医療モールで開業を成功に導くポイントとは?患者満足度を高める戦略を徹底解説!

執筆はライター下田 篤男(管理薬剤師・薬局経営コンサルタント)が担当しました。
*シンクヘルスブログ監修・執筆者情報一覧はこちらをご覧ください。
「医療モールでの開業ってどんなメリットがあるのだろう」
「単独開業するよりも医療モールの方が開業しやすいって本当かな」
このように、医療モールでの開業に興味を持っている先生も多いのではないでしょうか。
近年、商業施設やオフィスビルの一角に複数の診療科や医療関連施設が集まる「医療モール」が増加しています。
医療モールでの開業は、単独開業とは異なる特徴を持ち、メリットとデメリットが存在するのです。
そこで今回の記事では、医療モールの概要と種類、増加している背景を解説し、医療モールで開業する際に知っておくべきメリット・デメリットを詳しく分析します。
また、医療モールでの患者満足度を高めるためのPHR(Personal Health Record)活用についても触れ、医療モールでの開業を検討している医師の方々に役立つ情報をお届けします。
目次
医療モールとは?基本概念を理解する
医療モールは従来の単独クリニックとは異なる特性を持ち、患者と医療提供者双方にメリットをもたらす新しい医療施設形態です。2000年代以降急速に普及し始め、現在では全国各地で見られるようになりました。医療モールは医療サービスの提供方法に革新をもたらすとともに、医師の開業スタイルにも多様性をもたらしています。まずは医療モールの基本的な概念と特徴を理解しましょう。
医療モールの定義と特徴
医療モールの主な特徴は以下の通りです。
・一般的に3〜10程度の診療科や医療関連施設で構成
・共有スペース(待合室、駐車場など)を効率的に利用
・ワンストップでの医療サービス提供が可能
・医療連携がスムーズに行える環境
・集客力の相乗効果が期待できる
医療モールとは、複数の診療科や医療関連施設が一つの建物や敷地内に集約された医療複合施設です。
単なる複数の医療機関の寄せ集めではなく、全体としての統一感やブランディングを持ち、相互の連携を前提とした運営が特徴です。
最近では、クリニックだけでなく、調剤薬局、歯科医院、介護施設、フィットネスジム、健康食品店など、健康に関連する様々な施設が組み合わさった「ヘルスケアモール」という形態も登場しています。
医療モールの規模は様々で、小規模なものでは2〜3の診療科のみの構成から、大規模なものでは10以上の医療関連施設が入居する大型施設まであります。特に注目すべきは、患者にとっての利便性が極めて高いという点です。例えば、内科で診察を受けた後、すぐに処方箋を併設の薬局で受け取り、必要に応じて同じ建物内の専門科(皮膚科や整形外科など)へ紹介されるといった、シームレスな医療体験が可能になります。
従来の医療機関との違い
医療モールと従来の医療機関の主な違いは以下の通りです。
・単独クリニックとの違い
複数の医療機関が連携し、より包括的な医療サービスを提供できる
・総合病院との違い
各医療機関が独立した経営体制を維持しながら、連携することで小回りの利く医療を提供
・患者視点の違い
複数の診療科をまたいで受診する場合の移動時間や手続きの手間が大幅に削減される
・建物設計の違い
医療モール全体としての統一感と各クリニックの独自性を両立させた設計が特徴
従来の単独クリニックでは、医師が建物の所有から経営、診療まですべてを担う必要がありましたが、医療モールでは専門分野の診療に集中できる環境が整っています。例えば、総合病院では紹介状が必要だったり、診療科間の移動に時間がかかったりする課題がありましたが、医療モールではこれらの障壁が大幅に軽減できます。
また、建物設計の面でも特徴的です。医療モールでは共用部分のデザインや動線計画が重視され、患者が迷わず目的の診療科にアクセスできるよう工夫されています。さらに、各クリニックのブランドイメージを保ちながらも、医療モール全体としての統一感を持たせるデザインが採用されることが多いです。
医療モールの主なタイプと特徴
医療モールは立地や併設施設によって様々なタイプが存在し、それぞれ異なる特性と集患戦略が必要です。開業を検討する際には、自身の診療科や診療スタイルに合ったタイプを選択することが重要です。
各タイプの特性を理解し、自分の診療科や診療方針に最も適した医療モールを選択することが成功への第一歩となります。
大型商業施設併設型
<大型商業施設併設型医療モールの特徴>
・商業施設の集客力を活かした自然な患者流入
・小児科、眼科、皮膚科、耳鼻科などが適している
・商業施設の営業時間に合わせた夜間・休日診療の需要が高い
・駐車場完備で車でのアクセスが容易
・商業施設の営業時間に左右される場合がある
大型商業施設併設型は、ショッピングモールや大型スーパーに併設された医療モールです。
最大の特徴は、買い物ついでに受診できる「ついで受診」の利便性にあります。
週末を中心に家族連れの来院が多く、特に小児科や眼科などの需要が高まります。
商業施設の営業時間に合わせて19時や20時まで診療を行うクリニックも多く、働く世代にとって受診しやすい環境となっています。
商業施設と医療機関という異なる施設が共存することで生まれる相乗効果も大きな魅力です。例えば、医療モールの待ち時間に買い物ができる便利さや、買い物中に体調不良になった際のセーフティネットとしての役割も評価されています。一方で、商業施設の営業日・営業時間に縛られる可能性があり、独自の診療スケジュールを組みにくい点は留意が必要です。
駅前・駅ナカ型
<駅前・駅ナカ型医療モールの主な特徴>
・通勤・通学途中の患者が多く、平日の朝夕や昼休みの時間帯に集中
・内科、皮膚科、精神科、歯科など通院頻度の高い診療科が適している
・早朝診療や夜間診療のニーズが高い
・公共交通機関利用者へのアクセスが良好
・駐車場が限られる場合が多い
駅前・駅ナカ型医療モールは、通勤・通学の動線上にあることから、特に都市部で人気の高い形態です。朝7時からの早朝診療や、夜間21時までの診療など、働く世代のライフスタイルに合わせた診療時間設定が成功のカギとなるでしょう。
この型の医療モールの特徴的な患者層は、20〜40代の働く世代が中心となります。特に平日の診療では、出勤前、昼休み、帰宅時の3つのピーク時間帯が現れることが多いです。そのため、これらの時間帯に合わせた人員配置や予約枠の調整が重要になります。
最近では、駅ナカ医療モールの中に検診センターを併設するケースも増えており、人間ドックや企業健診などを通勤途中に受けられる利便性が特徴です。一方で、駐車場スペースが限られることが多く、車での来院を前提とした診療科(整形外科など)には不向きな場合もあります。
住宅地密着型
<住宅地密着型医療モールの特徴>
・地域住民のリピート率が高く、長期的な患者関係を構築しやすい
・内科、小児科、整形外科、歯科など日常的に利用される診療科が適している
・平日日中が中心だが、週末診療のニーズも高い
・地域に根ざした医療提供が可能
・新規患者の獲得に時間がかかる場合がある
住宅地密着型医療モールは、地域のかかりつけ医機能を担うことを主眼とした医療施設です。高齢者や子育て世代など、移動距離に制約のある患者層にとって重要な医療インフラとなります。
このタイプの医療モールでは、地域コミュニティとの関係構築が集患の鍵となります。町内会や自治会との連携、地域イベントへの参加、健康講座の開催など、地域に根ざした活動が長期的な信頼獲得につながるでしょう。
住宅地密着型の強みは、特定エリア内での高い認知度と信頼関係の構築にあるでしょう。
例えば、医療モール内の小児科で診察を受けた子どもが成長し、内科や歯科など他の診療科を利用するようになるといった、長期的な患者ライフサイクルを通じた関係性を築くことができます。
一方で、商圏が限定されるため、新規開業時には地域への浸透に時間がかかることがあります。そのため、開業前から地域への挨拶回りや、近隣の既存医療機関との連携体制構築などを計画的に行うことが重要です。成功している住宅地密着型医療モールでは、地域連携室を設置し、介護施設や在宅医療との連携を積極的に推進しているケースも多く見られます。
オフィス街型
<オフィス街型医療モールの特徴>
・ランチタイムや就業後の時間帯に集中
・内科、眼科、歯科、メンタルクリニックなどが適している
・昼休みや夕方以降の診療需要が高い
・企業健診や産業医契約などの機会が得られやすい
・休日や長期休暇時は患者数が減少する傾向
オフィス街型医療モールは、ビジネス街に位置し、主にオフィスワーカーをターゲットとした医療施設です。平日の昼休みや就業後の時間帯に患者が集中する特徴があります。
このタイプの医療モールでは、診療時間の戦略的な設定が非常に重要です。例えば、12時から14時までのランチタイムに予約なしで受診できる「昼休み外来」を設けたり、18時以降の時間帯に予約枠を多く確保したりするなど、オフィスワーカーの生活リズムに合わせた運営が求められます。
実際、成功しているオフィス街型医療モールでは、夕方以降の診療で1日の患者数の60%以上を診ているケースも少なくありません。
企業との連携も大きな強みとなります。周辺企業との産業医契約や健康診断の実施、メンタルヘルス対策としての連携など、B to Bの関係構築が安定した患者基盤につながります。また、企業の福利厚生と連携した「健康経営サポート」などのサービス展開も差別化戦略として効果的です。
一方で、週末や年末年始、ゴールデンウィークなどの長期休暇時には患者数が大幅に減少するリスクがあります。この変動に対応するため、平日と休日で異なる診療体制を構築したり、観光客や買い物客など異なる患者層を取り込むための施策を講じたりする必要があります。オフィス街型医療モールを成功させるには、こうした患者数の波に柔軟に対応できる経営体制が不可欠です。
ハイブリッド型
<ハイブリッド型医療モールの特徴>
・幅広い患者層を対象に、時間帯によって異なる患者特性がある
・多様な診療科の組み合わせが可能
・柔軟な診療時間設定が求められる
・様々な患者ニーズに対応できる
・マーケティング戦略が複雑になる場合がある
ハイブリッド型医療モールは、上記の複数のタイプの特性を組み合わせた形態で、例えば駅前にありながら大型商業施設にも近接しているといった立地条件を活かした医療モールです。
多様な患者層へのアプローチが可能な反面、ターゲットを絞りきれないリスクもあります。
このタイプの最大の強みは、時間帯や曜日によって異なる患者層を取り込めることです。例えば平日昼間は近隣オフィスワーカー、夕方以降は帰宅途中の通勤客、週末は家族連れやショッピング客といった具合に、多様な患者層にアプローチできます。実際の運営データを見ると、曜日や時間帯によって患者の年齢層や受診理由が大きく変化することが特徴的です。
ハイブリッド型では、診療科の組み合わせも重要なポイントとなります。例えば、平日日中は内科や皮膚科などのオフィスワーカー向け診療科を中心に、夕方以降や週末は小児科や整形外科など家族全体をカバーする診療科を組み合わせることで、時間帯による患者層の変化に対応できます。
ただし、多様な患者層をターゲットにするため、マーケティング戦略が複雑になりがちです。ターゲット別のプロモーション戦略や、時間帯によって変化する患者ニーズへの対応など、きめ細かな運営が求められます。成功しているハイブリッド型医療モールでは、患者データを詳細に分析し、それぞれの時間帯や曜日に最適な診療体制を構築している例が多く見られます。
医療モールが増加している背景
近年、医療モールが急速に増加している背景には、患者ニーズの変化や医療提供体制の効率化など、さまざまな社会的要因があります。これらの背景を理解することで、医療モール開業の意義と将来性を見極めることができるのです。医療モールは単なる一時的なトレンドではなく、医療提供体制の構造的変化を反映した現象と捉えることができます。
患者の利便性ニーズの高まり
患者さんの利便性ニーズは以下の点で高まっています。
・ワンストップ医療への需要
複数の診療科を一度に受診できる利便性
・時間効率の重視
待ち時間の短縮や移動時間の削減を重視する傾向
・生活動線上での医療
買い物や通勤など日常の行動範囲内で医療サービスを受けたいというニーズ
・アクセスの良さ
公共交通機関や駐車場の利用のしやすさを重視
患者さんは、医療においても高い利便性を求めるようになっています。
特に働き盛りの世代や子育て世代にとって、時間は貴重な資源であり、医療サービスの選択においても効率性が重視されるようになっています。
特に複数の診療科にまたがる症状がある場合、従来であれば別々の医療機関を日を改めて受診する必要がありましたが、医療モールではこれを1日で完結させることができるのです。
また、最近ではオンライン診療の普及と相まって、初診はオンラインで受け、必要な検査や処置は医療モールで行うといった、オンラインとオフラインを組み合わせたハイブリッド型の医療サービスも増えています。
こうした患者のライフスタイルに合わせた柔軟な医療提供体制が求められる中で、医療モールは理想的なプラットフォームとなっています。
医療機関間の連携強化の必要性
<医療連携強化の必要性に関するポイント>
・地域包括ケアシステムへの対応
多職種連携の拠点としての機能
・紹介・逆紹介の円滑化
医療モール内での患者紹介がスムーズ
・検査・処方の効率化
検査センターや調剤薬局との連携が容易
・医療情報共有の促進
患者情報の共有による医療の質向上
超高齢社会を迎え、複数の疾患を抱える患者の増加に伴い、医療機関間の連携強化は喫緊の課題となっています。厚生労働省が推進する地域包括ケアシステムにおいても、医療・介護の連携は重要な柱です。
医療モールは、こうした連携を実現させることができます。
例えば、内科医が診察中に皮膚疾患を発見した場合、同じ医療モール内の皮膚科に直接紹介することで、患者は別日に別の医療機関を予約する手間が省けるのです。
また、医療情報の共有も容易です。同じ建物内にある医療機関間では、患者の同意のもと、検査結果や診療情報の共有がスムーズに行えます。最新の医療モールでは、モール内の全クリニックで電子カルテを共有し、患者情報を一元管理するシステムを導入するケースも増えています。
さらに、医療と介護の連携も可能です。医療モール内に訪問看護ステーションやリハビリテーション施設を併設することで、退院後の継続的なケアが可能になります。こうした「医療から介護へのシームレスな移行」は、患者の治療効果を高めるだけでなく、医療費の適正化にも寄与しています。
コストがを効率化できる
<コスト効率化に関する主要ポイント>
・共有設備の活用
受付、待合室、検査設備などの共同利用によるコスト削減
・人材の効率的配置
受付スタッフなどの共同雇用による人件費の最適化
・広告・集客コストの分散
医療モール全体でのプロモーション効果
・設備投資の最適化
必要な設備に集中投資できる環境
医療を取り巻く厳しい経済環境の中で、医療機関にもコスト効率の向上が求められています。
診療報酬の改定や人件費の上昇により、従来の経営モデルでは採算が取りにくくなっている診療科も少なくありません。
医療モールでは、様々な面でコスト効率化を図ることができます。
例えば、高額医療機器の共同利用です。CTやMRIなどの高額検査機器を複数のクリニックで共同利用することで、設備投資コストを分散させることができるのです。
小規模クリニックでは導入が難しい高度医療機器も、医療モール全体で共同運用することで採算ラインに乗せやすくなります。
さらに、広告や集客活動のコスト効率も向上します。医療モール全体での広告やウェブサイト運営は、個々のクリニックが別々に行うよりも費用対効果が高くなるでしょう。
特に開業初期の集患活動では、医療モールのブランド力を活かした集客が可能となり、単独開業の場合と比べて初期の広告宣伝費を抑えることができます。
不動産・デベロッパー側の戦略
<不動産・デベロッパー側の戦略に関する主なポイント>
・安定したテナント確保
医療機関は長期契約が多く、安定した賃料収入源となる
・集客アンカーとしての機能
医療機関の来院者が他の店舗も利用する相乗効果
・空きテナント対策
大型商業施設の空きスペース活用法として有効
・地域貢献の側面
地域住民に必要とされる医療サービス提供による評価向上
商業施設やオフィスビルの集客・活性化戦略として、医療モールが注目されています。不動産デベロッパーにとって、医療機関は理想的なテナントと言えます。
一般的な物販店舗の契約期間が3〜5年程度であるのに対し、医療機関の場合は10年以上の長期契約が一般的であり、安定した賃料収入が見込めるでしょう。
また、医療機関は強力な集客装置となります。例えば、ショッピングモール内に医療モールを設置することで、従来は来店しなかった患者とその家族が新たな顧客として流入するでしょう。
さらに、近年の商業施設の苦戦や大型テナントの撤退により生じた空きスペースの有効活用策としても、医療モールは注目されています。大型商業施設の再生プロジェクトにおいて、空きフロアを医療モールに転換することで、施設全体の集客力を回復させた成功例も多く報告されています。
地域貢献という側面も見逃せません。特に地方都市では、医療アクセスの向上が地域課題となっているケースが多く、デベロッパーが医療モールを誘致することで、企業の社会的責任(CSR)を果たすと同時に、地域からの支持も獲得できます。自治体と連携して「医療と商業の複合施設」として開発されるケースも増えており、公民連携の好例となっています。
医療モールで開業するメリット
医療モールでの開業には、単独開業と比較して多くのメリットがあります。これらのメリットを最大限に活かすことで、効率的かつ持続可能な医院経営を実現できる可能性が高まるでしょう。特に開業初期の負担軽減や、安定した集患基盤の構築において、医療モールは大きなアドバンテージを提供します。
初期投資の抑制と固定費の削減
<初期投資と固定費削減に関する主なポイント>
・建物取得コストの削減
自己所有の建物を建設する必要がない
・内装費の最適化
必要最小限のスペースで開業可能
・共用設備の活用
待合室や検査設備などを共同利用できる
・人件費の削減
受付スタッフの共同雇用などによる効率化
・保守・管理コストの分散
建物全体の管理費を分担できる
医療モールでの開業は、経済的負担を軽減できる点が大きな魅力です。
従来の単独開業では、土地の取得や建物の建設に多額の資金が必要でしたが、医療モールではテナント契約により初期投資を大幅に抑えることができます。
具体的な数字で見ると、単独開業の場合、土地・建物だけで5,000万〜1億円程度の投資が必要ですが、医療モールでの開業では内装工事費とテナント保証金で1,000万〜3,000万円程度に抑えられるケースが多いです。
また、共用スペースの活用による効率化も重要なメリットです。待合室や廊下、トイレなどの共用部分は医療モール全体で整備されるため、各クリニックは診療に必要な最小限のスペースだけを確保すればよく、賃料負担を抑えることができます。
さらに、建物全体の保守・管理コストも分散されます。空調システムやセキュリティ設備、清掃サービスなどは共益費として各テナントで分担するため、単独で維持管理するよりも低コストで高品質なサービスを受けられるでしょう。
月々の固定費を抑えながら、専門分野の診療に集中できる環境が整います。
集患の相乗効果
<集患の相乗効果に関する主なポイント>
・他科からの紹介患者
モール内の他診療科からの紹介による新規患者獲得
・「ついで受診」の促進
別の診療科を受診した際に、自院も受診してもらう機会の創出
・複合施設の集客力活用
商業施設や公共施設との併設による集客効果
・共同広告・宣伝の実施
医療モール全体でのプロモーションによるコスト効率の良い集患
・地域における認知度向上
医療モールとしての知名度や安心感
複数の医療機関が集まることによる集患効果は、医療モール最大のメリットです。特に開業初期において、単独開業では苦労する新規患者の確保が比較的容易になります。
医療モール内での紹介連携は特に重要な集患経路です。例えば、内科で高血圧と診断された患者が、同じモール内の眼科で眼底検査を受けたり、皮膚科で薬疹のチェックを受けたりするといった連携が自然に生まれます。
また、「ついで受診」の心理効果も大きいです。患者は一度医療モールに来れば、「ついでに」他の診療科も受診しやすくなります。例えば、子どもの小児科受診に付き添った親が自身の不調を内科で相談したり、歯科検診に来た患者が気になっていた皮膚のほくろを皮膚科で診てもらったりといったケースが頻繁に見られます。
さらに、医療モール全体での広告・宣伝活動も効果的です。ウェブサイトの共同運営、地域情報誌への一括広告、健康イベントの開催など、単独では実施が難しいプロモーション活動も、コストを分担することで実現可能になります。
医療連携の取りやすさ
<医療連携に関する重要なポイント>
・対面でのスムーズな情報共有
直接会話による細やかな患者情報の共有
・検査・診断の即時連携
モール内での検査結果の迅速な共有
・処方と調剤の効率化
併設薬局との連携による患者の利便性向上
・多職種連携の促進
医師、歯科医師、薬剤師、リハビリ職など異なる専門職の連携
医療モール内での連携は、患者ケアの質向上と診療の効率化につながります。同じ建物内にいる医療専門職同士が顔の見える関係を構築することで、より緊密な連携が可能になります。
例えば、複雑な症例について専門医に相談したい場合、通常であれば紹介状を書いて患者に別の医療機関を受診してもらうプロセスが必要ですが、医療モール内であれば直接相談するなどの柔軟な対応が可能です。
検査の連携も円滑です。例えば、内科で血液検査をオーダーし、その結果を皮膚科や整形外科でも参照することで、重複検査を避け、患者の負担を軽減できるでしょう。
先進的な医療モールでは、クラウド型電子カルテを導入し、患者の同意のもとで検査データや処方情報を共有するシステムを構築しているケースも増えています。
また、医師だけでなく、薬剤師、看護師、理学療法士、管理栄養士など多職種との連携も促進されます。例えば、糖尿病患者に対して、内科医の診察後に栄養士の栄養指導、薬剤師の服薬指導、理学療法士の運動指導を一カ所で受けられるといった包括的な医療サービスが可能です。このような多職種連携は、単独クリニックでは実現が難しいケースが多く、医療モールならではのメリットと言えるでしょう。
医療モールで開業する際のデメリット
医療モールでの開業には多くのメリットがある一方で、考慮すべきデメリットや課題も存在します。これらのデメリットを事前に理解し、適切な対策を講じることで、医療モールでの開業を成功に導くことができます。開業の意思決定においては、メリットだけでなく、以下のようなデメリットも冷静に検討することが重要です。
自由度の制限
<自由度の制限に関する主なデメリット>
・内装や看板デザインの制約
医療モール全体の統一感のためのデザイン規定
・診療時間の制限
建物全体の営業時間に左右される場合がある
・設備導入の制約
スペースや電源容量、重量制限などによる制約
・医療モールのルール遵守
共同利用部分のルールや運営方針への順守義務
・独自のブランディングの難しさ
医療モール全体のイメージに埋もれる可能性
医療モールでの開業は、単独開業と比較して様々な制約があります。
まず、内装や看板デザインについては、医療モール全体の統一感やブランドイメージを保つため、色彩や素材、サイン計画などに関する細かい規定が設けられていることが多いです。理想とするクリニックデザインが実現できない場合もあり、こだわりを持つ医師にとっては不満点となることがあります。
診療時間についても、建物全体の営業時間に制約されるケースが少なくありません。例えば、ショッピングモール内の医療モールでは、モールの閉店時間に合わせて診療を終了する必要があり、夜間診療のニーズに応えられない場合があります。また、年末年始やゴールデンウィークなどの休業日も、モール全体のスケジュールに合わせることが求められるケースが多いです。
設備導入についても様々な制約があります。大型医療機器の導入を検討する場合、床の耐荷重制限や電源容量の問題、搬入経路の確保など、建物の構造上の制約に直面することがあります。
また、医療モール全体のルールに従う必要があることも念頭に置くべきです。共用部分の使用方法、広告掲示のルール、患者の誘導方法など、細かなルールが定められており、これらを遵守する義務があります。中には、他のテナントからのクレームにより、当初予定していた運営方法を変更せざるを得なくなるケースもあります。
さらに、独自のブランディングが難しいことも医療モールの課題です。医療モール全体のイメージに埋もれてしまい、個々のクリニックの特色や強みを患者に伝えにくくなる可能性があります。差別化を図るためには、医療モールのルールの範囲内で創意工夫を凝らす必要があります。
賃料や共益費の負担
<賃料や共益費に関する主なデメリット>
・立地による高額賃料
駅前や商業施設内など好立地の場合、賃料水準が高い
・共益費の上乗せ
共用部分の維持管理費用が別途必要
・売上歩合制の場合も
売上に応じた歩合賃料が設定されるケースがある
土地取得費用や建物の建設費用の必要ない医療モールでの開業ですが、賃料や共益費の負担が経営上の大きな課題となることがあります。
特に好立地の医療モールでは、坪単価が高く設定されており、都心部や駅前立地では月額坪単価が2万円〜5万円に達するケースも珍しくありません。
加えて、通常の賃料に加えて共益費が上乗せされることが一般的です。共益費は、共用部分の清掃、警備、設備保守、空調運転などの費用をテナント間で分担するもので、賃料の15〜30%程度が相場となっています。例えば、月額賃料が100万円の場合、さらに15〜30万円の共益費が必要となり、固定費負担が大きくなります。
また、近年では売上歩合制を採用する医療モールも増えています。これは、基本賃料に加えて売上の一定割合(通常3〜5%程度)を上乗せする仕組みで、医療モール側にとっては入居医療機関の業績向上を支援するインセンティブとなる一方、クリニック側にとっては好調時の利益が一部削られるデメリットがあります。
医療モール全体の評判による影響
<医療モール全体の評判影響に関する主なデメリット>
・他テナントの評判による悪影響
他クリニックの問題が自院にも影響
・共通エリアのサービス品質
受付や待合スペースなど共用部分の問題
・SNSやレビューサイトでの風評被害
医療モール全体の名称で検索される影響
医療モールでは、個々のクリニックの評判だけでなく、医療モール全体の評判が各テナントの集患や経営に大きな影響を与えます。これは単独開業にはない特有のリスクと言えるでしょう。
最も懸念されるのは、他テナントの問題が自院の評判にも影響することです。例えば、同じモール内の他のクリニックで医療ミスやトラブルが発生した場合、患者は「〇〇医療モールの医師」という括りで認識することが多く、自院も同様の問題があるとの誤解を招きかねません。
共通エリアのサービス品質も重要な要素です。受付対応の不備、待合スペースの清掃状態、エレベーターの故障など、共用部分の問題は医療モール全体の印象を左右します。
モール全体の運営管理が不十分な場合、どれだけ自院が質の高い医療を提供していても、患者満足度が低下するリスクがあります。
SNSやレビューサイトでの評判も大きな影響力を持ちます。「〇〇医療モール」という施設名で検索した際に、特定のクリニックに関する悪評が表示されると、他のクリニックも同様の評価を受けているという誤解を招きやすいです。
こうした評判リスクに対応するためには、医療モール全体でのガバナンス体制の構築が重要です。テナント間の定期的な情報共有会議の開催、クレーム対応の統一基準の策定、共同での危機管理マニュアルの整備など、予防的な取り組みが効果的です。また、問題発生時には迅速かつ透明性のある対応で、モール全体の信頼回復に努めることが求められます。
PHRを活用した患者満足度向上戦略
医療モールでの開業において、単に集患するだけでなく、患者満足度を高め、リピート率を向上させることが長期的な成功の鍵となります。特に近年注目されているPHR(Personal Health Record:個人健康記録)の活用は、医療モールならではの強みを発揮できる戦略です。複数の診療科が連携したPHR活用により、患者満足度を大きく向上させることができます。
これからのクリニックは、集患対策を行う上で、デジタルソリューションを活用し、顧客満足度を高めることは有用です。
そこで注目されているのが、シンクヘルスなどのPHRの活用です。
診察前や診察時に、PHRにより記録された血糖値や血圧などのデータを確認することで、聞き取り時間を削減し、診療時間を短縮できます。
また、栄養指導や療養指導時に食事写真を含めた食事記録や運動記録などを見ながらひとりひとりに合わせたきめ細やかな医療サービスの提供することもできます。
実際にPHRを導入することで、患者さんの治療に役立てている事例を紹介します。
参考記事:デジタル活用で患者さんの体験価値向上とクリニックの経営効率向上を実現~メッセージ機能活用のコツとは~ うるうクリニック港南台 院長 長田潤先生
まとめ
医療モールでの開業は、コスト面や集患、他の診療科と手を組みやすいというメリットがあります。その反面、自分の思い通りにできない制約や、高い家賃負担といった課題もあるのが現実です。
成功するためには、自分の診療スタイルに合った場所選び、細かい契約内容のチェック、他のクリニックとの上手な連携、そして自分だけの強みづくりが大切です。
さらに、患者さんの健康データを共有できるPHRなどのデジタル技術も積極的に取り入れると良いでしょう。
これからは予防医療に力を入れたタイプや、オンラインと対面診療を組み合わせたタイプなど、様々な医療モールが登場してきます。開業を考えている先生は、まず自分の目指す医療のかたちを明確にして、しっかり市場調査を行い、専門家に相談しながら計画を進めることをお勧めします。
参考文献:
わが国における医療モールの推進整備状況とマネジメント課題|産業能率大学研究論文