インスリンとは〜糖尿病との関係・療法・注射の使い方を分かりやすく解説〜

「インスリンって言葉はよく聞くけど、詳しく知らない」
「インスリンを打つってどういうこと?」
糖尿病でしばしば耳にする言葉の一つ、インスリン。実は、インスリンは糖尿病と切っても切れない関係にあるものです。
そこで本記事では、インスリンと糖尿病の関係・療法・注射の使い方について分かりやすく解説していきます。
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目次
インスリンとは?
インスリンとは、私たちの体の中にあるホルモンの1つです。
ホルモンは、私たちの体の中で必要なさまざな働きを調整する化学物質です。
インスリンには大きく分けて3つの働きがあります。
①筋・肝臓・脂肪組織へ糖を取り込むことを促進して血糖値を下げる
②取り込んだ糖からグリコーゲン(※1)や脂肪を合成して貯蔵する
③筋肉や血液のもととなるタンパク質を合成して成長を促進する
※1:グリコーゲンとは、体内でエネルギーを一時的に保存しておくための物質で、糖がたくさん繋がった構造になっているもの
私たちの体の中に血糖値を上げる効果のあるホルモンはいくつかありますが、血糖値を下げるホルモンはインスリンだけです。
インスリンと血糖値の関係
インスリンは血糖値を一定に保つホルモンで、糖尿病と深い関係にあります。
糖質を含むものを食べると、消化吸収されてブドウ糖になり血液の濃度(血糖値)が上がります。するとすい臓からインスリンが分泌されて筋肉や肝臓・脳に血糖を取り込み、血糖値を下げようとするのです。
インスリンが分泌されなくなったり、インスリンが効きにくくなったり、といった状態では血液中のブドウ糖を上手に処理できなくなります。結果として細胞に糖が正常に取り込めず高血糖になります。これが糖尿病です。
インスリン抵抗性について
インスリン抵抗性とは、インスリンは分泌されているのに効果を十分に発揮できない状態のことです。インスリンが効きにくくなって、細胞が効率よく糖を取り込むことができず、血糖値を上昇させる要因となります。
インスリン抵抗性が起こる理由としては、インスリン感受性(※2)に関わるさまざまな遺伝子が異常を起こしていたり、肥満・食べ過ぎ・油の多い食事・運動不足・ストレス・加齢などの環境因子が関与したりしています。
※2:インスリン感受性とは、細胞に送ろうと働いているインスリンとブドウ糖が結合したものを受け取る働きのこと
どのような時にインスリン療法が必要になるのか
糖尿病には食事療法や運動療法など様々な治療がありますが、インスリン療法も治療の1つです。では、どのような時にインスリン療法が必要になるのか説明していきます。
参考記事:糖尿病の薬「メトホルミン」とは〜効果から副作用までポイント解説〜
1型糖尿病の治療
1型糖尿病はインスリン療法が治療の中心です。なぜなら、1型糖尿病はインスリンを分泌するすい臓のβ細胞が破壊される病気だからです。
インスリンは、血糖値を上げるホルモンの動きに対して常に分泌を続ける基礎分泌と、食事後などに急速に血糖値が上がることに対して分泌を行う追加分泌というものを行います。
1型糖尿病の場合は基礎分泌も追加分泌も障害されてしまうため、寝る前や朝に基礎分泌を補うためのインスリンと、食事の前に追加分泌を補うためのインスリンを打つことが必要です。基本的には1日4回のインスリン注射が必要です。
参考記事:1型糖尿病とは〜原因・症状・治療を分かりやすく解説〜
2型糖尿病の場合
2型糖尿病においては、糖尿病の状態に合わせて主治医が治療法を検討します。
インスリン依存状態(※3)がない場合、まずは食事療法・運動療法です。それでも血糖値のコントロールが上手くいかない場合は、血糖値を下げるお薬の飲んだりインスリン注射を打ったりします。
インスリン依存状態の場合、1型糖尿病のインスリン治療と同じように頻回にインスリン注射が必要です。併せて食事療法や運動療法を行います。
※3:インスリン依存状態とは、インスリンの分泌がほとんど、もしくは全くなくなった状態で、常にインスリン注射をして補う必要がある状態のこと
インスリンを用いた早期治療のメリットとは
2型糖尿病においては、食事療法・運動療法・血糖値を下げるお薬によって血糖値のコントロールができない場合や、高血糖による糖毒性(※4)を解消するためにインスリン療法を行う場合があります。
インスリン療法をして膵臓を休ませることで、膵臓の機能を保ったり回復させられて糖毒性が解除できます。結果としてインスリン注射の回数を減らせたり、飲み薬だけの治療に戻せる可能性もあるのです。
このことから、比較的早期にインスリン療法を取り入れることが効果的と考えられています。
※4:糖毒性とは、高血糖が起こりインスリンを分泌する膵臓が障害され、インスリンの分泌量が低下したりインスリン抵抗性が起きたりして、さらに高血糖になり血糖コントロールが悪化すること
インスリン注射による治療について
それではインスリンを体内に取り入れるに使われる注射の種類についても説明しますね。
注射器の使い方と注射部位について
あわせて注射器の使い方と注射部位について説明します。
注射器の使い方
①必要な物品を用意し、注射薬の残量を確認
②手を洗う
③懸濁製剤の場合、上下に振り手の中で転がして全体が白っぽく均一になるように混ぜる
④注射する部位を決める
⑤注射製剤のゴム栓を消毒し針をつけてキャップを外す
⑥空打ち(注射製剤を指定された量に合わせて注入ボタンを押して液が出ることを確認する)
⑦医師の指示通りの注射の量に単位を合わせる
⑧注射部位を消毒し、注射針を皮膚に垂直に刺す
⑨注入ボタンを0になるまで押し、押し込んだまま10秒数えたらゆっくり抜く
⑩針にキャップをつけて外し、針捨てに捨てる
⑪注射製剤にキャップをつけて直射日光を避けた室温で保管する
注射部位
注射するのに良い部位は、お腹・上腕の外側・お尻・太ももなどです。
薬が効いてくるのが早い順番に並べると、お腹→上腕→お尻→太ももになります。
同じ場所に注射を続けるとその部分が脂肪に変化して固くなり、薬を上手く吸収できなくなってしまいます。注射を打つ部分は毎回少しずつずらしましょう。
注射器の使い方はそれぞれの製剤によってパンフレットがあることが多いです。主治医の先生に『インスリンを始めましょう』と言われたら、パンフレットがあるか聞いてみると良いかもしれませんね。
インスリン注射による副作用に注意
インスリン注射の副作用として注意をして欲しいのは低血糖です。インスリンは血糖値を下げるお薬ですので、血糖値が下がりすぎて低血糖になってしまうこともあります。
汗をかく、脈がはやくなる、手や指が震えるといった症状が出たら低血糖を疑って血糖測定をしましょう。低血糖になっていたら、ブドウ糖を内服するなど適切な行動を取れるようにしましょう。
太ることはあるの?
インスリンには、脂肪やタンパク質を合成する働きがあるので太る場合があります。ただし、血糖値のコントロールをするためにインスリン注射は必要なので、食事や運動なども組み合わせて標準体重を目指していれば大丈夫です。
インスリンポンプの特徴
インスリンポンプを使用して持続的に超速効型、もしくは速効型インスリン製剤を注入する方法を持続皮下インスリン注入療法(CSII)といいます。
インスリンポンプは事前にプログラムした投与量やタイミングでインスリンを補うことができますし、必要な場合はインスリン量の微調整も可能です。インスリンの頻回注射では十分な血糖コントロールができない方や、手術前後の血糖コントロール、妊娠中の糖尿病など、厳重な血糖コントロールが必要な場合に用いられることが多いです。
まとめ
それでは本日のまとめです。
・1型糖尿病ではインスリン治療が中心
・2型糖尿病でも病状に合わせてインスリン治療をすることがある
・早期にインスリンを導入することで、糖毒性を解消できることがある
・インスリンを使用しているときは、低血糖に注意が必要
あなたがインスリンを使って治療するとき、本記事が治療の支えになると嬉しいです。
なお、弊社の開発する無料アプリ・シンクヘルスでは血糖値や食事の記録がカンタンにできます。運動や血圧なども記録できますので、ぜひ活用してみてくださいね。
参考文献
医療情報科学研究所(2019):病気がみえるvol.3 糖尿病・代謝・内分泌 第5版
国立国際医療研究センター糖尿病情報センター(2016):血糖値を下げる注射薬