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INTERVIEW

妊娠糖尿病患者さんにisCGMとシンクヘルスを併用し、質の高い血糖管理を実現

国立成育医療研究センター 母性内科
飯村祐子先生

2022.06.16

東京都世田谷区の国立成育医療研究センターは受精・妊娠に始まり、胎児期、新生児期、乳児期、学童期、思春期を経て次世代を育成する成人期へと至るライフサイクルに生じる疾患(成育疾患)に関する医療と研究を推進しています。
母性内科では、妊娠糖尿病・糖尿病合併妊婦患者さんや、肥満や挙児希望がある耐糖能異常の患者さんへ自己管理アプリ「シンクヘルス」を取り入れています。
今回は母性内科医師飯村祐子先生にお話を伺いました。

シンクヘルスを導入する前に感じていた診療上の課題を教えてください。

糖代謝異常合併妊娠、特に妊娠糖尿病の場合には妊娠中期以降に急激な血糖変化が生じます。妊娠中の食事量が足りない場合、胎児成長に影響を及ぼすこともあります。
一方で食事の糖質・脂質過多は妊娠中の顕著な体重増加や高血糖を来たし巨大児や胎児過成長など周産期合併症の原因となるため、食事が少なすぎても多すぎても胎児への影響が出てしまいます。さらに食事内容のバランスも影響があるため、適正な食事量・バランスの指導が重要です。

このように細やかな指導が必要であることはわかっていても、これまでは外来診療で食事の聞き取りを行うことは時間的余裕もなく困難でした。また、患者側としても毎回の食事を記録することは大変で続けられず、診察時に食事内容を聞いても忘れている場合も多くありました。

シンクヘルスを導入後、その課題は解決されましたか?

はい。リブレViewと一緒にシンクヘルスを患者さんに導入することで、医療従事者が血糖変動と食事の具体的な内容を合わせて把握できるようになりました。
患者さんはシンクヘルス上で食事の写真を撮ったものを記録しながら、血糖、血圧、体重も記録ができるので生活全体の把握を患者さん自身ができるようになりました。
例えば、「XXを食べたら血糖が上がったな。量が多かったのかな?食べる速さの問題だったのかな?」という反省から「次はこうしてみよう!」という行動変容を促すことができるようになりました。
何よりも記録が非常に簡単にできるので、続けやすいとのことでした。

どのようにシンクヘルスを院内で運用しているのか教えてください。

当院では、医師の診察、看護師の療養指導、栄養士の栄養指導の際にはシンクヘルスの食事記録とリブレViewで血糖変動を確認するようにしています。
まず診断時にisCGM (intermittently scanned Continuous Glucose Monitoring)とシンクヘルスを導入しています。その後7〜10日経過した際の診察日に、看護指導ではリブレViewからレポートを印刷しリブレで困ったことや疑問点を患者から聞き取ります。
そしてシンクヘルスの食事記録とリブレViewのレポートを照らし合わせて高血糖や低血糖箇所の気になる部分に関して聞き取りを行います。
栄養指導においては食事写真から足りない栄養素やバランスのアドバイスを行っています。
医師は看護師と栄養士の指導内容を参考に診察を行い、血糖データをみながらインスリン量の調整を行います。

当院の母性内科では2020年4月からシンクヘルスを導入し、これまで190名以上の患者さんがアプリを利用し当院とデータを共有して診療に活用してきました。このうち9割が妊娠糖尿病の患者さんです。このほか1型、2型の糖尿病合併妊娠の患者さんや、今後妊娠を希望する患者さんなどにも導入しています。
患者さんの年齢層は20~40代でスマートフォンを多用する世代です。
妊娠糖尿病の場合には、妊娠期間に限定してアプリの利用を勧めています。アプリを紹介するとほぼ100%が利用してくださり受け入れはとても良好です。アプリの中断も数人程度なので、ご紹介している患者さんの層との親和性が高いアプリだと感じています。

実際にシンクヘルスとリブレViewを併用して導入した事例を教えてください。

妊娠糖尿病患者の事例、妊娠20週で紹介受診
早朝空腹時血糖が100mg/dLを超えていること、2時間値も200mg/dLを超えていることからインスリン導入を初め、isCGMとシンクヘルスを導入し、シンクヘルス上で食事・体重・血糖・血圧を入力するように伝えました。

シンクヘルスの食事記録を見ると、朝食はいつもほぼ同じような品目を摂取していること、サラダは毎食取り入れていることなどがわかりました。食事の画面では食前食後の血糖値も同時に閲覧できるので、朝食後の2時間値が120を超えていることもすぐに把握できました。

この結果を元に聞き取りを行うと、フルタイムの仕事を行う関係上、日中は忙しく、昼食は早食いになりがちなことがわかりました。この情報をもとに、妊娠23週からインスリンを開始することになりました。

さらに、リブレViewの血糖変動レポートとシンクヘルスの食事記録を併用してそれぞれのデータを照らし合わせて見ていきます。グルコース値の山を見て、その時間帯の食事写真を確認しながら指導を行います。例えばサラダに使うオリーブオイルの量が多く見えた場合には、量を多くとりすぎ内容に気をつけましょう、といったことや、夕食のグルコース値の山が21時頃にあり食事記録もその時間帯に摂取していることがわかるので、遅くとも20時までには夕食をとるようにしましょう、など具体的な改善に向けた指導に繋げることができます。

細やかな治療の調整、指導の結果患者さんの経過はどうなりましたか?

こちらの患者さんの治療結果としては、頻回な受診を行い細やかな指導を行うことで血糖が急激に上昇しやすい24週に向け速やかにインスリンを使用できたことで、インスリン強化療法で良好な血糖コントロールを得ることができました。
また、食事についても患者の平日・休日の生活をもとに具体的な指導を行い無理のない食生活の管理ができるようになりました。あまりストレスがかかりすぎないように、外食もして良いと指導しつつ、その代わり食後によく歩くことやゆっくり食事を取ることなど、血糖コントロールに配慮した生活を実践してもらうようにしました。
結果として、胎児成長は順調に進み過成長もなく経過をたどることができました。

シンクヘルスを診療に活用するメリットを教えてください。

これまで食事内容を把握するのに時間がかかっていましたが、写真で事前に把握しておくことができるので診療時間を短縮することが可能になりました。クラウド上でどの医療スタッフも複数人が同時に管理画面を閲覧したり、別の業務に当たっている際にも隙間時間を使って閲覧できるので、医師・看護師・栄養士の業務時間の有効活用にも繋がりました。
また、血糖が目標範囲内であったとしても食事内容を写真で閲覧できることで目標血糖を達成するために過度に糖質を減らしている実態に気づくことができ、速やかにインスリンを導入し胎児の健やかな成長に繋がった事例もありました。
昨今は家族や本人のコロナ感染のために受診が困難になる場合がありましたが、シンクヘルスで血糖・食事の状況を遠隔で把握できるので、電話再診を安全に行うことができます。

アプリを導入することで、患者が来院せずとも遠隔からの血糖・食事・体重を確認可能であり 適切な指導、急激な変化に対応したりインスリンの調整をすることが可能となりました。

医療スタッフの業務改善につながり質の高い診療・指導を提供できるようになりました。シンクヘルスアプリは測定値と生活習慣を対比することができ、妊娠糖尿病患者において血糖管理の向上に有効であると考えます。

施設紹介

国立成育医療研究センター 母性内科
〒157-8535東京都世田谷区大蔵2-10-1
ウェブサイト:https://www.ncchd.go.jp/

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