【医師監修】刺さない血糖自己測定器 CGMとは?
当記事は、内科認定医・糖尿病専門医 古賀 萌奈美先生にご監修いただきました。
執筆はライター下田 篤男(管理薬剤師・薬局経営コンサルタント)が担当しました。
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「インスリン治療を行なっている患者さんの血糖管理が難しい」
「患者さん自身に常日頃から血糖値を意識してほしいけど、血糖測定するのに指先穿刺が必要なためお願いしづらい」
このように考え、患者さんへSMBG(Self Monitoring Blood Glucose、血糖自己測定)を推奨することに躊躇する方も多いのではないでしょうか。
しかし、糖尿病の治療において患者さんの血糖管理は非常に大切です。そこで、この記事では最新の血糖測定器について解説していきます。
最新の血糖測定器は、指先穿刺が不要なものが登場しています。
また、家庭で記録した血糖値をPHRアプリで管理することのメリットについても紹介します。
目次
なぜ血糖値測定が重要なのか
糖尿病の治療でもっとも重要となるのが、血糖値ができるだけ正常値になるよう管理することです。
そのためには日常的に血糖値の変化を把握できなければなりません。
血糖値管理の重要性
糖尿病は、慢性的に血糖値が高くなった状態です。血糖値が高いまま放置しておくと、眼、腎臓、神経などに種々の合併症を引き起こします。
そのため、運動療法や食事療法、糖尿病治療薬の使用などで、血糖値を正常な状態に維持しておくことが、糖尿病治療では非常に大切です。糖尿病の方にとって良好な血糖値の維持はQOLを上げるためにも重要です。
血糖値管理が難しい患者さん
糖尿病の治療に関わるうえで、特に血糖値管理が難しい場合を知っておかねばなりません。
例えば、インスリン依存状態の方や、悪阻や妊娠週数によって血糖値に変動が出やすい妊娠糖尿病の方などは血糖値管理が難しく、気づかないうちに低血糖を引き起こしてしまうことがあります。
また、感染症などに罹患し食事がとれないなどのシックデイ時には、普段血糖値管理がうまくいっている患者さんでも血糖変動が大きくなり、著しい高血糖や低血糖をきたす可能性があります。
低血糖は、命に関わる重篤な症状に発展する場合もあります。そのため、血糖値管理が難しい患者さんにとって、日々の血糖測定は重要な意味を持つといえるのではないでしょうか。
そこで活躍するのが、血糖自己測定器です。
血糖自己測定器を使用することで血糖トレンドを知ることができ、日常の治療に生かすことができます。また、インスリン注射などの血糖値を下げる注射薬を治療で使用している場合や、妊娠糖尿病の方など、自宅での血糖測定が必要な場合はSMBGなど血糖測定にかかる費用は保険適用となります。
具体的には、血糖測定のためのセンサー、穿刺具などの消耗品や、測定器などです。血糖値管理が難しい患者さんには是非検討してください。
最新の血糖自己測定器にはどのようなものがあるの?
近年、血糖自己測定器は大幅な進化を遂げています。
以前は、血糖値を測定するために血液が必要となるため、指先穿刺が必要でしたが、今では指先穿刺なしでも血糖値を測定できるようになりました。
ここからは、最新の血糖自己測定器を紹介しながら、日々の糖尿病治療に活かしていくメカニズムを紹介していきます。
血糖測定器の問題点
正確な血糖値の動態を把握するためには、1日に何度も測定を行なう必要があります。
従来の血糖自己測定器は指先穿刺で血液を採取しない限り、血糖測定ができません。1日に何度も指先穿刺を行なうため、患者さんにとってSMBGは苦痛を伴うものでした。
その上、血糖測定を忘れてしまうとその間のデータ採取ができませんので、正確な血糖トレンドが取れなくなってしまうのです。また睡眠中は血糖測定できませんので、寝ている間に低血糖が起こったとしても当然対応できません。
刺さない血糖自己測定器①CGM
最新の血糖自己測定器には大きくわけてCGMとisCGMの2つあります。
CGM(Continuous Glucose Monitoring、持続グルコースモニタリング)は、皮膚に貼付したセンサーにより皮下間質液中の糖濃度を測定することによって、血糖トレンドをモニタリングできるシステムのことです。 センサーを貼付している間、測定することが可能となっているので、1日の血糖値の動きを把握することができます。
ただし、CGMは血液中ではなく、皮下間質液の糖濃度を計測するという性格上、血糖値との補正(較正)を行なう必要があることに注意しておく必要があります
刺さない血糖自己測定器②isCGM
isCGM(intermittently scanned CGM、間歇スキャン式持続グルコースモニタリング)は、CGMをより簡便にしたシステムです。FGM(Flush Glucose Monitoring)とも呼ばれています。
上腕部の皮下に留置されたセンサーに より、皮下間質液中の糖濃度を連続的に計測することができます。CGMでは、常に血糖値を計測する形ですが、isCGMでは測定器をかざした際にのみセンサーデータを読みとるというシステムです。
また、アプリを利用することで患者さんが自身の血糖トレンドを確認することも大きなメリットといえます。isCGMでは較正は工場出荷時に行われているため、CGMと違い血糖値との補正を行う必要はありません。
CGMとisCGMのメリット、デメリットについて
ここまでは、刺さない血糖自己測定器であるCGMとisCGMについて紹介してきました。
では、ここからはCGMとisCGMを利用することで生じるメリットとデメリットについて解説していきます。
CGMとisCGMのメリット
CGMとisCGMのメリットにはどのようなものがあるでしょうか。
指先穿刺によるSMBGでは、計測する時にしか血糖値を知ることができないのと違い、CGMやisCGMはセンサーを装着している間、連続して測定することができます。そのため、血糖値をグラフ化することができ、日々の血糖トレンドを知ることができます。
睡眠中などもセンサーを装着したままでよいので、夜間低血糖などにも気づきやすくなります。CGMやisCGMで使用するセンサーは防水加工がされており、入浴中でも外したりする必要はありません。
また、CGMとisCGMでは基本的に指先穿刺を必要としませんので、「針を刺して痛いのが嫌で血糖測定はしたくない」患者さんや、「血糖測定をする時に人目が気になる」患者さんにとっては血糖測定に対するハードルを下げるというメリットもあります。
このように、CGMとisCGMは、患者さんの血糖測定に関するストレスを低減し、持続的に血糖値をモニタリングすることができるというメリットがあるといえるのではないでしょうか。
CGMとisCGMのデメリット
では、CGMとisCGMにはデメリットはないのでしょうか。
指先穿刺によるSMBGと比べるとメリットしかないように思われがちですが、当然CGMとisCGMにもデメリットはあります。
CGMとisCGMでは基本的に指先穿刺は必要ないとお伝えしましたが、全くしなくてもよいわけではありません。まず、CGMについては先にも述べましたが、皮下間質液の糖濃度と実測血糖値との補正(較正)を行なう必要があります。
較正には、実際の血糖値のデータが必要になりますので、定期的に指先穿刺によるSMBGを行わなければなりません。ただし、isCGMは工場出荷時に較正が行われているので、日常の計測で指先穿刺による計測値補正は必要ありません。
しかし、isCGMもCGMと同様に、皮下間質液中の糖濃度を計測することで血糖値を断定するシステムです。実際は、血糖値が皮下間質液中の糖濃度に反映されるまでに5分ほどのタイムラグが存在します。急激な変化のない血糖トレンドであれば問題はありませんが、急激な血糖値の変化をすぐに反映しない場合があることを考慮する必要があります。
測定値が急激に変化し、低血糖や高血糖の状態になった場合や、測定値と実際の症状が一致していない場合(例:血糖値は正常なのに、冷や汗などの低血糖症状が出ている状態など)には、指先穿刺によるSMBGが必要となります。
この点をしっかりと理解した上で、CGMやisCGMを治療に活かしていく必要があります。
血糖自己測定器とPHR
CGMとisCGMが誕生したことによって指先穿刺の回数も減り、血糖測定に関するストレスも緩和されました。
また、血糖値の変動をグラフ化できることもあり、糖尿病の患者さんの血糖トレンドを簡単に把握できるため、日常の治療にも応用されるようになっています。
ここからは、CGMやisCGMをPHRで管理する方法について解説していきます。
血糖測定とPHR
糖尿病治療において、日常の血糖トレンドを把握することは非常に重要です。血糖値も重要な医療情報で、PHRを活用することで治療効果を高めることができます。ここからは家庭で測定した血糖値をPHRで管理することのメリットを解説していきます。
CGMやisCGMで得られた血糖データはグラフ化できることはすでに述べました。
患者さんにCGMデータを連携できるPHRアプリを利用してもらうことで、日々の血糖トレンドを簡単に振り返ることができるようになります。シンクヘルスアプリをはじめとするPHRアプリでは、血糖値の他に食事や運動、体重などを記録することができるため、血糖値と食事や運動の関係が可視化され、行動変容を促します。
また、この血糖値データをPHRに連携させることで、患者さん自身の同意があれば医療機関でもそのデータをリアルタイムで確認できるようになります。ただし、医療機関側で血糖測定値を確認することができるPHRのプラットフォームを導入していることが前提となることは覚えておいてください。
患者さんのPHRを把握することで、低血糖やシックデイなどのリスクを未然に防ぐ、といったようなよりきめ細やかな医療サービスも提供できます。例えば、次回診察時に処方薬を見直したり、運動療法や食事療法の策定などより具体的な治療アドバイスもできるようになります。
このように、CGMやisCGMで得られる血糖測定値をPHRに連携させることで、従来は血糖値管理が難しいタイプの糖尿病患者に対しても、より安心感のある治療を進めることができるようになったのです。
まとめ
今回の記事では、最新の血糖自己測定器について紹介し、血糖測定とPHRを治療に活用していく意義について解説しました。
以前は血糖測定は、その都度指先穿刺によって自己の血液を採取する必要がありました。指先穿刺による痛みや、人前で血糖測定をすることへの心理的ハードルが高いため、患者さんにとって血糖測定は負担になっていました。
また、測定時しか血糖値を把握することができないため、測定行為自体を忘れてしまったり、測定できなかったりで正確な血糖トレンドを知ることができないという欠点もありました。
しかし、測定技術の発達により、CGMやisCGMという血糖測定方法が開発され、指先穿刺の回数が格段に減り、常に血糖値測定ができるようになりました。CGMやisCGMにより、血糖トレンドのグラフ化、睡眠時の低血糖リスクの発見などもできるようになったのです。
従来は血糖値管理が難しかった1型糖尿病の方や妊娠糖尿病の方、シックデイの患者さんでも、PHRと血糖測定器を連携させることで血糖コントロール改善の一助となるでしょう。糖尿病の患者さんの治療に、CGMやisCGMによる血糖トレンドとPHRの連携は必要不可欠といってよいのではないでしょうか。
【参考文献】
FGM を用いた 2 型糖尿病重症化予防の試み(厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業) (分担)研究報告書)
日本の糖尿病患者における持続グルコース測定 (CGM) の現況(北里医学 2022; 52: 35-41)
糖尿病治療におけるデバイスの進歩(西村 理明 著、2018)