スティグマとは?~意味・具体例・解消のためにできることを簡単解説~
当記事の執筆は、臨床心理士・公認心理師 石倉美希が担当しました。
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ある特徴を持った集団や個人が、誤解や根拠のない認識によって社会的不利益や自尊感情の傷つきなどをもたらすことを、スティグマといいます。
とくに病気や障害のある方にとって、スティグマの経験は精神的負担となるだけでなく、治療にまで影響する重大な問題です。
周囲の人が差別・偏見を持たないように意識していても、自分以外の誰かを完璧に理解するのは、とても難しいことです。
今回はスティグマについてわかりやすくまとめました。
ぜひ最後までお読みいただけますと幸いです。
目次
スティグマの意味
スティグマは、もともと「烙印(らくいん)」という意味を持つ言葉です。奴隷や犯罪者であるのを見分けるための刺青などを指していたといわれています。
現在は病気や障害など、周りと異なる特徴を持っていることに対するネガティブなレッテルという意味があります。
なぜ生じるの?
個人レベルで生じるスティグマの背景には、誤った知識を持っていたり、誤解から生じる心理的な抵抗感があります。
たとえば、接触によって感染が広がることはない病気に対して、「触ったら感染する」と誤解していたり、「一緒に働くのが怖い」とその人を排除するような態度や行動を取ってしまったりすることです。
正しく知らないことで差別・偏見が強まるだけでなく、知識があるからこそ、とるべき模範的な行動ができていないのを指摘したり、アドバイスと思って伝えたりするのがスティグマとなる場合もあります。
スティグマが起きやすい病気・障害・特徴
スティグマの対象となりやすいのは、ハンセン病・結核・HIV感染・性感染症などの感染症や、その不調が見た目にはわかりにくい精神障害・認知症・糖尿病などが挙げられます。
先天性の奇形・皮膚疾患・車椅子ユーザーなど、外見的な特徴がある場合もスティグマが生じやすいでしょう。
また、病気や障害がなくとも、社会的に弱い立場の方(ひとり親・孤児・低所得者など)やLGBTQなどのマイノリティとされる方にも生じやすいといえます。
糖尿病とスティグマ
近年、糖尿病に対するスティグマにも注目が集まっています。糖尿病という病名が与えるイメージに悩み、病名を伝えるのが恥ずかしいと感じる方も多いようです。
糖尿病の発症に関して、「不摂生な生活によって病気になった」と誤解されるケースも多くあります。
糖尿病は1型・2型に分類され、1型糖尿病はなんらかの原因で膵臓のβ細胞が破壊される自己免疫疾患であり、生活習慣に関わらず発症する疾患です。2型糖尿病も、遺伝的な要因が大きく、生活習慣病の乱れが原因とは限りません。
病名の知名度の高さの一方で、その発症メカニズムや治療の経過までは浸透せず、スティグマにつながってしまっているのでしょう。
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6通りのタイプと具体例
スティグマには、社会的スティグマ・乖離的(かいりてき)スティグマ・自己(セルフ)スティグマの3つがあります。さらに3つのスティグマは、実際に経験する経験的スティグマ、こうなるかもしれないと先回りして生じる予期的スティグマに分けられ、6通りのタイプがあるのです。
具体例を交えながらご紹介していきます。
社会的スティグマ
社会的スティグマとは、一般的に受け入れられるべき社会参加を拒否されてしまったり、レッテルを貼られてしまうことです。
具体例:
(経験的スティグマ)
・生命保険や住宅ローンの加入を断られた
・就職、昇進に影響があった
・結婚を反対され、諦めざるを得なかった
(予測的スティグマ)
・病気であることを職場に伝えない
・家族にも伝えない
乖離的(かいりてき)スティグマ
「〇〇といえば…」というイメージにより、実態との乖離が生じることで起きるスティグマを乖離的スティグマといいます。実は病気や障害に関する知識を持っているはずの、医療従事者から受けることも多いのです。模範的な患者像と、目の前の患者とのギャップを感じるときに生じやすいと考えられています。
具体例:
(経験的スティグマ)
・薬を飲み忘れたことを叱責された
・不健康とされる行動をしていることをとがめられた
(予測的スティグマ)
・薬を飲んだふりをする
・隠れて食べる
・通院しなくなる
自己(セルフ)スティグマ
病名等から受ける印象や、治療の成果が出ないのを非難されて自尊心が傷つけられることを、自己(セルフ)スティグマと呼びます。スティグマを恐れるあまり、極端に行動を制限してしまったり、自ら社会と距離を置いてしまうことも。
具体例:
(経験的スティグマ)
・「うまく管理ができずすみません」と医療者に謝る
・「どうせ治療しても意味がない」と自暴自棄になる
・「自分自身は価値のない人間だ」と落ち込んでしまう
(予測的スティグマ)
・会食などを避けるようになる
・誰にも相談しなくなる
もたらされるマイナスな影響
スティグマによってもたらされるマイナスな影響は社会的な立場に与えるものと、病気の治療に与えるものがあります。
社会的孤立
社会的スティグマの具体例のように、病気や障害のない人が当たり前のように与えられる機会が損なわれる場合があります。
そうした経験から「自分は〇〇だからできない」とセルフスティグマが生じ、自己評価や自尊感情が低下すると、自ら社会に参加していく意欲が失われ、孤立してしまうのです。
これ以上傷つきたくない気持ちから、周りと距離を置きたくなるのは無理もないことです。
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病気の重症化
スティグマの経験は治療に必要な行動を妨げているという研究もあります。
糖尿病のある方の例でいうと、本来は食事内容を調整したり、インスリン注射が必要であるにもかかわらず、病気を隠したい気持ちから周囲と同じように振る舞ってしまうことがあります。病気を隠しているうちに、必要な治療を継続できず、病気が重症化するリスクを高めてしまうのです。
スティグマ解消のための活動(アドボカシー)とは?
スティグマを解消し、個人の権利を守り社会的地位を回復させる活動をアドボカシー活動といいます。アドボカシー活動が重要であるという認識は徐々に広がりつつあります。
アドボカシー活動としてできることは以下の通りです。
周りの人ができること
周りの人がまずできるのは、スティグマの存在を知ることです。「偏見・差別はいけない」と多くの人が理解しているはずですが、実は自分が気づいていないだけで、スティグマを与えてしまっている可能性があります。まずはこうしてスティグマに関する理解を深めて、自分の言動をよく意識してみましょう。
そして、病気や障害などある特徴を意識した際、正しい知識を得るのも重要です。正しく理解してくれるという安心感が、信頼関係を結ぶのにつながります。
病気のある人自身ができること
アドボカシー活動は広まっているものの、すぐにゼロになるものではありません。まずは信頼して話ができる相手を見つけ、関係を作っていきましょう。
同じ悩みを持つ方同士のサポート(ピアサポート)も心の支えになります。
無理に話をする必要はありませんが、いざ話したいという場面になったときに頼れる相手がいると心強いですね。
もしスティグマを経験し、落ち込みを感じるときはリラックスできることを見つけ、セルフケアしていきましょう。
関連記事:
コーピングリストでストレスに備える!~具体例100個もご紹介~
ピアサポートってなに?同じ悩みを持つ人とつながろう
社会全体の取り組み
個人だけでなく、企業・行政・国もアドボカシー活動に力を入れ始めています。病気や障害などに関する正しい情報の提供や、病気や障害のある人と関わる場を設けるなどの工夫をしているのです。
糖尿病のように、病名によってスティグマが生じていることに対し、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は、糖尿病の名称を変更する案も発表しています。
集まりに参加したり、関連用語に目を向けてみたり、小さな一歩を積み重ねていくと、社会全体の流れも変えられるかもしれません。
まとめ
以上、スティグマの意味や具体例、解消のための活動についてまとめました。
周りと異なる特徴に対し、ネガティブなレッテルが貼られてしまうことをスティグマといい、偏見や差別につながるリスクの高い課題です。
・乖離的スティグマ…模範的なイメージとのギャップ
・自己(セルフ)スティグマ…自分を価値のない人間とみなすこと
の3つのタイプの他、経験的スティグマと予期的スティグマの類型があります。
社会とのつながりが減ってしまったり、治療に必要な行動を続けられなくなってしまう等の大きな影響をもたらします。
スティグマは意図せずとも、誤解や知識の不足から気づかないうちに起きてしまうものです。スティグマを解消する活動(アドボカシー活動)は周りの方、当事者の方、社会全体としてできることがあります。
本記事がスティグマについての理解を深め、解消の一歩を踏み出すのに役立ちますと幸いです。
なお、弊社の開発する無料アプリ・シンクヘルスでは血糖値や血圧の記録だけでなく、メモで出来事や考えたことを自由に記録できます。日々の健康管理でぜひ活用してみてくださいね。
参考文献:
石井(2023). 2 型糖尿病のスティグマ―心理社会的視点から 糖尿病. 66(4). 237-239.
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域精神保健・法制度研究部
日本糖尿病学会 糖尿病診療ガイドライン2024 トピックス6 糖尿病とアドボカシー活動
田中(2022). どうして糖尿病患者さんのアドボカシーが注目されているのか 日本糖尿病教育・看護学会誌. 26(1). 85-89.