【医師監修】脂質異常症は遺伝する?~家族性高コレステロール血症について詳しく解説~

当記事は、内科認定医・糖尿病専門医 古賀 萌奈美先生にご監修いただきました。
執筆はライター 佐藤久美(管理栄養士)が担当しました。
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「昔からコレステロールが高いけれど、これって体質?」と感じていても、日常生活に支障がないからと医療機関を受診していない方も多く見受けられます。
しかし、「体質」では片づけられない命にかかわる病気が潜んでいるかもしれません。
その病気とは「家族性高コレステロール血症」のことで、遺伝性代謝疾患の中でも発症頻度が高い病気です。
そこで今回は家族性高コレステロール血症について詳しく解説しますので、病気の早期発見や重症化予防の参考にしていただけたら嬉しいです。
では、さっそく参りましょう。
目次
遺伝性の脂質異常症「家族性高コレステロール血症」とは
家族性高コレステロール血症とは、生まれつき血液中の悪玉(LDL)コレステロール値が高い病気のことで、生活習慣が起因する脂質異常症とは異なり遺伝子の変異が原因です。
私たちの遺伝子は父親・母親由来の2つが対になって存在していますが、両方の遺伝子に変異があるものを「ホモ接合体」、どちらか片方に変異があるものを「ヘテロ接合体」と呼んでいます。
LDLコレステロールを肝臓に回収するLDL受容体やそれに関わる遺伝子に変異があると、LDLコレステロールが肝臓に取り込まれません。その結果LDLコレステロールが血液中に長時間残ってしまい、動脈硬化を引き起こします。
家族性高コレステロール血症 ホモ接合体はLDLコレステロールの肝臓への取り込みが正常の約10%に低下、ヘテロ接合体はLDLコレステロールの取り込みが遺伝子異常がない人の半分程度になっている病気です。
「ホモ接合体」患者さんは36万人に1人以上、「ヘテロ接合体」は300人に1人程度であり、日本で40万人以上の患者さんがいるとされています。
家族性高コレステロール血症の症状
家族性高コレステロール血症の方の多くは、若い頃から悪玉(LDL)コレステロールが高いこと以外自覚症状はありません。
ただし、一部の患者では黄色腫と呼ばれる黄色いイボのようなできものが手の甲や肘、膝、瞼に現れたり、アキレス腱が太くなる症状が見られます。ただし、眼瞼黄色腫は家族性高コレステロール血症に特異的なものではなく、LDLコレステロール値正常の方にも見られることがあります。
さらに、ホモ接合体は幼少期から動脈硬化症の進行が認められ、30歳までに狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患を発症するとされています。
また比較的軽症であるヘテロ接合体の半数の方でも、10代後半〜20代までに黄色腫やアキレス腱が太くなる症状が現れ、冠動脈疾患が男性で30歳以降、女性で50歳以降と通常より早期に発症することが知られています。
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アキレス腱が太くなるって本当?
答えはYesです。
家族性高コレステロール血症の方は、体内のコレステロールを処理する能力が低いので、過剰なコレステロールがアキレス腱に蓄積し太くなります。
なお、日本動脈硬化学会が定める家族性高コレステロール血症の診断基準の1つにも、アキレス腱肥厚(X線撮影により9mm以上)を含めた腱黄色腫が入っているほど特徴的な症状です。
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家族性高コレステロール血症は改善できるのか
家族性高コレステロール血症を早期に発見・治療をすることで、体内の悪玉(LDL)コレステロール値をコントロールし、動脈硬化や冠動脈疾患の進行を遅らせることが可能です。
したがって気になる症状がある方や、家族が高コレステロール血症や若年(男性55歳以下、女性65歳以下)で冠動脈疾患(※)と診断された場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
※冠動脈疾患とは狭心症や心筋梗塞のこと
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寿命は健康な人と異なるのか
未治療の家族性高コレステロール血症の方は若年での冠動脈疾患リスクが高く、健康な人と比較して寿命が短くなります。
これは300人に1人の割合で患者がいると言われているにもかかわらず、家族性高コレステロール血症の診断率が低いためです。
そして多くの方が適切な検査・治療をしていないことが原因で、狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患により命を落としています。
それゆえ、健康診断の結果を見て「コレステロールは若い頃から高いけれど自覚症状はないから大丈夫」などと軽視せずに医療機関を受診してください。
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家族性高コレステロール血症の方の食事療法
家族性高コレステロール血症の方は、以下の点に注意して食事を楽しみましょう。
・コレステロールの多く含まれる食べ物を控える
・バターや肉の脂など動物性脂肪の食べ物を控える
・食物繊維を多く食べる
参考までに1日の摂取カロリーの目安は、標準体重(kg)×25〜30(kcal/標準体重kg(※))で求めます。
(※)標準体重=身長(m)×身長(m)×22
たとえば身長160cmの方の摂取カロリーの目安は、次のように計算します。
標準体重:1.6×1.6×22=56.3kg
摂取カロリーの目安:56.3×(25~30)=1408~1689kcal
家族性高コレステロール血症は、食事療法のみでの改善が難しい場合も多いです。食事療法は継続しつつ、きちんと医療機関を受診し必要時には薬物療法を行うことも必要です。
また運動療法については、動脈硬化性疾患のリスクが高いため、評価を行った後に開始するようにしましょう。
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まとめ
以上、家族性高コレステロール血症について解説しました。
家族性高コレステロール血症とは生まれつき悪玉(LDL)コレステロール値が高く、黄色腫やアキレス腱の肥厚など特徴的な症状が出る場合の多い病気です。
早期に発見・治療をすると、体内のLDLコレステロール値をコントロールし動脈硬化の進行を遅らせることが可能です。健診などでLDLコレステロール高値を指摘された方、気になる症状がある方は早めに医療機関を受診しましょう。
それでは当記事が、家族性高コレステロール血症の早期発見につながれば幸いです。
なお、弊社の開発する無料アプリ・シンクヘルスでは体重・カロリー&糖質を含む、食事・血糖値などの記録がカンタンにできます。日々の健康管理でぜひ活用してみてください。
参考文献
家族性 高コレステロール 血症 診療ガイドライン 2017
家族性 高コレステロール 血症 診療ガイドライン 2017(日内会誌 108:2320~2326,2019)
国立研究開発法人 国立循環器病研究センター 診療科等の概要 家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia: FH)について
一般社団法人 日本動脈硬化学会 家族性高コレステロール血症(FH)とは?