海のスプリンター『カツオ』の栄養~お刺身からかつお節まで詳しく解説~
当記事の執筆は、管理栄養士 前間弘美が担当しました。
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時速60kmで泳ぐ海のスプリンター『カツオ』。
カツオといえば黒い縦筋模様が特徴的ですが、生きているときは無地の銀白色をしています。
さて、江戸時代の日本では「目には青葉、山ほととぎす、初ガツオ」と俳人が詠んだ句が有名になり、江戸っ子にとって、初夏に初ガツオを食べることが粋だったとか。
時を経て、現在の日本は世界のカツオの約10分の1を食べている、世界有数のカツオ消費大国です。
そこで今回は、カツオの栄養成分についてお届けします。後半にお手軽レシピの紹介もありますので、どうぞお見逃しなく!
目次
カツオの栄養成分と効果効能
ここでは春獲りのカツオ(初ガツオ)の栄養成分について解説します。
体を作るたんぱく質
カツオ100g中には25.8gのたんぱく質が含まれています。カツオの体は水分が7割強を占めているので、残り部分のほとんどがたんぱく質です。
さて、たんぱく質はわたしたちの体の中で筋肉や臓器を作っている主な成分です。また、体の土台を作るだけでなく、酵素やホルモンなど、体の機能を調節する役割も担っています。
そのため、たんぱく質が不足すると筋力が低下するだけでなく免疫機能の低下にも繋がります。
とくに高齢者は、嚙む力が低下することにより、肉や魚を食べるのを控える傾向に。その結果、おのずとたんぱく質の摂取量が減りフレイル(※)に陥りがちです。
(※)健康な状態と要介護状態の中間のことで、身体的・認知的な機能の低下が見られること
さて、一般的に、魚に含まれるたんぱく質は良質といわれています。その理由は、魚のたんぱく質には体内で合成できないアミノ酸がバランスよく含まれているからです。
たんぱく質は体内で消化されると最終的にアミノ酸になります。アミノ酸は、全部で20種類あり、体内で合成できるタイプ(非必須アミノ酸)と合成できないタイプ(非必須アミノ酸)に分かれます。非必須アミノ酸がバランスよく入っている食品ほど体内での利用率が高いため、魚に含まれるたんぱく質は、肉や大豆や乳製品と並んで「良質なたんぱく質」といわれるのです。
ただし、カツオに良質なたんぱく質が豊富とはいえ、カツオのみを食べ続けることはオススメできません。肉や卵や大豆製品などもそれぞれ良質なたんぱく質が含まれますので、さまざまな食品を組み合わせた食事を心がけましょう。
高血圧予防に役立つカリウム
カツオ100g中に含まれるカリウムは430mg、この量は魚類の中でトップクラスです。
カリウムはミネラルの一種で、ナトリウム(塩分)を排出する働きがあるため、高血圧予防に役立つ栄養素です。また、神経や筋肉の働きにも関わっているため、カリウムが不足すると脱力感や不整脈を引き起こすことがあります。
なお、カリウムは水に溶けやすい性質があるので、お刺身として生で食べると効率がよいですね。カリウムの働きを無駄にしないためにも、お刺身を食べる時は薬味をうまく活用すると、醤油の使用量が減らせるため減塩に効果的です。
貧血を防ぐ鉄分
カツオには鉄分が豊富です。
鉄分は血液の主成分であるヘモグロビンの材料になります。
ヘモグロビンは酸素を全身に届ける働きがあるため、不足すると疲労感などの症状が現れ、この状態が貧血です。
さて、「赤身の魚には鉄分が豊富」というのは有名ですが、その代名詞としてマグロが挙げられます。しかしお刺身1人前(100g)の鉄分を比べると、カツオには1.9mg、くろまぐろ(生・赤身)には1.1mg含まれており、カツオのほうが豊富だとわかります。
参考までに、日本人の食事摂取基準によると、18~49歳の1日の推奨量は女性(月経あり)10.5mg、男性7.5mgです。つまり、カツオを100g食べると1日に必要な鉄分の18~25%をまかなえるので、鉄分補給にはもってこいの食材と言えますね。
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エネルギー代謝を円滑にするビタミンB群
カツオにはビタミンB群の一種で、血液を作るビタミンB12と、皮膚や粘膜を維持するナイアシンが多く含まれています。
ビタミンB群は全部で8種類あり、それぞれに主な働きがあるものの、単体で作用するのではなく、お互いに助け合いながら働いています。
さてビタミンB群は、体の中で食べ物からエネルギーを作り出す「エネルギー代謝」に欠かせない栄養素です。
エネルギー源となるのは、糖質・脂質・たんぱく質の3つですが、これらだけでは十分なエネルギーを作り出すことができません。その場面でビタミンB群が入るとエネルギー作りが円滑に進むようになるため、いわば潤滑油のような存在です。
そのために、ビタミンB群の摂取量のバランスが崩れたり不足すると、十分なエネルギー量を作り出すことができずに疲労の原因になることもあります。
ビタミンB群は水溶性のため、一度にたくさん摂取しても使われなかった分は尿中に排泄されます。だからこそ毎日の食事から摂る必要があるのです。
戻りガツオの栄養価
戻りガツオとは春に黒潮に乗って北上し、水温が低下する秋に三陸沖から九州南部に向かって南下するカツオのことです。
カツオはエサをたっぷりと食べながら北上するため、南下してくる時にはまるまると太っています。さて、戻りガツオの特筆すべき栄養素はEPAとDHAの量です。
*100gあたり
上の表の通り、戻りガツオにはEPAが約10倍、DHAは約8倍と多く含まれています。
EPAやDHAは脂質の一種で必須脂肪酸に分類され、人間の体では作られないため、食事から摂取する必要があります。必須脂肪酸の中でもEPAやDHAには、血圧や中性脂肪低下作用、また虚血性心疾患や動脈硬化予防などが確認されています。
油脂と聞くと良いイメージを持たない方が多いですが、必須脂肪酸は健康の維持に不可欠なので、意識して摂りたい成分です。
つづいて、脂質全体の量を見ていきましょう。
カツオ100gあたりの脂質量は、初ガツオ0.5g、戻りガツオ6.2gで、その差は12倍以上です。嬉しい健康効果が期待できる脂質が多く含まれているものの、脂質の摂りすぎは肥満をはじめとする生活習慣病の原因となるため、摂取量には注意が必要です。
余談ですが、カツオは20℃以上の温かい水域を好むため、日本近海ではこのような季節的な回遊をしていますが、温かい地域では季節に応じた回遊は見られないのですよ。
削り節(けずりぶし)には栄養があるのか
もちろん、削り節には栄養があります。
少し脇道に入りますが、「削り節」と似た言葉に「かつお節」というものがあります。「かつお節」は削る前の塊の状態のものを差し、「けずり節」はかつお節を薄く削ったものをいいます。つまり、だしを取る時に使ったり、お好み焼きなどの上にかけるのは「削り節」の方です。
それでは、削り節の栄養について見ていきましょう!
たんぱく質が豊富
削り節は製造工程で水分が抜けるため、1gあたりのたんぱく質は生のカツオの3倍にもなります。実際に、市販されている小袋入りの削り節(3g)の中には、2.3gものたんぱく質が入っています。
説明の通り、とくに高齢になると、噛む力が落ちるので肉や魚を避けがちです。そのような方々にとっても、かつお節は活用しやすい食材です。出汁を取るときに使った削り節を再利用してつくだ煮を作ったり、おにぎりを作るときに海苔の代わりに削り節をまぶすなど、さまざまな使い方ができるのでお試しくださいね。
生のカツオにはほぼゼロ!うま味成分の【イノシン酸】
削り節には、うま味成分の一種であるイノシン酸が豊富に含まれています。イノシン酸は、カツオが生の状態の時にはほとんど含まれておらず、削り節になる工程で増えていく成分です。
このうま味を活かすと、料理が薄味でも美味しく食べることができるので、減塩対策としても有効ですよ。
さて、削り節は湿気と日光が苦手な食材です。
品質が劣化すると栄養価も下がりますので、開封後は使い切るのがいちばん良いですが、使い切れない時は密閉して冷暗所(冷凍保管もOK)で保管しましょう。
ところで、「うま味」は日本人が見つけた成分で、「甘味」「酸味」「塩味」「苦味」と合わせて基本五味と呼ばれています。
日本食の基本である出汁(だし)を大切にしてきた日本人ならではの発見ですね。
1980年代に開催された「うま味国際シンポジウム」をきっかけとして、「うま味」が「UMAMI」という言葉で世界に認知されるようになりました。このことにより、日本の出汁(だし)文化が世界に広がり、削り節も脚光を浴びることに。
削り節は完成するまでに約5か月も要する、とても手間のかかる伝統食品です。日本の伝統食品が他国で愛されるのは嬉しいことですね。
カツオのツナ缶の栄養価
※液体部分も含んだ100gあたりの値
※糖質は差引法による利用可能炭水化物を使用
栄養価は上の表の通りですが、この数値は液体部分を含んだ値ですので、固形部分のみを使う場合はこの限りではありません。
液体部分に溶けだした栄養素を無駄にしないためには、液体ごと料理に活用しましょう。
炒め物の具材としてツナ缶を使う場合は、缶詰の油を使って炒めると、炒め油分のカロリーを抑えられるだけでなくうま味を加えることができて一石二鳥ですよ。
カツオはダイエットに効果的?
カツオはダイエットに活用しやすい食材といえます。その理由は、たんぱく質が豊富で脂質が少ないからです。
それでは、よくお刺身で食べられる他の魚と比べてみましょう。
※可食部100gあたり
上の表のように、他の魚と比べてみると、特に初ガツオは、たんぱく質が豊富で脂質が少ないことがわかります。
ダイエット中は、カロリーを抑えるために食事量を控える方が多いです。
そのために、おのずと体を維持するために必要なたんぱく質量が不足しがちに。
そこで、重量当たりのたんぱく質量が豊富なかつおは、ダイエットにもってこいの食材という訳なのです。「高たんぱく低脂質」の特長を活かすためには、揚げ物のような調理法ではなく、お刺身のように素材をそのまま味わう食べ方がオススメですよ。
また、ダイエット中は不足しがちな栄養素として食物繊維も挙げられます。
しかし残念ながら、魚介類には食物繊維は含まれていません。そこで、「カツオ+野菜」の組み合わせで食べられる以下のような食べ方をオススメします。
・カツオのカルパッチョ
ダイエットは長期戦ですので、カツオだけを食べるよりも健康的に進められますよ。
関連記事:タンパク質ダイエットとは〜効果・方法・メニューを分かりやすく紹介〜
毎日食べても大丈夫か
もちろん毎日食べても大丈夫です。なぜならばカツオには良質なたんぱく質や脂質、ビタミンB群、カリウムなど、体にとって不可欠な栄養素が豊富だからです。
しかし生のカツオは旬の時期にしか出回らないので、その他の季節はツナ缶を活用しつつ、その季節に応じた魚を食べましょう。
ツナ缶を使ったお手軽レシピ
生のカツオは旬の時期にしか店頭に並びませんが、缶詰は季節を問わず手に入れることができます。ということで、今回はカツオのツナ缶を使ったレシピをご紹介します!ツナ缶の油を使ったうまみたっぷりのドレッシングを掛けていただきましょう。
【ツナとかつお節の豆腐サラダ】
カツオのツナ缶 1缶
豆腐 300g
ミニトマト 4個
かいわれ大根 10g
きゅうり 2/3本
しょうゆ 大さじ1
酢 大さじ1
ラカント 小さじ1/2
白ごま 小さじ1
かつお節 1パック
【作り方】
①ツナ缶は具とオイルに分けて、豆腐を水切りする
②ツナ缶のオイルと調味料と白ごまを混ぜてドレッシングを作る
③ミニトマトは4等分、かいわれ大根は根を落として、きゅうりは千切りにする
④水切りした豆腐に③を置き、②で作ったドレッシングとかつお節をかけてできあがり
まとめ
カツオには体を作るたんぱく質や、高血圧を予防するカリウム、貧血を予防する鉄分が豊富だとわかりましたね。
さらに戻りガツオには健康に効果的なDHAやEPAが豊富な半面カロリーも高いため、ダイエット中に食べるなら初ガツオがオススメということもお伝えしました。
今回の記事により、日々の食生活にカツオをうまく取り入れていただけると嬉しいです。
なお、弊社の開発する無料の人気アプリ・シンクヘルスでは食事、体重、運動、血糖値の記録がとてもカンタンにできます。日々の健康管理・維持にぜひ活用してみてくださいね。
参考文献
WWFジャパン カツオという生物~その特徴と漁獲・消費量~
東京都中央卸売市場 戻りカツオ
J-STAGE かつお節とかつお節だしに関する調理科学的・食文化的考察
厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020年版)
女子栄養大学出版部 八訂食品成分表2022