【医師監修】糖尿病の人は熱中症になりやすいの?~原因や水分補給法も紹介~
当記事は、内科認定医・糖尿病専門医 古賀 萌奈美先生にご監修いただきました。執筆はライター 松原知香(管理栄養士)が担当しました。*シンクヘルスブログ監修・執筆者情報一覧はこちらをご覧ください
気温が上がる季節になると、熱中症のニュースをよく耳にしますよね。
熱中症とは、高温多湿な環境下にいることで体温調節機構がうまく働かなくなり、体温に熱がこもった状態をいいます。
じつは、糖尿病の方は血糖値や薬の影響で熱中症になりやすいといわれており、糖尿病ではない人より注意が必要です。
一方で、水分補給でよく飲まれるスポーツドリンクは糖分が多いため、糖尿病の方は血糖値が上がる不安から、飲んでよいのか迷うこともあるでしょう。
そこで今回は、糖尿病の人が熱中症になりやすい理由をわかりやすく解説し、熱中症のサインや血糖値に配慮した水分補給法についてご紹介します。
ぜひ最後までご覧ください。
目次
糖尿病の人が熱中症を起こしやすい原因
糖尿病の方が熱中症になりやすい要因は複数ありますが、今回は
・血糖降下薬
この2点にフォーカスして解説します。
自律神経障害により汗が出にくい
糖尿病などにより高血糖状態が続くと、自律神経障害がみられ、汗によって体温を調節する機能がうまく働かなくなります。
汗が出にくくなるなど汗の出る量を調節できなくなるため、体内に熱がこもったままうまく放出できずに、体温を下げられなくなるのです。
このような状態が続き、体温が高いまま維持されると熱中症になってしまいます。
薬による副作用
糖尿病治療薬の1つである「SGLT2阻害薬」には、副作用として尿量の増加がみられるため、体内の水分が過剰に失われて脱水症状になる可能性があります。
SGLT2阻害薬は腎臓に働きかけて、血液中で余った糖を尿として体の外に出すことで血糖値を下げます。糖を尿と一緒に出す際、通常よりも尿の量が多くなり体の水分が減るため、脱水症を起こす可能性があるのです。
脱水状態になると汗が出にくくなり、体温を下げられないため熱中症になってしまいます。
またインスリンによる血糖管理を行っている方の場合、インスリンを高温の場所に放置していると、インスリンが変性し十分に作用しなくなります。
参考記事:【医師監修】SGLT2阻害薬とは 〜種類一覧・副作用・市販薬についても解説〜
熱中症になるとどうなるの?
熱中症は症状の重症度によって3つの段階にわけられます。
重症度Ⅰ (軽傷) | 重症度Ⅱ (中等度) | 重症度Ⅲ (重症) | |
主な症状 | 意識がある 手足のしびれ めまい 立ちくらみ 足がつる | 意識が薄い 頭が痛い だるい | 意識がない けいれん 体が熱い |
対処方法 | 涼しい場所で休む 水分補給 | 医療機関の受診 | 救急搬送 |
※熱中症環境省保健マニュアル2022を参照
ちなみに、熱中症とよく似た「熱射病」という言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。熱射病は熱中症の1つで、熱中症の重症度Ⅲの状態を指します。非常に危険な状態なので、該当する症状がみられた場合は迅速な救急搬送が求められます。
熱中症は症状が進むと命に関わるため、初期の症状で食い止めることが大切です。少しでも体の異変を感じたら、涼しいところに移動し、衣服を緩めて体を休めましょう。
首元や脇、太ももの付け根など大きな血管が通っている場所を保冷材や濡れタオルで冷やし、ゆっくり水分補給をすることもお忘れなく。
対処をしても症状が改善しない場合、意識障害がある場合にはすぐに医療機関を受診しましょう。
こまめな水分補給で熱中症を予防
熱中症の予防には、前段階である脱水状態にならないことが大切です。
そのため、こまめな水分補給が欠かせません。
そこで、糖尿病の方が水分補給をする際のポイントをお伝えします。
普段は水またはお茶で水分補給する
糖尿病の方が水分補給をする際は、通常は水かお茶をこまめに飲むようにしましょう。
1日1.2L以上を目安に、一度にたくさん飲むのではなく少しずつこまめに飲むとよいです。
経口補水液は糖尿病でも飲めるのか
糖尿病の方でも経口補水液は飲めますが、熱中症予防として日常的に摂取することはオススメできません。
経口補水液には、水分が吸収されやすい比率で糖やミネラルが含まれています。とくに糖尿病性腎症の方は糖質に加えて、ナトリウムやカリウムなどのミネラルについても制限があるため、通常の食事に経口補水液を加えるとミネラルの過剰摂取になる可能性もあります。
スポーツドリンクはどう?
糖尿病の方が、熱中症予防として日常的にスポーツドリンクを飲むことはオススメできません。
なぜなら、熱中症予防に飲む方も多いスポーツドリンクは、砂糖が多く含まれており血糖値を急激に上昇させてしまうからです。
そもそもスポーツドリンクの目的は、水分補給よりもエネルギーやミネラルの補給にあります。飲み過ぎた場合、エネルギーの摂り過ぎとなるので注意しましょう。
また、人工甘味料を活用しカロリーや糖質を抑えたスポーツドリンクも販売されていますが、飲み続けることでより強い甘みを求めるようになり、結果として血糖管理へ悪影響があるとされています。
スポーツ飲料は運動時や長時間外出する際にのみ摂取するとよいでしょう。
参考記事:【医師監修】人工甘味料は血糖値を上げないって本当?~デメリットも解説~
糖尿病や糖尿病性腎症などで食事指導を受けている方は、自己判断で飲むのではなく、必ず主治医や管理栄養士に相談しましょう。
糖尿病がなくても要注意
糖尿病ではない方でも、スポーツドリンクなど糖質が多い飲み物を日常的に飲んでいると、急性の糖尿病をひきおこす可能性があります(ペットボトル症候群またはソフトドリンクケトーシスという)。
糖尿病ではない方も普段の水分補給は水やお茶にして、スポーツドリンクは汗をかいたときだけなど、限定的に使用するよう心がけましょう。
参考記事:上手に活用したいスポーツドリンク~糖質量とその比較までポイント解説~
水分補給以外の熱中症予防法
熱中症にならないためには、こまめな水分補給の他に高温多湿の環境を避けることも効果的です。
環境省の熱中症予防情報サイトでは地域ごとに「暑さ指数(WBGT)」を示し、熱中症予防の啓蒙を行っています。
熱中症に対する危険度を色別にして毎日更新しているので、お住いの地域の暑さがどれくらい危険なのか、日々チェックするとよいでしょう。
まとめ
糖尿病の方は、高血糖による自律神経障害や薬の副作用により熱中症になりやすいといわれています。
加えて、一般的な熱中症対策に使うスポーツドリンクは、砂糖が多く含まれていることから、糖尿病の方が熱中症予防に使うと血糖管理に影響が出てしまいます。
糖尿病の方が普段水分補給する際は、水かお茶がオススメです。
また、熱中症は3段階に分かれており、初期に適切な対応をすると悪化を防げますよ。
それでは、水やお茶によるこまめな水分補給を心がけて、熱中症予防につとめましょう。
なお、弊社の開発する無料アプリ・シンクヘルスでは体重・カロリー&糖質を含む、食事・血糖値などの記録がカンタンにできます。日々の健康管理でぜひ活用してみてください。
【参考文献】
厚生労働省 e-ヘルスネット 糖尿病神経障害 嗜好飲料(アルコール飲料を除く)
厚生労働省 熱中症[安全衛生キーワード]
環境省 熱中症環境保健マニュアル 2022 熱中症予防情報サイト
農林水産省 熱中症対策には、水よりスポーツドリンクを飲むとよいと聞いたのですがどうしてですか。また、経口補水液との違いも教えてください。:農林水産省
熱中症診療ガイドライン2015
日本における熱中症予防研究 日生気誌 52(2) : 97-104, 2015