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クリニック開業準備に必要な期間と知っておくべきこととは

執筆はライター下田 篤男(管理薬剤師・薬局経営コンサルタント)が担当しました。
*シンクヘルスブログ監修・執筆者情報一覧はこちらをご覧ください。

 

「いよいよクリニックを開業しようと思う。でも、どうやって準備したらいいんだろう」

「開業する上で絶対に必要なことってどんなこと?」

医師として働く上で、大きな夢として「クリニック開業」を考えている先生は多いのではないでしょうか。

そこで今回は、クリニックの開業準備と大まかな流れについて解説します。

開業するために必要な期間についても説明しますので、クリニック開業を考えておられる先生はぜひ参考にしてください。

クリニック開業に必要な準備とは

ひとくちにクリニック開業といっても、色々な手法があります。

 

・自分で一から新しくクリニックを開設する

・引退する開業医の後継となる

・廃業した医院の建物を居抜きで活用する

・営業している医院の経営権を買い取る 等

 

今回は一番上の、「自分で一から新しくクリニックを開設する方法(新規開業)」について解説します。

他の3つに関しても、自身で開業することには変わりませんが、準備期間は短縮されますので、ここでの説明は割愛させていただきます。

 

クリニックを開業する上で、やらなければならないことはたくさんあります。

しかし、綿密な計画を立てて具体的なスケジュールを定めて進めていけば、万全な開業ができるはずです。

クリニック開業に必要なこと

クリニック開業には、大まかにいっても以下のようなタスクが必要となります。

 

・事業計画                

・開業地選定

・資金調達

・建物等設計

・医療機器選定

・人事労務

・集患施策

・会計、税務

・行政手続き

 

まずは事業計画を練った上で、色々なタスクを同時並行で進めていく必要があります。

具体的な開業準備スケジュールに関しては次の項を参考にしてください。

クリニック開業準備のスケジュール感

あくまで目安にはなりますが、クリニック開業準備のスケジュール感は以下の通りです。

目安として、具体的な作業として開業地選定が始まるのは1年を切ってからにはなりますが、それ以前に開業構想や収支計画はある程度想定しておく必要はあるでしょう。

開業構想(24ヶ月前〜18ヶ月前)

クリニックを開業するにあたって、最初に実施するべきことは「開業時期」と「クリニックのコンセプト」、「クリニックの経営理念」を固めることです。

クリニックを開業するには土地選びや物件選定をしなければならず、戸建て物件の新築で開業するのであれば、その分の建設期間が必要となります。

 

一般的に、戸建てでの開業は約18ヶ月、テナントでの開業は約12ヶ月の準備期間を設けるべきとされています。

 

つまり、開業したい時期が決まっているならば、その1年〜1年半前をめどに開業準備を始めておく必要があるのです。

開業構想は準備の初期段階であることを考えると、2年前くらいからは進めておきましょう。

事業計画も練っておかなければなりません。

自身の運営するクリニックの治療コンセプトや特徴、経営理念を定め、それを事業計画に落とし込んでいきましょう。

また収支構造や資金繰り、キャッシュフローなども加味し、資金面でも無理のない計画であることを盛り込んでください。

事業計画は、クリニックの運営計画や経営理念、コンセプトを表明するものなだけではなく、資金調達のために説得力のある資料でなければなりません。

収支計画(18ヶ月前~)

開業構想を決めて、具体的な事業計画を練った後は、その事業計画を実現計画なものにするために収支計画を練りましょう。

開業に必要な資金調達をするためには、融資を受ける金融機関の審査が必要となります。

事業計画は素晴らしいものであったとしても、収支計画の見通しが甘ければ融資は受けられません。

18ヶ月前〜12ヶ月前までには、説得力のある事業計画書を作成しておく必要があります。

資金調達(12カ月前~)

収支計画も固まったら、いよいよ次は金融機関からの資金調達です。

作成した事業計画、収支計画を元に、独立行政法人福祉医療機構や日本政策金融公庫、民間銀行などの金融機関からの融資を目指します。

事業計画を元に借り入れ希望金額が決まったら、金融機関との借り入れ交渉をスタートさせます。

事業計画書や趣意書を用意した上で、担当者と面接をして融資の審査が行われます。

この段階で、資金計画に困難な点があれば、担当者とすり合わせることで、審査を通過できるような資金計画へと変更していきましょう。

開業地選定(12ヶ月前)

事業計画がある程度固まったら、資金調達と同時に開業地選定も進めましょう。

ある程度、開業したい地域を決めた後は、実際に診療圏調査を行い、開業に向けてさらに候補地を絞り込んでいきます。

できれば1年前くらいに開業地選定は完了させたいところですが、調査に時間がかかる場合もあります。

遅くとも、半年前までには開業地を確定させましょう。

開業地確定と同時に賃貸借契約も済ませる必要があります。

契約までに金融機関からの融資も確約させておくようにしてください。

設計及び工事(6ヶ月前〜2ヶ月前)

新たにクリニックを建設するために、開業地選定直後から設計や工事などの打ち合わせに入ります。

貸主からの指定があるなど、特別な場合を除いては、医療機関建設や工事などの実績が豊富な会社に依頼してください。

業者を選定する場合は、実際に工事した内装のクリニックを見学させてもらうことで、得意なデザインや建設コストについて確認できます。

また、候補となる業者の施工デザインが載った写真集やホームページなどを確認するすることで、自分のイメージに近いクリニックを作ってくれそうかなどの判断材料になります。

コストは安ければ安いほどいいというわけではありません。

安ければ品質や担当者の質、熱意が低下する場合もあります。

お互いが気持ちよく仕事できる環境を用意することでコスト以上の効果が期待できるのです。

 

また実際に工事を始める前に保健所や消防署などの各機関に構造上問題がないかどうかを確認するのを忘れないようにしましょう。

建設や工事が進んでから、このままでは許可がおりないとなると、時期も後ろ倒しになりますし、余計な再施工費用がかかってしまいます。

設備(6ヶ月前〜1ヶ月前)

内装と同じく、医療機器の選定も進めておく必要があります。

医療機器選定時に改めて事業計画やコンセプトを確認し、合致したものを選ぶようにしましょう。

診察室の広さや患者さんやスタッフの動線を考慮するため、内装と合わせて検討するとスムーズです。

また、今後は電子カルテの導入は必須です。導入予定の医療機器と連携できるかどうかなどを検討するために、医療機器の選定と同時に電子カルテの選定も進めておきましょう。

 

医療機器はメーカーから直接購入する場合と卸業者を通して購入する場合とで労力、時間、コストが異なります。

直接メーカーと交渉することで安価に納入できる可能性が高いですが、労力はかかります。

自身の余力と相談しながら、進めていきましょう。

集患(6ヶ月前〜)

クリニックを開業したからといってすぐに患者さんを獲得できるわけではありません。

集患するためのマーケティング活動が必要です。

集患施策の一環として、クリニックのHPはぜひ開設しましょう。

その上で、本サイト公開前(ドメイン取得後)に、クリニックの概要をご紹介するティザーサイト(開院予告サイト)を作成すると良いでしょう。早めにドメインを取得しておくことで、SEOにも効果的といわれています。

ティザーサイトとは、クリニック名・診療科・住所・院長挨拶・院長経歴・開院日・内覧会のお知らせなどを掲載して、周知を進める目的のものです。

※開業届の申請が受理されるまでは、クリニック名の後に(仮称)が必要なので、注意してください。

 

また、新規開業時には来院を見込んでいる地域住民へクリニックの存在を周知させる必要があります。

そのため、チラシのポスティングや新聞広告などの地域への広告やホームページなどのネット広告といったマーケティング施策を打っておく必要があります。

※医院等の広告については、医療法による規制がありますので注意してください。

厚生労働省HP「医療法における病院等の広告規制について

人事、労務(3ヶ月前〜)

クリニックを開業するからには、自分一人で運営できるわけではありません。看護師や事務スタッフなどの人員を確保する必要があります。

人員計画を策定し、スタッフの就業時間や給与面などを検討します。

また、労働規定など各種規定の作成を行います。

さらに求人広告をだし、面接・採用、雇用契約なども同時並行で進めていかなければなりません。

より理想に近い人材を確保するためにも、時間をかけて求人条件を策定し、求職者への訴求を行いましょう。

 

具体的なスケジュールとしては、開業の1〜3ヶ月前から、雇用するスタッフの募集および採用面接を順次進めていきます。

看護師やクラーク、技師や受付事務など、事業計画策定の際にある程度の人員計画も定めているはずです。必要な人材に応じて、募集広告や求人サイトなどを利用するとよいでしょう。

採用人材も決まったら、開院1ヶ月前くらいから、接遇や院内オペレーション、医療機器取り扱いなどのスタッフ研修を行います。

行政(1ヶ月前〜)

クリニックを開業するには、保健所に「診療所開設届」を提出する必要があります。

また、保険診療を行うために厚生局への「保険医療機関指定申請」も行ってください。

 

こうした行政手続きに不備があると、開業が後ろ倒しになります。

十分に留意して進めていきましょう。

各種公費申請、消防関連の申請も忘れないように進めなければなりません。

提出必要書類等の詳細は管轄の保健所、厚生局にお問い合わせください。

開業準備において注意したいこと

クリニックを開業する上で注意しておきたいことについて解説します。

新規開業を成功させるためにも、以下のことは常に意識しておきましょう。

開業医の年収や特徴について詳しく解説した記事もございますので、ぜひ参考にしてください。

参考記事:開業医の年収をあげるポイントとは?〜儲からない開業医の特徴も徹底解説〜

開業地選定では診療圏調査を十分に行う

開業地選定で行う診療圏調査には重視するポイントがあります。

診療圏にある人口やその人口構成などを確認することで、どのような診療科が必要かがわかります。

例えば、新興住宅街などでは若い夫婦や子連れ家族が多いため、小児科の需要があるなどの情報を得ることができます。

同じ診療圏に競合する医院がどのくらいあるかも重要です。近くに内科があるのに同じ内科を開院しても患者を取り合う形になってしまいます。

ただし、近くに同じ診療科があってもあまり流行っていなかったり、開業医が高齢で後継者がいないなどの情報がわかればあえて勝負するという考え方もあるでしょう。

単純に診療圏に類似する医院があるかどうかだけでなく、さらに踏み込んで競合医院の内容も把握するとよいでしょう。

開業候補地域の特性も把握しておきましょう。近隣に駅や商業施設など、多くの集客が見込める施設がある場合は、患者数が増加するポテンシャルは高くなります。

開院時にはそれほど影響がないかもしれませんが、大規模な開発計画やマンションの建設計画などがある場合、将来的に患者数の増加が見込めます。

 

詳細な診療圏調査は、開業コンサルタントに頼むのが一般的ですが、かなりの費用がかかります。一方、医薬品卸や調剤薬局の開業医誘致部門など、今後継続して取引を行う相手であれば費用が抑えられる可能性もあります。

いずれにせよ、診療圏調査をする際は、必ず自身でも現場に足を運ぶようにしましょう。

現場で自分の目で見てこそ確認できることも多いです。

無理ない資金計画を立てているかを精査する

クリニック開業での資金調達は、金融機関に融資を受けることが一般的です。

綿密な収支計画を立てた事業計画書を元に、融資の審査を受けますが、その際に担当者のアドバイスや質問はしっかりと胸に刻んでおきましょう。

少しでも不安な点があるのであれば、しっかりと精査し、無理のない資金計画を立てていないかを確認してください。

特に、想定患者数などのデータに無理がないかどうかは注視しておかなければなりません。

また、融資が実行され、クリニックの建設工事が始まるタイミングで、家賃の支払いが発生する場合が多いです。そのような事前の支出も、しっかりと事業計画には組み込んでおく必要があります。

内装工事や外構工事では動線確保と法令遵守を意識する

クリニックの内装工事や外構工事では患者さんの動線確保が重要です。また、設計段階から法令遵守の観点から問題ないかどうかもしっかり確認しておきましょう。

この確認を怠ったことで、保健所から許可がおりない、動線が悪いなどの問題が発生してしまうこともあります。

再施工となると開業時期も遅れ、建設費用も高くなり、資金調達に問題を来す危険性も高まります。

導入する医療機器は自身の理念と現実のバランスが重要

導入する医療機器も自身の理想だけを追い求め、無闇に高額なものを求めると、資金調達が困難になるだけでなく、返済計画もシビアになり、クリニックの経営を圧迫します。

機器によっては中古やリースも検討し、コストを抑えることも検討しましょう。

地域の医師会には必ず事前に挨拶をする

クリニックを開業する上で、地域の医師会をリスペクトする姿勢は大切です。

特別な理由がない限りは、地域の医師会へ加入を推奨します。

必ず事前に管轄の医師会事務所に相談に行きましょう。加入条件や入会金について確認してください。

開業場所についてアドバイスを受けることもあります。市民健診や地域当番など、地域医療の一翼を担うこともできます。

会計、税務面の専門家へ相談する

会計処理や税務処理は健全なクリニック経営には必須です。

クリニック開業前に税理士、公認会計士に相談し、会計面、税務面を任せることができるようにしておきましょう。

デジタルソリューションの活用で患者満足度を高める

これからのクリニックは、集患対策を行う上で、デジタルソリューションを活用し、顧客満足度を高めることは有用です。

 

そこで注目されているのが、シンクヘルスなどのPHR(Personal Health Record、生涯型電子カルテ)の活用です。

診察前や診察時に、PHRにより記録された血糖値や血圧などのデータを確認することで、聞き取り時間を削減し、診療時間を短縮できます。

また、栄養指導や療養指導時に食事写真を含めた食事記録や運動記録などを見ながらひとりひとりに合わせたきめ細やかな医療サービスの提供することもできます。

実際にPHRを導入することで、患者さんの治療に役立てている事例を紹介します。

参考記事:デジタル活用で患者さんの体験価値向上とクリニックの経営効率向上を実現~メッセージ機能活用のコツとは~ うるうクリニック港南台 院長 長田潤先生

まとめ

今回は、クリニック開業準備期間と知っておくべきことについて解説しました。

開業する上で、まず医院のコンセプトや経営理念を策定した事業計画を練る必要があります。

また、その事業を滞りなく運用するために、無理のない収支計画を同時に示す必要があります。事業計画を元に資金調達を行い、開業地を選定し、開業準備を進めていきます。

遅くとも半年前には開業地を確定し、クリニックの開設を進めていきましょう。

内装や医療機器の選定を進めると同時に保健所等公的機関とはコミュニケーションをとり、問題なく認可されるかどうかも事前に確認してください。

自らの理想と実際の資金計画のバランスをとりながら、無理ない開業計画を進めていくことが大切です。

 

参考文献:

厚生労働省HP「医療法における病院等の広告規制について」

東京都保健医療局HP「個人で診療所を開設する方」

関東信越厚生局HP「保険医療機関・保険薬局の指定等に関する申請・届出」

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