【医師監修】GLP-1受容体作動薬とは〜飲み薬・副作用についても解説〜
当記事はまさぼ内科・糖尿病クリニック飯田橋院 代表理事・院長 小林 正敬先生にご監修いただきました。
執筆はライター 前間弘美(管理栄養士)が担当しました。
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GLP-1受容体作動薬は、インスリンの分泌を促す薬です。
糖尿病の治療に使うことはわかっているけれど、効果や副作用はどのようなものがあるかわかっていない方も多いでしょう。
そこで、今回はGLP-1受容体作動薬についてくわしく解説いたします。効果や副作用についてもお伝えしますので、最後までご覧ください。
目次
GLP-1受容体作動薬について
GLP-1受容体作動薬は、すい臓の細胞に働いてインスリンの分泌を促す薬です。
GLP-1受容体作動薬はインスリンの分泌量を増やす薬なので、2型糖尿病の方が使用できます。インスリンが分泌されなくなってしまう1型糖尿病の方には、効果がありません。
参考記事:2型糖尿病とは〜原因・予防・治療のポイントを初心者向けに解説〜
GLP-1とは
GLP-1は、インスリンの分泌を促す成分です。
私たちが食事を摂ると、インクレチンというホルモンが消化管から分泌されます。そしてインクレチンは、すい臓にインスリンの分泌を促進させる働きをもちます。そのインクレチンの1つがGLP-1なのです。
ところがGLP-1を含むほとんどのインクレチンは、体の中でDPP-4という酵素に分解されます。そのため、私たちの体の中では産生されたインクレチンの一部しか作用しません。
そこで、インクレチンと似た物質でありながらDPP-4に分解されにくい、GLP-1受容体作動薬がつくられたのです。
どんな効果があるのか
GLP-1受容体作動薬は、インスリンの分泌を促すほか、
・胃内容物の排出を遅らせる
・食欲を抑える
といった効果があります。
(※)血糖値を上げるホルモン
胃内容物の排出を遅らせると食後の血糖値の急上昇を防ぎ、満腹感が得られやすくなります。
また、2型糖尿病の方においてGLP-1受容体作動薬が心血管系の病気や腎機能悪化を抑える、という報告もあるようです。薬の効果で、重大な糖尿病の合併症を防げるようになるとうれしいですね。
代表的な注射薬を一覧で紹介
現在日本で処方されている、代表的なGLP-1受容体作動薬の注射薬を一覧にまとめました。
【GLP-1受容体作動薬の注射薬一覧】
一般名 | 製品名 | 使い方 | |
注射薬 | エキセナチド | バイエッタ | 1日2回、朝夕食前に皮下注射 |
リキシセナチド | リキスミア | 1日1回、朝食前に皮下注射 | |
リラグルシド | ビクトーザ | 1日1回、朝か夕に皮下注射 | |
持続性エキセナチド | ビデュリオン | 週に1回、皮下注射 | |
デュラグルチド | トルリシティ | ||
セマグルチド | オゼンピック | ||
経口薬 | リベルサス |
【GIP/GLP-1受容体作動薬】
一般名 | 製品名 | 使い方 | |
注射薬 | チルゼパチド | マンジャロ | 週に1回、皮下注射 |
*上記はあくまで一般的なものなので、実際の処方は担当医の指示に従ってください
*GIP/GLP-1受容体作動薬は、GLP-1受容体作動薬と同等の効果や副作用が期待される薬。体重減少などの効果が期待できるため、糖尿病と肥満症を合併した病態などへの有用性が検討されている。
なお、唯一の飲み薬であるリベルサスは、起床後に飲食をせず空腹の状態で120ml以下の水で1錠服用する、という条件があります。さらに、薬の服用後30分以上(できれば2時間後まで)は、飲食やほかの薬を服用できません。
飲み薬は注射をせずに済むというメリットがある反面、服用条件が決められています。
インスリンとの違いはなにか
GLP-1受容体作動薬はインスリンを補充しない点が違います。
GLP-1受容体作動薬もインスリン製剤も糖尿病の薬ですので、違いがわからないこともあるかもしれません。
インスリン製剤は、インスリンそのものを補充します。そしてGLP-1受容体作動薬は、体内のすい臓に働きかけて、インスリンを分泌するように促します。そのためGLP-1受容体作動薬は、インスリン分泌機能が低下している2型糖尿病の治療薬として使われています。インスリン分泌機能自体がない1型糖尿病の治療には使用できない点も、インスリンとの違いといえるでしょう。
GLP-1受容体作動薬の副作用
GLP-1受容体作動薬の主な副作用は、下痢や便秘、吐き気などの胃腸障害です。
副作用は薬の使いはじめに起こりやすいため、最初は少量で徐々に量を増やすこともあります。
また、胃腸症状は薬の服用開始から数日から数週間でなくなることがほとんどです。ただしGLP-1受容体作動薬は、急性膵炎や腸閉塞を引き起こす可能性があります。激しい腹痛や嘔吐などの症状が出た場合はすぐに服用を中止し、担当医に相談してください。
肥満症に効果があるって本当?
日本では現在、肥満症の方を対象にGLP-1受容体作動薬が処方されています。ただし、糖尿病の方に処方されるものと製品名の違うもので、現在ウゴービ(※1)とゼップバウンド(※2)が承認されています。
また処方の基準が決められており、
・BMIが27以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する
・BMIが35以上
上記に該当する方のみ処方が可能です。
つまり肥満症治療の基本である、食事療法や運動療法を行っても十分な効果が得られなかったことが前提です。さらにBMIや健康状態から薬物治療するのが適切だ、と医師が判断した場合にGLP-1受容体作動薬が処方されます。
(※1)一般名 セマグルチド(糖尿病薬のオゼンピックと同一の有効成分)
(※2)一般名 チルゼパチド(糖尿病薬のマンジャロと同一の有効成分)
まとめ
以上、GLP-1受容体作動薬はインスリンの分泌を促し、食欲を抑える効果を持つ薬だとわかりました。インスリンの分泌がある2型糖尿病の方に効く薬で、注射と飲み薬があります。
GLP-1受容体作動薬の副作用には、下痢や便秘、吐き気などの胃腸障害が挙げられます。気になる症状がある場合は、医師に相談しましょう。
また現在日本では、基準を満たした肥満症の方に対してもGLP-1受容体作動薬が処方されるようになりました。
それでは当記事を参考に、GLP-1受容体作動薬について正しく知っていただけると嬉しいです。
なお、弊社の開発する無料アプリ・シンクヘルスでは血糖値や食事の記録がカンタンにできます。薬の記録もできますので、日々の血糖コントロールにてぜひ活用してみてくださいね。
まさぼ内科・糖尿病クリニック飯田橋院 代表理事・院長
小林正敬先生
【HP】https://masabo-clinic.com/
詳細のプロフィールはこちら
参考文献
医療情報科学研究所(2019)病気がみえるvol.3 糖尿病・代謝・内分泌 第5版 メディックメディア 52-55
J-STAGE 1.GLP-1 受容体作動薬の分類と作用機序,使用上の注意点
ノボノルディスクファーマ株式会社 ウゴービ