【医師監修】1型糖尿病とは〜原因・症状から治療と生活の注意点をわかりやすく解説〜
当記事は、そのだ内科糖尿病・甲状腺クリニック 渋谷駅道玄坂院 院長 薗田 憲司先生にご監修いただきました。
執筆はライター 前間弘美(管理栄養士)が担当しました。
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1型糖尿病は、インスリンを分泌する臓器である膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンをほとんど出せなくなる病気です。
いきなり1型糖尿病と診断されると、困惑する方は多いでしょう。さらに、一生インスリン注射をし続ける必要があり、治療に関しても気持ちの整理が追い付かない方もいらっしゃると思います。
そこで今回は、1型糖尿病についてわかりやすくお伝えします。原因や症状、治療、そして寿命についても解説しますので、最後までご覧ください。
目次
1型糖尿病とは
1型糖尿病は、膵臓のβ細胞(インスリンを出す細胞)が壊されてしまう病気です。膵臓からインスリンが出なくなるため、食事などで上がった血糖値が下がらず高いままとなります。
1型糖尿病は世界的にみても少なく、糖尿病全体の約5~10%の割合です。子どもなど若い人を中心に発症しますが大人になってから発症する人もいます。
また1型糖尿病は3つに分類され、それぞれ進行スピードが異なります。
・劇症型:進行スピードが速く、1週間前後でインスリン注射が必要となる
・緩徐進行型:半年から数年にかけてインスリンが徐々に分泌されなくなる
参考記事:インスリンとは〜糖尿病との関係・療法・注射の使い方を分かりやすく解説〜
症状
1型糖尿病は2型糖尿病に比較して、糖尿病症状が出る頻度が非常に高いです。
・水分を多く飲む
・尿の量が多い
・疲れやすさ
・体重が減る
・昏睡
などがあります。
とくに、口の渇き・水分を多く飲む・尿の量が多い、の3つの症状は、口渇・多飲・多尿と呼ばれ、1型糖尿病の代表的な症状です。
インスリンが分泌されなくなると、血液中のブドウ糖濃度の高い高血糖状態が長く続きます。すると血液中のブドウ糖濃度を薄めるために、私たちの体は水分を欲しがります。つまり高血糖状態が続くことで、口が渇き、たくさん水分を摂り、最後は尿として多くの水分が排出されるのです。
1型糖尿病の場合、口渇・多飲・多尿といった症状が急にあらわれることで異変に気付くこともあります。
参考記事:喉が渇くのは糖尿病が原因?〜理由・対処法を分かりやすく解説〜
原因
1型糖尿病の原因は自己免疫(※)と言われていますが、実際はよくわかっていません。
(※)誤って自分の細胞を攻撃してしまう免疫反応
自己免疫が原因の場合は、もともと遺伝的にβ細胞を攻撃されやすい体質の方が、ウイルス感染によって自己免疫ができ1型糖尿病になると考えられています。
また原因不明な場合は、自己免疫反応は起こりません。自己免疫以外のなんらかの原因で、β細胞が破壊され1型糖尿病になります。
1型糖尿病の検査
糖尿病の検査は血液検査で行います。
一般的に、糖尿病の検査に必要な項目は血糖値とHbA1c(※)です。そして1型糖尿病の場合は、抗GAD抗体と呼ばれる1型糖尿病に特徴的な自己抗体の測定も必要です。
(※)過去1~2か月の血糖値の平均をあらわす値
さらにインスリン分泌の程度を調べるほか、ケトン体の測定を採血や尿検査で行うこともあります。
診断基準に関しては非常に複雑で、急性発症・劇症・緩徐進行型でバラバラのため、専門医の診察が望ましいです。
治療はインスリン療法が基本
1型糖尿病はインスリンの分泌不足が原因であり、インスリンを補充する必要があります。そのため、治療はインスリン療法が中心です。
インスリン療法には、インスリン頻回注射療法と持続皮下インスリン注入療法があります。
インスリン頻回注射療法は、1日原則4回(食事前+寝る前)のインスリン注射を打つ方法です。
持続皮下インスリン注入療法は、インスリンポンプを使用して持続的にインスリンを注入したり、食事の前に追加でインスリンを注入したりする方法です。
最近では、SGLT2阻害薬という尿に糖を捨てる薬が保険適応になりました。妊娠を考えていない、肥満合併の1型糖尿病の方にはいい適応にもなりますので、受診先の医療機関ともご相談ください。
低血糖に注意
1型糖尿病は血糖値のコントロールが難しいため、インスリンの量が多い場合や、運動によってインスリンが効きすぎると低血糖を起こす可能性があります。
そのため、急に低血糖の症状(頻脈・冷汗が出る・手が震えるなど)が起きた時に食べられるブドウ糖や飴、ジュースを常に持ち歩きましょう。夜間に低血糖を起こしやすい場合や激しい運動をする前に、予防的にビスケットなどを食べる場合もあります。
なお、倒れた際に1型糖尿病の低血糖症状であるとわかるように、手帳などに対応方法を書いて持ち歩いておくとよいかもしれません。
またヘルプマークに記入しておくほか、一緒にヘルプカードを入れておく方法もおすすめです。
【ヘルプマーク】
(東京都福祉局HPより引用)
参考記事:低血糖とはどのような症状?~原因や高血糖についてもわかりやすく解説~
食事制限は必要なのか
1型糖尿病の場合、基本的には厳密な食事制限などはなく、常識の範囲内で何を食べても大丈夫です。
ただし、生活スタイルや食事の内容によってインスリンの調整が必要なので、日頃の食事内容や量について主治医や栄養士と共有する必要があります。
また肥満がある場合は、適正体重に近づけるような食事療法をすることが望ましいです。
血糖値は糖質と大きな関わりがあります。そのため、糖質の摂りすぎや抜きすぎには注意が必要です。食事の糖質量を把握しながら、生活できるとよいですね。
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日常生活での注意点
1型糖尿病の方は、正しい治療を継続していれば健康な方と変わらない日常生活を送れます。
とはいえ、注意しなければならないことはあります。そこで、
・妊娠
・子どもの場合
の3つの注意点をまとめました。
治療と仕事の両立
1型糖尿病と仕事を両立するには、上司や信頼できる人に相談することが大切です。もちろん1型糖尿病でも仕事はできます。ただし、
・仕事中に低血糖を起こす
といった、働く際の不安があるのも事実です。
主治医や家族、職場の人と相談しつつ治療と仕事を両立しましょう。
参考記事:糖尿病と仕事の両立は大変?~周りの人にお願いしたいサポートも解説~
妊娠
1型糖尿病の方でも、妊娠・出産をされている方は多くいます。
しかし、血糖コントロールが悪い場合や合併症が進行している場合は、あなただけではなく、お腹の中の赤ちゃんにも負担がかかります。
そのため、日頃から適切な治療や血糖コントロールを行い、事前に妊娠を希望していると主治医に相談しましょう。
子どもの場合
学校に通う子どもさんの場合、家庭・病院・学校が連携し対応をしていくことが大切です。
保護者が主治医・医療関係者・学校の先生と連携を取り、
・低血糖になったらどう対処するか
・捕食はどこで誰が管理するのか
・体育や課外活動での注意点
など、さまざまな場面の対応を考えておく必要があります。
また、子どもの学校生活に欠かせないのが友達との関わりです。学校の友達には、1型糖尿病についてどうやって話すか・どこまで話すかを決めておくことが大切です。
【番外編】 1型糖尿病の有名人はいるの?
1型糖尿病と上手に付き合いながら、さまざまなところで活躍している人たちは沢山います。
たとえばスポーツ選手であれば、元阪神タイガースの岩田稔さんは1型糖尿病です。元ヴィッセル神戸、現アンドラ(スペイン)のセルジ・サンペールさんは1型糖尿病であり、現役のサッカー選手でもあります。
またイギリスのテリーザ・メイ元首相は、1型糖尿病と付き合いながら精力的に政治活動を行っています。
最近ではSNSで自身の病状を発信し、同じ糖尿病の方とのつながりを持って励まし合いながら病気と向き合うという方も多いです。
それぞれのステージで活躍している1型糖尿病の方の存在は、同じ病気の方へ勇気や希望を与えてくれますね。
※1型糖尿病と闘いながらSNS発信をし、さらに現在自転車で日本一周の挑戦を続ける本間太希さんをご紹介した記事はこちら→「25歳で突然1型糖尿病になってから日本一周するまで」
糖尿病の方の寿命について
2001~2010年に行われた日本全国241か所の病院を対象としたアンケート調査によると、1991~2000年の調査結果と比べて男性で3.4歳、女性で3.5歳寿命が延びているとわかりました。
調査結果によると、2001~2010年の糖尿病の方の平均死亡時年齢は男性71.4歳、女性75.1歳です。これは、同時期の一般的な日本人の平均寿命と比べると男性で8.2歳、女性で11.2歳ほど短命です。
ただし平均寿命の伸びでみると、一般的な日本人の男性は2.0歳、女性は1.7歳と、同時期の糖尿病の方の寿命が改善されているとわかりますね。
また1型糖尿病は直接の死因ではなく、合併症が原因で余命が失われると考えられます。正しい治療を続けて合併症を予防することで、糖尿病の方の寿命はさらに改善されるといえるでしょう。
1型糖尿病は治る病気なのか
現在、1型糖尿病が完治する治療法はないものの、研究は進められています。
まず先端治療として、膵臓の移植や膵島(インスリンを作る細胞)移植などがあります。
成功すれば、1型糖尿病であっても体の中でインスリンを作られるようになり、インスリン治療が必要なくなる場合も。ただし、移植を受ける負担が大きいのと移植後の拒絶反応を抑えるための免疫抑制療法が必要になります。
研究中の治療としては、iPS細胞(※)を使って膵臓のβ細胞を作るという再生医療や、1型糖尿病の原因である自己免疫を抑える治療である免疫療法などが研究されています。
(※)自分の細胞を使って体のあらゆる細胞や組織になれる
その他に、自己免疫疾患の治療に使われている薬が糖尿病に効果があるのではないかと研究をする動きもあるようです。
また、インスリンの投与や治療を行うことで、制限のない日常生活を送ることができます。正しい治療は合併症の予防にもつながるので、医師と相談しながら治療を続けていきましょう。
2型糖尿病や妊娠糖尿病について知りたい方はこちら
・2型糖尿病とは〜原因・予防・治療のポイントを初心者向けに解説〜
・妊娠糖尿病とは〜胎児への影響・予防・食事までをシンプルに解説〜
まとめ
1型糖尿病は膵臓のβ細胞(インスリンを出す細胞)が壊されてしまう病気です。原因は自己免疫と言われていますが、まだ詳しくはわかっていません。
1型糖尿病の治療はインスリンが中心です。しかし適切な治療を続ければ、健康な人と同じように日常生活を送れます。
それでは、当記事を参考に1型糖尿病について理解していただけると、うれしいです。
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参考文献
医療情報科学研究所 病気がみえるvol.3 糖尿病・代謝・内分泌 第5版 メディックメディア 18-21
国立国際医療研究センター糖尿病情報センター 1型糖尿病ってどんな病気? 1型糖尿病の治療について 1型型糖尿病と付き合っていく
J-STAGE アンケート調査による日本人糖尿病の死因 ―2001∼2010 年