長崎県長崎市を拠点とする医療法人 緑風会は、『皆様の生命と生活を大切にし、医療と介護を通じてまごころを以て奉仕致します。』の理念のもと、患者さんを支える様々な事業を展開しています。
そのうちの一つである みどりクリニックは、健診センターと併設するクリニックで、 健診の二次健診で受診されるメタボリック症候群や糖尿病を持つたくさんの方々への診療にシンクヘルスをお役立て頂いています。
今回は、みどりクリニック 健診センター長の 阿比留 教生先生 にお話を伺いました。
※本記事はダイジェスト版です。
シンクヘルス導入に至った経緯と導入後の効果
医療機関にPHRを導入しようと思ったきっかけは何でしたか?
みどりクリニックで糖尿病内科としての診療体制づくりを進めていく際に、PHRの導入を検討していました。当クリニックでは1型糖尿病患者さんが多いことから、『CGM』『SMBG』を管理するシステムと、2型糖尿病患者さんを対象とした『体重』『食事』『運動』を管理するシステムを、クラウドを介した形で導入したいと考えていました。
シンクヘルスを導入してみていかがでしょうか?
糖尿病を持つ方の治療では、患者さんご自身の治療へのモチベーションが重要だと考えています。私は、シンクヘルスの導入が、患者さんのやる気を高めることに役立っているのではないかと考えています。
“患者さんのやる気を高める”上で、導入前に実際に課題に感じていた部分があったのでしょうか?
これまでは診察日の体重、血液検査、ご自身が記録された血糖や血圧の手帳を元にお話をしていましたので、患者さんの“頑張り”を探すのは容易ではありませんでした。控えめな患者さんは、「頑張って歩きました」とか「おやつを控えてみたんです。」などと、自分からは話してくれないことも多いからです。
栄養面談でも以前は、面談の中で患者さんからの聞き取りや、食事の手書き記録などを参考に面談してもらっていましたが、一方通行の栄養指導になってしまい、具体的なアドバイスにつながらないため定期的な指導の継続を希望されない場合も多かったと思います。
シンクヘルスのどのような部分が課題の解決につながっていますか?
シンクヘルスでは、体重や血圧の記録だけでなく、自動的に歩数も記録されますし、受診前1週間程度の食事の写真も撮ってもらうようにしています。診察前に、プラットフォームの画面を確認することを繰り返していますと、患者さんのほんのわずかな“頑張り”が見つけられるようになってきます。
栄養面談では、食事写真を見ながら、詳細な食生活に関するアドバイスができるようになりました。また、食事の変化も確認でき、それが体重などの変化につながったことも確認できますので、患者さんの“頑張り”を見つけて褒めることも容易にできるようなりました。
患者さんは、診察のたびに、栄養面談で心地よく話ができますので、次回もまた頑張ろうという前向きな気持ちにつながっているのではないかと思います。実際に、当クリニックの栄養面談の継続率は非常に高く、患者さんの方から栄養面談の予約を忘れないでくださいねと言われることもしばしばです。
※本事例の内容を詳細にお話しいただいている「完全版」はこちらからダウンロードいただけます。
実際のご活用方法について
患者さんへのシンクヘルスの紹介はどのようなタイミングで行っていますか?
アプリの紹介は初診の際に私が行っています。糖尿病を持っている方にはほとんどすべての患者さんに一度はこのアプリを紹介するようにしています。また、当クリニックは健診センターと併設しているので、健診で脂質異常や耐糖能異常を指摘されて受診された方にもおすすめすることが多いですね。
患者さんにおすすめされる際はどのようにお話されていますか?
PHRを一つの治療の選択肢として説明し、『薬剤を処方する前に、まずは数か月生活習慣を見直してみませんか』とお話しています。その中心は食生活や運動による体重のマネージメントということになりますが、患者さんからの希望があれば積極的にシンクヘルスをすすめるようにしています。
アプリをすすめられた時の患者さんの反応はいかがですか。
患者さんからは「それって痩せられるんですか?」と聞かれますが、私が「やせるために行うわけではないのですが、なぜか多くの方が痩せてしまいます」と説明すると興味を持ってくれる方が多いです。そして「体重を継続して管理するために一番大切なことは、毎日測って記録することなんですよ」と話すようにしています。
「でも、そんなこと、簡単にできるんですか?」と聞き返されますので、自分のスマホのアプリの画面を患者さんに見せながら「こんな風に体重を測って記録していくんですけど、意外と簡単でしょう?」と説明します。「私もやってみようかしら。」「でも、そんなことで、本当に体重減るのかしら?」と言われる方は、大体上手くいきますね。
継続率の面ではいかがでしょうか?
メタボリック症候群や境界型耐糖能異常などを中心に、最近は服薬なしの方にもシンクヘルスを活用した治療と定期的な栄養面談で3か月に1回程度の受診をお勧めしていますが、ほとんどの方は受診を継続していただいています。
貴院では、体重の減少に効果のある薬剤との併用による食事運動療法へのモチベーション維持にお役立ていただいた例があったかと思います。詳しくお伺いしても宜しいですか?
そうですね。これまでは、高度肥満症の方の減量・代謝改善手術が必要な患者さんなどの体重管理のアプローチとして『グラフ化体重日記』という方法を用いていました。この方法は行動変容を促すのにとても有効なのですが、通常の糖尿病患者さんへの導入には時間がかかり、また、導入出来ても、継続してもらうのはさらに難しいと感じていました。
一方でシンクヘルスでは、日頃使っているスマホに簡単に体重を入力できますし、面倒なグラフ化はアプリがやってくれます。私は、このアプリを利用すれば、体重のグラフを患者さん自身が視覚を通して確認し、それを医療者側と共有することで、自然と行動変容に繋がっていくのではないかと考えていました。そして、実際に使ってみると、これまでのグラフ化体重日記では2割程度だったその継続率が私の予想をはるかに超えて、体重などをほぼ毎日継続して記録して送信してくれるようになったので、とても驚いた次第です。
診察の際はどのようなデータを活用されていますか?
私が診察前に最初に確認するのは、90日間の体重変化のグラフですね。それに加えて、歩数を確認します。栄養面談の方には、受診前最低1週間の食事写真を記録してもらうようにお願いしているので、その場合、写真を記録しているかどうかを確認しますが、食事内容の詳細は管理栄養士にお願いしています。もちろん、血圧や血糖を記録していただいている方は、そのデータやグラフの確認も行っています。
データをご確認頂いたあとは患者さんとどのようなコミュニケーションをとられていますか?
体重の変化を確認しながらお話をすることも多いのですが、落ち着いてきますと体重以外の記録を中心にお話しすることが多いですね。
例えば「食事の写真をよく撮っていますね。栄養士さんとはどんな話をしましたか?」「〇曜日は毎週1万歩以上歩いていますね。何をされているんですか?」などからお話を伺います。すると、日々の食生活で気を付けていることや、頑張って運動してみたこと、あるいは仕事が忙しく動き回る時間が多い日など、さまざまなお話を聞くことがきます。
栄養面談では、栄養士が食事写真を見て、実際に患者さんが食べた内容をもとに話をしています。例えば、朝ごはんにポテトチップスを毎日食べている方には、栄養バランスが取れた朝食について説明して、次の面談の時に、週の何日かでもアドバイスに準じた食事が始まっていたら、しっかりとその“頑張り”を褒めながら、週2回を3回に増やしてみることを提案してもらうようにしています。
中には中々頑張れない方もいらっしゃるかと思うのですが、そういった方に対してはどのようにコミュニケーションをとられていますか?
そうですね。たとえば一定期間体重記録が中断していたり、歩数が極端に減っている場合などがありますが、そんな時は、「何かあったんですか?」と尋ねてみます。そうすると頑張ろうとは思っているけどなかなか頑張れない事情を話していただけます。患者さんを取り巻く環境や生活での変化や状況を踏まえて、お話を詳しく傾聴していくことを続けています。
このように、シンクヘルの記録では、数か月に一度の点の記録では分かりにくいことも、線として変化を細かく確認できますので、経過の途中、また頑張れる状況が来て少しでも“頑張り”の兆しが見えてきたときには、さらに一歩前に踏み出せるように支援を継続していくことができます
体重管理以外に活用されている分野はありますか?
シンクヘルスはSMBGを行っている患者さんの血糖マネージメントでも役立っていますね。
従来、SMBGでは患者さんに、SMBGノートを使って血糖値やインスリン単位を記録してもらっていました。しかし、ノートへの記録は時間がかかり非効率なだけでなく、短い診察時間でその血糖値の記録を読み解くことはとても大変な作業でした。
しかし、シンクヘルスアプリでは、血糖測定器やインスリンのスマートペンなどから自動的に血糖値やインスリンの単位が入力されますから、患者さんの負担はかなり軽減されていると思われます。また、我々も外来診察時に、患者さんの入室する前の段階で、2週間~1か月単位の血糖変動などが視覚的に確認できますし、血糖値の最大最小値などの具体的な数値を抽出されますので、効率的にその結果をインスリン単位の調整や低血糖対策などに活用できるようになりました。
先生が思われる、シンクヘルスの利用に向いている患者さん像はありますか?
大きく3パターンあると思います。
一つは薬を使いたくない患者さん。私はこのPHRを活用した治療も薬物同様、治療法の一つとして説明して、シンクヘルスで体重をグラフで可視化したり、運動や食事の記録を取りながら振り返る方法ことでお薬と同じように効果がある場合が多いので始めてみませんかと勧めています。
次に、体重管理に取り組んで、一度成功したことがあるけれどもリバウンドを経験してしまったという方です。こういう方は続けることの難しさをご存じですので、シンクヘルスを利用することで継続できる確率が高まることを説明しています。
最後に、体重を落としたいと希望する方ですね。私が診療している方々の中でこの3つのパターンの患者さんを探したらおおよそ8割程度くらいになるのではないかと思います。
実際の案内イメージをご紹介!
40代 男性の場合: https://youtu.be/4zyD5XAsjLk
最後に、患者さんの記録率を維持するコツがあれば教えてください。
そうですね。医療者が記録することを無理強いするのではなく、少しでも記録してくれたら、そのほんの少しの“頑張り”を探し出して、褒めてあげることだと思います。
情報が増えてくると、つい悪いところを探してしまいがちですが、それは良い方法だとは言えません。できなかったところ、悪いところは目をつむって、少しでもできたところを探すことに徹してください。そのうち、患者さんの方から自分の悪いと思うところを、ポツリポツリと話始めます。
決して医療者からは、ダメ出しをしないように心がけています。
※本事例の内容を詳細にお話しいただいている「完全版」はこちらからダウンロードいただけます。