な体重減少により内臓脂肪が減って、インスリンの効果が十分発揮できるようになれば、薬に頼らずに血糖管理ができて寛解することもあるでしょう。
参考記事:【医師監修】肥満と糖尿病の関係〜治療と予防をカンタン解説〜
1型糖尿病は寛解しない
1型糖尿病の方の場合は、インスリンが分泌できなくなるため、インスリン注射が必要となります。そのため2型糖尿病の病態と異なり、寛解することはありません。
より詳しく説明すると、1型糖尿病は膵臓のインスリンを作り出す細胞であるランゲルハンス島β細胞が壊れてしまうことで発症します。原因はまだ不明な点もありますが、約90%が自己免疫性だと言われています。
壊れてしまったランゲルハンス島β細胞を治す治療法は膵臓移植や膵島移植などがありますが、この治療を行うことは稀です。ほとんどの場合自己注射によってインスリンを補う必要があります。
薬を必要としない「寛解」の状態は望めませんが、治療しながら発症前とほぼ同じ日常生活を送っている方も多く、中にはプロスポーツ選手として活躍する人もいます。
1型糖尿病であっても、自分らしい生活を送ることは十分に可能です。
参考記事:【医師監修】1型糖尿病とは〜原因・症状から治療と生活の注意点をわかりやすく解説〜
寛解しても再発のリスクはある
先ほど触れた日本人における2型糖尿病の寛解について研究した結果によると、寛解したうち約2/3という高い割合で糖尿病の再発が確認されたのです。
再発した方には、以下のような特徴が見られました。
・BMIが低い
・体重が増加した
一度寛解の状態になったとしても、基本的な生活習慣の管理をせずにいると、再び血糖値が悪化してしまいます。
糖尿病の食事と運動のポイント
糖尿病の方は食事や運動による血糖管理が不可欠です。
寛解の状態を維持する場合も、同じような生活管理を続ける必要があります。
そこで、食事と運動で血糖管理を行う際のポイントをご紹介します。
食事は選び方と食べ方が重要
糖尿病において、食事療法は「きほんのき」です。食事を改善しなければ糖尿病も改善されません。
ポイントは、さまざまな食材を選んで、野菜や肉・魚から食べることです。
食事を用意するときは1つの食材に偏るのではなく、野菜や肉、米などさまざまな食材を取り入れることで、食事全体のバランスを整えやすくなります。
糖尿病の方は「糖尿病食事療法のための食品交換表」を活用するのもよいです。
また、野菜類や肉・魚などのたんぱく質から食べることで、急激な血糖値上昇を防ぐことができます。さらに、ゆっくりとよく噛んで食べると満腹中枢が刺激され、食事量を減らしても「おなかいっぱい」と感じることができますよ。
ご自身の食生活を振り返りつつ、改善できる点を見つけていくことが大切です。
参考記事:血糖値を上げない食べ方について管理栄養士が解説~順番や糖質量も~
週3~5日の運動が血糖管理に効果的
運動療法は、『インスリン感受性』を高めるうえで非常に重要です。
インスリン感受性とは、インスリンの効きやすさのことを指します。インスリン感受性が高い人は、少しのインスリンでも血糖値が下がりやすいですが、逆に低い人は多量のインスリンが分泌されないと血糖値が下がりません。
このインスリン感受性を高めるために有効と言われているのが、運動療法なのです。
そして運動療法で大事なことは、なによりも「続けること」です。
辛くてきつい運動を一日頑張っても、その効果は3日以内に低下し、1週間で消失するといわれています。そのため、理想としては週3~5日以上の運動が望ましいです。
ただ、忙しい現代人が運動時間を確保するのは難しいことですよね。
これまでの研究で、細切れでも週に150分以上の運動をすると、血糖コントロールに効果的という結果が出ています。
例えば、週5日の出勤と退勤時に一駅遠い駅で降り、15分ずつの歩行をするとそれだけで150分は越えられます。
毎日の生活の中で、「運動に変えられる時間」を探してみてください。
参考記事:ウォーキングは糖尿病の治療に効果的〜正しい方法で血糖値を改善〜
まとめ
「糖尿病は治る」とは言えないものの、2型糖尿病の場合は血糖管理を良好に保つことで、薬の必要がない「寛解」を目指せることがわかっています。
寛解に至った方の特徴はいくつかありますが、ほとんどは食事や運動による体重と血糖管理によって達成できるものです。
しかし、一度寛解になっても生活習慣の管理を辞めてしまえば元の状態に戻ってしまいます。
寛解の状態を保つためにも、糖尿病治療の基本である食事管理や運動を継続していく必要があるのです。また一度寛解しても、現状を把握するために定期通院を止めないようにしましょう。
なお、弊社の開発する無料アプリ・シンクヘルスでは血糖値や食事、運動の記録がカンタンにできます。日々の血糖管理にぜひ活用してみてくださいね。
関連記事
【医師監修】脂質異常症は治るの?~日常生活の改善点や食事の摂り方までサクッと解説~
【医師監修】糖尿病の方は感染症になりやすいの? ~理由から対処法まで解説~
【医師監修】糖尿病と歯周病はなぜ関係あるの? ~予防や治療法もポイント解説~
【医師監修】高齢者に多い糖尿病と認知症の関係〜日々の生活で血糖値に気をつけよう〜
【医師監修】糖尿病だと心筋梗塞や脳梗塞になりやすいのはなぜ?~症状も解説~
参考文献
・糖尿病療養指導ガイドブック2018 糖尿病療養指導士の学習目標と課題 日本糖尿病療養指導士認定機構編・著 メディカルレビュー社 2018年発行
Consensus Report: Definition and Interpretation of Remission in Type 2 Diabetes
Relationship between the magnitude of body mass index reductions and remission in patients with type 2 diabetes in real world settings: Analysis of nationwide patient registry in Japan (JDDM74)
Incidence and predictors of remission and relapse of type 2 diabetes mellitus in Japan: Analysis of a nationwide patient registry (JDDM73)