【医師監修】糖尿病のある方はうつ病を併発しやすい?心との関係や治療法を紹介
当記事は、一般社団法人健幸会 シンクヘルスクリニック 代表理事・院長 大村 美穂先生にご監修いただきました。執筆は、臨床心理士・公認心理師 石倉美希が担当しました。
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「なんだか気分が落ち込むな・・・」
「最近どういうわけか体調が良くないんだよね・・・」
と感じることはありませんか?
実は糖尿病のある方は病気による体調不良、さらに治療のストレスが原因でうつ病になりやすいと言われています。また逆に、糖尿病の発症のきっかけとして、うつ病が関係していることもわかっているのです。
一方で、糖尿病とうつ病の治療を同時に行うと、相互的に治療の効果を高めることもわかっています。そこで今回は糖尿病とうつ病の関係や予防についてわかりやすく紹介していきます。
当記事を読むことで対処法がわかり、少しでも生活が楽になればと思いますので、最後までお付き合いください。
目次
糖尿病とうつの関係
冒頭でもお伝えした通り糖尿病の方はうつ病になりやすいと言われていますが、その理由の全てが明らかになっているわけではありません。
なので最近では、糖尿病とうつ病の間には複雑かつ様々な要因があるのではないかと、日々研究がなされています。
ちなみにうつ病は、精神的なストレスや身体的なストレスが重なるなどの様々な理由で、脳が上手く働いてくれない状態のことです。
糖尿病の方がうつ病になりやすい原因
以下のものがストレスに感じられ、主な原因になっていると考えられています。
・食事制限などの自己管理を求められる等、生活習慣を変えなければいけないこと
・様々な合併症の発症や進行によって心や体に苦痛が生じること
・糖尿病の治療が長く続いていくこと
全ての糖尿病の方にあてはまるわけではありませんが、これらが原因となり過度にストレスがかかって、うつ病を発症する可能性はあります。
心の不調は血糖値を上げるのか
糖尿病の人がうつ病になると、血糖管理が難しくなる可能性があります。
例えば、うつ病になると体内のホルモンや自律神経といった機能に影響が生じるので、その影響でインスリンの作用が弱くなると考えられているのです。
インスリンの作用が弱くなるということは、血糖値を下げる作用が弱くなるということなので、血糖値が上がる可能性があります。
また、うつの影響で意欲や集中力が低下すると、薬を飲み忘れる、食事療法や運動療法に取り組めない、通院ができないといった治療にマイナスの影響が生じる可能性があります。そのため、血糖値が高くなったり、逆に低血糖になったりする危険性も考えられるのです。
参考記事:糖尿病の治療を中断したい理由とは?~理由に応じた解決法もご紹介~
うつ病が2型糖尿病の発症リスクを増加させる
糖尿病の治療が続くことのストレスや、合併症などによる苦痛がうつ病につながるとお伝えしましたが、逆にうつ病が糖尿病の発症リスクを高めることもわかっています。
海外の研究では、うつ病が2型糖尿病の発症リスクを1.26倍に高めると報告されているのです。
2型糖尿病の発症は、遺伝的要因や生活習慣の乱れがあげられ、生活習慣の乱れによる肥満は、糖尿病の発症と深く関係しています。しかし、うつ病になると肥満解消のために運動するなど、生活習慣を整えることが難しいため、2型糖尿病を発症しやすくなります。
参考記事:【医師監修】2型糖尿病とは〜原因・症状や治療についてわかりやすく解説〜
うつ病の症状
うつ病では、いつもと同じ環境なのにやる気が出ない・憂うつな気持ちになるなど気分の落ち込みが現れます。まただるい・頭痛がする・耳鳴りといった体の不調も、うつ病が原因で生じることがあるのです。
うつ病の症状についてもう少し例を挙げてみますね。
こころの不調 | からだの不調 |
・何をしても憂うつな気持ちが消えない ・気分が落ち込む ・前は楽しかったことが楽しくない ・自分を大切に思えない ・失敗していないのに罪悪感がある ・死にたいと思う | ・体重が減った ・食欲がない ・眠れなかったり眠すぎたりする ・動きや話し方が遅くなった ・落ち着きがなくなり動き回っている ・性欲が減った |
参考記事:ストレスで起こる体や心の異変~生活習慣病への影響も解説~
参考記事:糖尿病とストレスの関係~適度にリラックスして生活しよう~
うつ病=やる気がなくなること?
「うつ病ってやる気がなくなる病気ですよね…」というあなた。確かにうつ病では、気分が落ち込んだり楽しい気持ちになれなかったりする症状が見られます。そのため「仕事にやる気が出ないんだけど、うつ病かな…」と思うこともあるでしょう。
ただうつ病には色々な症状があります。なので、うつ病=やる気がなくなることと決めつけないようにしましょう。
不安障害との違い
うつ病では気分の落ち込みなどがみられるのに対し、不安障害では日常生活に支障を来すほどの強い不安を感じて物事ができなくなったり、息苦しさやめまいを感じたりする症状が出ます。
不安障害の影響で段々外出をすることが難しくなるなど、生活全体が不安感情に支配されると、うつ病と同様に糖尿病の治療に必要な行動が取れなくなる場合があります。うつ病と不安障害は併発することが多く、いずれも早めに治療するのが大切です。
ちなみに、糖尿病のある方の約13%は不安障害と診断され、薬物療法でコントロールしている方もいらっしゃいます。
糖尿病とうつ病の治療について
もしも、糖尿病のある方がうつ病のような症状を感じたら、かかりつけの主治医(内科)に相談して精神科または心療内科を受診しましょう。
治療方法は個々の状態によりますが、おもに服薬や認知行動療法など心理学的な治療法を組み合わせて行います。
じつは、糖尿病の治療と同時にうつ病の治療にも取り組むことで血糖値の安定化につながり、結果として糖尿病単体の治療よりも病態の改善につながることが分かっているのです。
糖尿病もうつ病も、そのまま放置してしまうとより状態が悪化し、命に関わることもあるため、早期の治療開始が望ましいといえます。
うつ病にならないために
糖尿病のある方がうつ病を引き起こさないためには、食事や睡眠など生活習慣の改善が必要です。
いくつかのポイントをご紹介しましょう。
①生活習慣を見直す
まずは、ストレスを抱え込まないバランスの取れた生活習慣が大切です。例えば、毎日ちゃんと睡眠を取るといった行動が、うつを防ぐことに繋がります。
参考記事:不眠は血糖値に影響する?糖尿病と睡眠の深い関係を徹底解説
②食生活を見直してみる
うつにならないためには、バランスの良い食生活が大切です。そしてバランスの取れた食生活は、糖尿病の食事療法としても有効です。
とくにうつ病の原因の1つとして、「セロトニン」という脳の神経伝達物質の不足が考えられています。セロトニンは「トリプトファン」という成分から作られています。
そのため、トリプトファンが多く含まれる食べ物を摂取することがおすすめです。
一方で、極端な取りすぎには注意が必要です。医師や管理栄養士に相談すると良いでしょう。
参考記事:自律神経を整える食べ物を栄養面から解説~飲み物や避けたい食生活も~
③日光を浴びて運動する
日の当たる時間が1時間増加すると、CES-D スコア(うつ病事項評価スコア)が低下することがわかっています。
また、運動は糖尿病の治療にも繋がりますので、屋外での運動を積極的に取り入れてみると良いかもしれません。
参考記事:糖尿病に運動が良いのはなぜ?~効果や方法を知って血糖値を改善しよう~
④ストレスと上手に向き合う
過度なストレスは、うつ病にも糖尿病にもよくありません。しかし、ストレスをゼロにすることはできないため、日々の工夫で上手にストレスを発散するとよいでしょう。
ストレス発散の方法として、コーピングリストの活用がオススメです。
ストレスへの対処方法をあらかじめリスト化することで、過度にストレスが溜まる前に発散しやすくなります。
参考記事:コーピングリストでストレスに備える!~具体例100個もご紹介~
まとめ
それでは、今回の記事のまとめです。
・うつ病はストレスが重なるなどの理由で脳が上手く働かない状態
・不安障害は何か行動ができなくなったり息苦しさやめまいを感じる
・うつになると血糖コントロールが難しくなることがある
・うつを予防するためには、生活習慣・食生活を見直す、日光を浴びる生活がオススメ
本記事を参考に、楽しい毎日を送れるように、心と体のバランスをしっかり取っていただけると幸いです。
なお、弊社の開発する無料アプリ・シンクヘルスでは血糖値や食事の記録がカンタンにできます。運動や血圧なども記録できますので、ぜひ活用してみてくださいね。
参考・引用文献
国立国際医療研究センター糖尿病情報センター(2016):うつ病,(参照:2020年12月4日)
厚生労働省:e-ヘルスネット 糖尿病とこころ,(参照:2020年12月4日)
厚生労働省:知ることからはじめようみんなのメンタルヘルス うつ病,(参照:2020年12月4日)
独立行政法人農畜産業振興機構 タンパク質と脳の栄養〜うつ病とタンパク摂取~
双方向メンデル無作為化とマルチフェノタイプGWASは、うつ病と2型糖尿病との間の因果関係と共有された病態生理学を示しています |糖尿病ケア |米国糖尿病協会 (diabetesjournals.org)
服薬アドヒアランスを改善するための2型糖尿病とうつ病治療の統合管理:ランダム化比較試験 |家庭医学年報 (annfammed.org)
うつ病発症と日照度の関連に関する文献レビュー 厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)分担研究報告書