【医師監修】糖尿病の方に慢性的な便秘が多いのはなぜ?〜原因・治療・対策を解説〜
当記事は、内科認定医・糖尿病専門医 古賀 萌奈美先生にご監修いただきました。
執筆はライター 前間弘美(管理栄養士)が担当しました。
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最近便秘気味だな、ということはありませんか?
もしかすると、その症状は糖尿病が原因の一つかもしれません。
糖尿病と便秘の関係はあまり知られてはいませんが、実は深いつながりがあります。
そこで当記事では、糖尿病が便秘の原因となる理由を紐解きます。治療や対策についてお伝えしますので、ぜひ最後までお付き合いください。
目次
糖尿病患者さんに便秘が多いのはなぜ?
糖尿病は内臓の働きを調整する自律神経(※)を障害するため、胃腸にある神経の働きが悪くなり、便秘を引き起こす一因となります。
(※)内臓や血管など、私たちの意志とは関係なく働く器官をコントロールする神経のこと
糖尿病の方にとって便秘はよく見られる合併症で、有病率は28.6-59.5%と報告されるほどです。とくに糖尿病性神経障害(※)があると、便秘の有病率が上昇すると示されています。また血糖コントロール不良との関連性も報告されています。
(※)糖尿病の合併症のひとつで、全身の神経に障害が生じる
また糖尿病胃腸症といって、便秘と下痢を繰り返す方も多いです。
参考記事:糖尿病と下痢には関係がある?〜特徴・原因・治療をシンプルに解説〜
便秘とはどのような状態か
便秘とは「本来体外に排出 すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。
少し難しい表現ですが、厚生労働省の情報によりますと「便秘とは便中の水分が乏しく硬くなる、もしくは便の通り道である腸管が狭くなり排便が困難または排便がまれな状態(※)」のことです。
(※)厚生労働省 生活習慣予防のための健康情報サイトより引用
そして便秘の基準は、人によって異なります。
一例をあげますと、
毎日1~2回便が出ていた人が3日間便が出なかった場合、便秘といえます。
しかし、もともと2~3日に一回しか出ていなかった人の場合、3日間便が出なくても便秘とはいいません。
逆に、毎日便が出ていても便が硬かったり量が少なくてすっきりしない場合は、便秘といえるでしょう。
お通じの調子は個人差が大きいので、「今までの自分と比べて便が少ない」や「便が出にくい、おなかが張って苦しい」などの症状があるかが、大事な基準になります。
便秘の種類
便秘は、医学的には大きく4つに分類されます。
・機能性便秘:ストレスや加齢で腸の働きが乱れることで起こる便秘で一番多い
・器質性便秘:腸の癒着などで便の通り道が塞がれてしまうことによって起こる便秘
・症候性便秘:もともとある病気の症状として起こる便秘
・薬剤性便秘:薬の副作用で起こる便秘
糖尿病による便秘は、症候性便秘といえます。
とはいえ便秘の原因は一つではないことも多いです。便秘かなと不安に思ったら医師に相談してもよいでしょう。
慢性便秘症の診断基準を紹介
慢性便秘症の診断基準は、
・コロコロとした便や硬い便が出ることが4回に1回以上
・便が残った感じがすることが4回に1回以上
・肛門周りが詰まった感じがすることが4回に1回以上
・肛門周りを手で押さないと出ないことが4回に1回以上
・自発的な排便回数が週に3回未満である
といった症状が6か月以上前からあり、直近3か月は上記の症状のうち2つ以上がずっと続いていることと示されています。
ただし、治療対象になるのは苦痛があり、日常生活に支障がある場合のみです。慢性便秘であっても、本人に苦痛がない場合治療を行う必要はありません。
どのような検査が行われるのか
まずは大腸癌や腸閉塞などの器質的便秘、便秘を引き起こす原疾患の鑑別(症候性便秘)、薬剤性便秘の可能性がないか探っていきます。
これらが疑われる場合には、便秘の原因を調べるためにレントゲン検査や大腸内視鏡検査などが行われることもあります。
慢性便秘症の治療とは
慢性便秘症の治療は、食事と運動を中心とした生活習慣の改善です。
残念ながら、以下に紹介するものも含めて現時点で科学的に実証された方法はありません。ただ副作用の面、安全性の面ならびに簡便さの観点 を考慮して試行して問題となることはなく、生活習慣の改善が慢性便秘症治療の第一選択治療とされています。
それでもあまり効果がない場合、薬を使った治療をすすめていくことになります。
生活習慣の見直し
生活習慣の改善と聞くと、毎日忙しくしている方には少し難しいと感じるかもしれません。
でも、少しの改善でよくなることもあります。
たとえば朝起きてからコップ一杯の冷たい水を飲み、軽くお腹をマッサージしてから、便意が無くてもトイレに座ってみる。
これだけでも、便秘が改善されることは多くあります。難しいことは考えずに、まずは水分をしっかり摂るようにしてみてください。
参考までに、一日1.5Ⅼ以上の水分を摂ると便秘に効果的といわれています。さらに、水分を多く摂ると美肌効果もあるといわれています。便秘解消や美肌のために、ぜひ水分補給を試してみてくださいね。
食事で意識したいのは食物繊維
野菜をあまり食べない人は、食物繊維が不足して便秘になっているかもしれません。
食物繊維には、水分を含むことで便がかさましして出しやすくする効果があります。なお、食物繊維を摂っていても、水分が不足するとかえってガチガチの便となり、便秘の悪化につながることも。食物繊維と合わせて、水分もしっかり摂るようにしましょう。
そして食物繊維には、水に溶けやすい水溶性と水に溶けにくい不溶性という2つの種類があります。
水溶性と不溶性どちらの種類もバランスよくとることが便秘には効果的ですので、いろいろな種類の野菜をを食べるとよいですよ。
参考までに、
不溶性食物繊維:ゴボウ、穀類、豆類、きのこなど
に多く含まれます。
ぜん動運動を活発に
適度な運動は腸に刺激を与え、ぜん動運動(※)が活発になります。
(※)消化したものを腸が伸縮運動をしながら腸内を移動させ、体外に排泄させる動き
筋力が衰えている人の場合、腹筋をつけることで便を出すときに出しやすくなります。
症状に応じて薬物療法が取り入れられる
生活習慣や食事を見直しても便秘が改善しない場合は、下剤による治療を行います。
下剤にも多くの種類がありますが、大きく分けると、便自体を柔らかくして出しやすくするものと腸を刺激して出させるものにわけられます。
下剤を使うとすっきりしますし、楽になったと感じるかもしれません。
しかし、下剤の中には腎臓が悪いと使えないものや、長期間使うと効きにくくなるもの、効きすぎて下痢を発症してしまうものもあります。
主治医と相談しながら自分に合った薬剤を適量使用し、安易に長期間内服を継続しないことが大切です。
市販薬を飲んでも良いのか
糖尿病の方は、医師に相談することをおすすめします。
たしかに市販薬の中には、薬局で処方される薬と同じ成分のものも多くあります。
しかし糖尿病の方は腎臓が悪くなっている場合など、飲めない成分が含まれていたり薬剤同士の相性が悪いこともあるため、医師または薬剤師に相談したほうがよいでしょう。
まとめ
以上、糖尿病は自律神経に障害が起こりやすいため、胃腸の神経の働きが悪くなり便秘を引き起こすとわかりました。
そして治療では食事や運動が優先されますので、まずは自身のできることから始めてみるとよいでしょう。
自覚症状が出にくく、改善へのモチベーションを保ちにくい糖尿病ですが、便秘改善のために生活習慣の改善に取り組んでみるのもいいでしょう。
最後になりますが、当記事があなたのお役に立てると嬉しいです。
なお、弊社の開発する無料アプリ・シンクヘルスでは血糖値や運動の記録がカンタンにできます。ヨガの記録もできますので、日々の血糖コントロールにてぜひ活用してみてくださいね。
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参考文献
・慢性便秘症診療ガイドライン2017
・厚生労働省 e-ヘルスネット
・国立病院機構 三重病院 便秘の話
・J-STAGE 最近の便秘診療