【医師監修】妊娠糖尿病とは〜原因・治療・食事までシンプルに解説〜
当記事は、そのだ内科糖尿病・甲状腺クリニック 渋谷駅道玄坂院 院長 薗田 憲司先生にご監修いただきました。
執筆はライター 前間弘美(管理栄養士)が担当しました。
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今まで糖尿病とは無縁だった方も、妊娠をきっかけに「妊娠糖尿病」になる可能性があります。
妊娠糖尿病とは、妊娠中に糖の代謝異常が起きることです。
妊娠糖尿病はお母さんの体だけでなく赤ちゃんの体にも影響を及ぼすため、不安に感じる方も多いことでしょう。
そこで今回は、妊娠糖尿病についてわかりやすくお伝えいたします。気になる食事の注意点についても解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
妊娠糖尿病とは
妊娠糖尿病とは、まだ糖尿病を発症していない女性が妊娠した際に初めて認められた、糖代謝異常(※)のことです。
(※)血糖値の調整がうまくいかなくなった状態のこと
妊娠糖尿病では糖代謝異常を起こして高血糖になっているものの、糖尿病の域には達していません。
原因
妊娠糖尿病の原因は、主に胎盤から分泌されるホルモンです。
妊娠すると胎盤が形成され、胎盤から血糖値を下げるインスリンの働きを妨げるホルモンが分泌されます。そのため、妊娠中はインスリンが効きにくく、インスリンの分泌量も減った状態となるのです。
このように妊娠中は糖代謝異常を引き起こしやすい条件がそろうため、妊娠糖尿病につながります。
また、以下に当てはまる方は妊娠糖尿病になりやすい傾向があります。
・家族に糖尿病の方がいる
・肥満
・巨大児を出産したことがある
・高齢妊娠(35歳以上)
・原因不明の流産・早産・死産の経験がある
・羊水が多い
もし不安に感じることがあれば、担当医に相談してみましょう。
妊娠前の糖尿病も妊娠糖尿病なのか
妊娠前に糖尿病と診断されていた方は、妊娠糖尿病ではなく糖尿病合併妊娠といいます。
実は妊娠中の糖代謝異常には、妊娠糖尿病・糖尿病合併妊娠・妊娠中の明らかな糖尿病の3種類があります。
・糖尿病合併妊娠:糖尿病と診断されている方が妊娠した状態
・妊娠中の明らかな糖尿病:妊娠前から診断されていない糖尿病があったかもしれない糖代謝異常
妊娠糖尿病と妊娠中の明らかな糖尿病はともに妊娠後に診断されるため、同じことなのでは?と感じますよね。
しかし、妊娠中の明らかな糖尿病は妊娠糖尿病の方よりも血糖値が高く、合併症のリスクや将来糖尿病になる確率も高いことがわかっています。そのため、妊娠中の明らかな糖尿病の場合には、より注意深く管理をしていかなくてはなりません。
なお空腹時血糖値が126mg/dL以上、またはHbA1c6.5%以上の場合に妊娠中の明らかな糖尿病と診断されます。
随時血糖値200mg/dL以上、もしくはブドウ糖負荷試験(※)において2時間値が200mg/dL以上の場合は、妊娠中の明らかな糖尿病について留意しつつ空腹時血糖値やHbA1cの値を確認します。
(※)空腹時にブドウ糖の入った液体を飲んで体内の血糖値の変動を確認する検査
妊娠糖尿病は治るの?
大半の方は出産後、血糖値が正常に戻ります。
ただし、妊娠中に血糖管理をしっかりと行うことが条件となるので、医師や管理栄養士のアドバイスのもと、食事管理などに取り組みましょう。
妊娠糖尿病の検査
妊婦健診の際に採血にて普段の血糖値を測定し、血糖値が高い場合はブドウ糖負荷試験を行います。
そして以下の条件を1つでも満たした場合、妊娠糖尿病と診断されるのです。
・1時間後の血糖値 180mg/dl以上
・2時間後の血糖値 153mg/dl以上
また妊娠初期は問題がなくても、妊娠中期にもう一度検査を受ける必要があります。というのも、妊娠が進むにつれて母体のインスリンの効きは悪くなるからです。
妊娠糖尿病は症状のない場合が多く自分では気づきにくい一方で、妊婦さんの7~9%は妊娠糖尿病と診断されるといわれています。
自分の体と赤ちゃんを守るためにも、きちんと検査を受けることは大切だとわかりますね。
目標値
無事に出産するために目標とされる血糖値は、
・食後1時間の血糖値 140mg/dL未満
または
・食後2時間の血糖値 120mg/dL未満
です。また、HbA1cは6.0~6.5%未満が目標とされています。
妊娠糖尿病の治療
妊娠糖尿病の治療は、食事療法とインスリン療法が基本です。
食事療法
妊娠中の食事は、妊娠糖尿病の治療だけでなく予防のためにも大切です。
大体どのくらいのカロリーを摂取すればよいのか、BMI(※)別に一般的な計算式を載せておきます。
(※)肥満度の判定に用いる体重(kg)÷(身長(m)の2乗)で算出される値
・標準体重×30kcal+負荷量(妊娠初期:50kcal 妊娠中期:250kcal 妊娠後期:450kcal)【BMI25以上】
・標準体重×30kcal(負荷量は加えないことが多い)
ちなみに標準体重は、(身長(m)の2乗)×22で算出できます。
摂取カロリーを計算してみよう
たとえば
・身長155cm
・妊娠前体重50kg
・妊娠中期
の方とします。
BMIは22、標準体重は53kgなので1日の摂取カロリーの目標値は、53(kg)×30(kcal)+250(kcal)=1840kcalです。
実際の摂取カロリーは、血糖値の状態によって主治医が個別に設定しますので、上記はあくまで参考にとどめてくださいね。
インスリン療法
妊娠糖尿病における薬物療法の基本は、注射によるインスリン療法です。飲み薬は胎盤を通して赤ちゃんに伝わってしまうので、基本的には使用しません。
なお、インスリンの中にも妊婦に使って安全なものと、まだ安全を確かめられていないものがあります。必要以上に怖がることはありませんが、主治医の先生の指示に従って正しく使用しましょう。
場合によっては入院も必要
食事療法がうまくいかなかったり、インスリンの調整が必要になったりした場合、入院を勧められることがあります。
1~2週間の入院が多く、適切なカロリー・糖質量の食事を摂り、医療スタッフからの指導によって妊娠糖尿病に対しての知識を深めます。
初めて血糖測定やインスリンを使う人は、入院中に使い方を覚えるための練習をすることもあります。
食事のポイント
食事療法の基本は、適切なカロリー・糖質量の中でバランスよく食べることです。
合わせて、分食・血糖値の上がりにくい食べ方を取り入れると、さらに血糖コントロールに有効な場合もあります。
分食
1日3回の食事では食後の血糖値が高くなりすぎる場合には、1日の食事を4~6回に分けて少量ずつ食べる分食という方法が有効かもしれません。
たとえば、1日の食事を朝食・間食・昼食・間食・夕食の5回にわけます。間食は果物やヨーグルト、軽食などでもよいです。総摂取カロリーが多くならないよう調整してくださいね。
血糖値の上がりにくい食べ方
食物繊維の豊富な野菜やたんぱく質の豊富な肉・魚を最初に、あとからご飯など糖質の多い主食を食べると、血糖値の上昇が緩やかになります。
具体的には、まずサラダやきのこ、海藻などのおかずや肉や魚、卵などのメイン料理を食べます。そして、ご飯やパンなど糖質の多い主食を食べるとよいでしょう。
参考記事:血糖値を上げない食べ方について管理栄養士が解説~順番や糖質量も~
妊娠糖尿病による母体・胎児へのリスク
妊娠糖尿病になると、帝王切開になる確率が上がるほか、胎児の命にかかわる場合もあります。
下の表に、妊娠糖尿病による母体と胎児へのリスクをまとめました。
不安に感じすぎる必要はありませんが、可能性があることは知っておくとよいでしょう。
胎児への影響
妊娠糖尿病による胎児の奇形は、糖尿病の治療開始時期によって発症率が異なるといわれています。
2016年の時点で、糖尿病ではない妊婦さんの奇形発生率は1.7%、妊娠前に糖尿病の治療を開始している妊婦さん(糖尿病合併妊娠)の奇形発生率は2.1%といわれており、大差はありません。
しかし、妊娠後に糖尿病の治療を開始した妊婦さんの奇形発生率は9.0%と高確率です。妊娠中に血糖管理のうまくいっていない期間が長くなるほど発生率は高くなるといわれています。
つまり妊娠糖尿病による奇形を少しでも予防するためには、
・妊娠後は妊婦健診を受ける
・もし糖尿病と診断されたらすぐに治療を開始し継続する
以上を守ることが大切です。
出産後の注意点
出産後6~12週間後に再度ブドウ糖負荷試験を受け、妊娠糖尿病が治っているかを確認します。
ただし妊娠糖尿病になった人は、ならなかった人と比べて将来糖尿病になりやすいといわれています。そのため、たとえ出産後に妊娠糖尿病が治っていたとしても、定期的に検診を受けて血糖値の状態を確認しましょう。
1型糖尿病や2型糖尿病について知りたい方はこちらへ
・1型糖尿病とは〜原因・症状から治療と生活の注意点をわかりやすく解説〜
・2型糖尿病とは〜原因・予防・治療のポイントを初心者向けに解説〜
まとめ
妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めて糖の代謝異常が起きることです。
妊娠中はホルモンなどの影響で、インスリンが効きにくくインスリンの分泌量も減るため、糖代謝異常を引き起こしやすいです。
妊娠糖尿病は母体や赤ちゃんに影響があるので、必ず適切な治療を受ける必要があります。治療の基本は食事療法とインスリン療法です。
また、出産後に正常な血糖値に戻ることは多いですが、将来糖尿病になりやすいので定期的に血糖値を調べることをおすすめいたします。
それでは当記事が、妊娠糖尿病で不安を感じているお母さんの役に立つとうれしいです。
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血糖変動を把握するだけでなく、食事・運動・服薬と照らし合わせることができるので、「何を食べると、どのような運動をすると自身の血糖が上がるか、下がるか」を1つのアプリで把握することができます。
※CGMについて知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
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参考文献
医療情報科学研究所編 病気がみえるvol.3 糖尿病・代謝・内分泌 第5版 P96-97
国立研究開発法人国立成育医療研究センター 妊娠と妊娠糖尿病
公益社団法人日本産科婦人科学会 妊娠糖尿病
日本糖尿病・妊娠学会 糖尿病と妊娠に関するQ&A
国立国際医療研究センター(糖尿病情報センター) 妊娠と糖尿病