Sync Health Useful Blog 医療機関お役立ち情報 Sync Health Useful Blog 医療機関お役立ち情報

Sync Health Useful Blog

医療法人化のメリットとは?個人開業医が知っておくべき法人化の知識

  • カテゴリ

執筆はライター下田 篤男(管理薬剤師・薬局経営コンサルタント)が担当しました。

*シンクヘルスブログ監修・執筆者情報一覧はこちらをご覧ください。

 

「医療法人化すると何かメリットがあるのかな」

「手続きが大変そう」

このように、医療法人について気になっている先生も多いのではないでしょうか。

医療法人化は個人医院と比べて、節税できたり、診療所・病院以外の関連施設を開設できるなど、事業拡大する上では必要な手続きと考えることができます。

そこで今回は医療法人化を目指すうえで知っておきたいことを解説します。メリットだけでなくデメリットについても紹介しますので、医療法人化を検討されている先生はもちろん、個人医院を開業されたばかりの先生もぜひ参考にしてください。

医療法人とは―個人医院との基本的な違い

医療法人とは、医療法に基づいて設立される法人であり、病院や診療所などの医療機関を開設・運営することを目的とした法人格です。一方、個人医院は開業医個人が事業主となって運営します。

個人医院と医療法人の最も基本的な違いは、個人医院では医院と院長個人の財産が法律上区別されないのに対し、医療法人では法人の財産と個人の財産が明確に分離されるという点です。また、個人医院は院長の死亡や引退により継続が困難になる場合がありますが、医療法人は理事長が交代しても法人として継続できる永続性があります。

税制面では、個人医院は所得税(累進課税、最高45%)の対象となるのに対し、医療法人は法人税(原則23.2%)が課税されるという大きな違いがあります。

医療法人化による主なメリット

医療法人化することで期待できるメリットには次のようなものがあります。

・節税効果が期待できる
・事業拡大を目指せる
・社会的信用性と知名度の向上               
・将来の安定性の確保

医療法人化することで、節税効果が期待できたり、事業拡大に適していたりと、経済面でのメリットが多いです。ここからは、それぞれのメリットについて詳しく解説していきます。

節税効果が期待できる

医療法人化による最も大きな利点は税金面での優位性といえます。個人で医院を経営している場合、収益から経常経費を差し引いた利益は、すべて個人の事業所得として扱われることになります。

個人事業への所得税率は以下の通りです。

表:国税庁のHPを元に、シンクヘルス株式会社で作成

 

日本では累進課税制度を採用しており、所得が増えるにつれて適用される税率も高くなります。所得税に加え、課税所得に対して一律10%の住民税も課されます。

上の表を見ても分かる通り、所得が1,800万円以上を超えると所得税率が40%となり、4,000万円以上になると45%にもなります。これに住民税を加えると、実に収入の半分が税金として徴収されることになります。

一方、医療法人化を選択すると、医院の収益は個人ではなく医療法人の事業所得として扱われます。この場合の法人税は、次の計算方法で算出されます。

表:国税庁のHPを元に、シンクヘルス株式会社で作成

 

このような税率の大きな違いにより、医療法人化を選択することで、実質的な税負担を軽減できる可能性が高いといえるでしょう。

 

クリニック開業時に導入した医療機器については、税法上、開業後6年間までは償却費として計上できる特例がありますが、7年目以降はこの減価償却費の計上が認められません。この転換点で課税対象額が増加することから、開業から7年目の時期は、医療法人化への移行を真剣に検討すべき戦略的なタイミングといえるでしょう。

事業拡大を目指せる

医療法人化の大きな利点として、事業の多角展開が可能になる点が挙げられます。法人化により、第二の診療所や分院の設置はもちろん、介護老人保健施設などの介護関連事業所、看護学校、医療研究所といった多様な施設を展開できるようになります。

 

このように医療法人として事業領域を拡大し、多角的な経営戦略を実施することで、総収益の向上や安定した経営基盤の構築が期待できるでしょう。多方面からの収入源を確保することで、経営の安定性も高まります。

社会的な信用性と知名度の向上

医療法人への移行により、個人事業形態と比較して社会的な信頼性が大幅に高まります。その結果、金融機関からの融資を受けやすくなるため、さらなる事業展開を可能にします。また、法人としての知名度が上昇することで、優秀な医療人材の獲得においても有利に働くでしょう。

将来の安定性の確保

医療法人化の重要な利点として、長期的な経済的安定が挙げられます。

法人化後は、毎月の役員報酬に加え、退職金制度の導入も可能となります。 具体例として、最終月額役員報酬が200万円で役員在任期間が25年の場合、退職慰労金(功績倍率3倍と仮定)と特別慰労金は次のように算出されます。

 

 
・退職慰労金 200万円(最終月額役員報酬)×25年×3(功績倍率)=1億5000万円  

・特別功労金 4000万円程度(退職慰労金の30%を超えない範囲で設定可能)
 

退職金には一般的な給与所得よりも優遇された税率が適用されるため、将来への効果的な資産形成手段となります。

同時に、法人側も退職金支払いを経費として計上できることから、双方にとって税務上の利点が生まれます。 

 

また、医療法人化の重要なメリットとして、事業承継の簡素化も挙げられます。法人化された医療機関では、単に理事長職を交代するだけで事業継承が完了します。

一方、個人経営のクリニックでは、事業規模や収益状況に応じて多額の相続税や贈与税が発生することが避けられません。 

そのため、将来的に子供や親族にクリニックを引き継がせる計画をお持ちの先生は、早い段階から医療法人化を検討されることをおすすめします。

医療法人制度の詳細については、厚生労働省のウェブサイトに掲載されている情報が参考になりますので、ぜひご確認ください。

 

参考記事:厚生労働省HP「医療法人・医業経営のホームページ」

医療法人化のデメリット

医療法人への移行は様々な恩恵をもたらしますが、その反面、考慮すべきデメリットも伴うことを理解しておく必要があります。

 

・手続きの複雑さと行政対応の負担               
・社会保険加入の義務化 

 

医療法人への移行に伴う最大の課題は、複雑な行政手続きの存在です。これは法人設立時の一時的な負担にとどまらず、その後も継続的に求められる各種届出や報告義務など、経営者に相応の事務的負担を強いることになります。

手続きの複雑さと行政対応の負担

医療法人化における最大の障壁は、必要となる多岐にわたる複雑な手続きです。

法人設立に際しては、各種書類の提出だけでなく、医療法人化説明会への出席、法人定款の作成、自治体による面接、保健所の実地調査など、通常の診療業務に加えて様々な事務作業が発生します。さらに、法務局での登記手続きや保健所への各種申請なども必要となります。これらの煩雑な手続きが理由で、医療法人化を検討しながらも断念される開業医の先生は少なくないでしょう。

法人化後も事務的負担は継続します。自治体による監督が強化されるため、以下のような義務が生じます。

 

・決算終了後3ヶ月以内に事業報告書等の必要書類を監督自治体へ提出

・役員変更があった場合や2年ごとの役員一覧を法務局へ提出

・事業報告書や監査報告書の閲覧請求への対応

 

このように、医療法人化は多くの利点がある一方で、移行時のみならず法人運営においても継続的な事務処理が求められます。

社会保険加入の義務化

医療法人へ移行すると、スタッフを社会保険に加入させることが義務となります。健康保険、介護保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険といった各種社会保険料は給与の約30%にのぼり、その半額を法人側が負担しなければなりません。

 

この制度により、医療法人は従業員の社会保険料負担が増加することになります。ただし、法人化による税制優遇などの恩恵を総合的に考慮すれば、社会保険料の増加は、全体的なメリットを大きく損なうものではないといえるでしょう。

医療法人化を検討すべきタイミングと条件

医療法人化にはメリットも多いですが、少なからずデメリットもあることがわかりました。

ここからは、医療法人化を検討すべきタイミングと条件について解説します。

収益規模による判断

一般的に、年間の医業収入が3,000万円を超え、年間所得が1,000万円を超えてくると、医療法人化による税制上のメリットが出始めるとされています。ただし、これはあくまで目安であり、個別の状況によって最適な判断は異なります。

将来展望からの判断

以下のような将来計画がある場合は、医療法人化を検討する価値があります。

 

 診療所の拡大や分院の開設を計画している

 後継者への承継を視野に入れている

 開業して7年が経過し、減価償却費の計上が認められなくなる

 複数の医師でグループ診療を行いたい

 スタッフの増員や福利厚生の充実を考えている

診療所の拡大や分院の開設を計画している

医療法人化することで、複数施設の運営が制度上容易になります。法人として資金調達力も向上するため、事業拡大の際の銀行融資も受けやすくなります。また、複数施設間でのスタッフの異動や医療機器の共有も効率的に行えるようになります。

後継者への承継を視野に入れている

医療法人の場合、理事長職の交代という形で比較的スムーズに事業承継ができます。個人病院と比較して、相続税や贈与税の負担を大幅に軽減できるため、家族への円滑な事業継承が可能になります。後継者にとっても経営基盤が整った状態で引き継げるメリットがあります。

開業して7年が経過し、減価償却費の計上が認められなくなる

開業時に購入した医療機器等は6年間のみ減価償却が認められますが、7年目以降はこの恩恵がなくなり、課税所得が増加します。

法人化による税率の優遇を受けることで税負担の急増を抑制することができます。多くの医師がこのタイミングで法人化を選択するのです。

複数の医師でグループ診療を行いたい

医療法人では複数の医師が共同経営者として参画しやすい体制を構築できます。役割と責任の分担が明確になり、各医師の専門性を活かした診療体制の確立が可能です。また、当直や休診日の調整など、ワークライフバランスの改善にもつながります。

スタッフの増員や福利厚生の充実を考えている

法人化により社会的信用や知名度が向上し、優秀な人材の確保がしやすくなります。

また、退職金制度や各種手当など充実した福利厚生を整備しやすくなり、スタッフの定着率向上に貢献します。法人としての規模拡大により、研修制度の充実やキャリアパスの提示も可能となるのです。

ライフプランとの整合性

医師自身のライフステージも重要な判断材料です。開業後間もない時期よりも、ある程度診療が安定してきた時期や、相続対策を考え始める時期などに検討するケースが多いようです。

医療法人化の手続きの流れ

医療法人を設立するための主な手続きを簡単にまとめると以下の通りになります。

 

事前相談:顧問税理士や医療経営コンサルタントと相談

定款の作成:医療法人の目的、名称、事業内容、役員構成などを定める

出資金の準備:医療法人の資産となる資金の準備

定款の認証:公証人による定款の認証を受ける

都道府県知事への認可申請:必要書類を添えて申請

認可:都道府県医療審議会の審査を経て知事による認可

設立登記:法務局で法人設立登記を行う

届出・許認可手続き:保健所、社会保険事務所、税務署などへの各種届出

なお、手続きの詳細や必要書類は都道府県によって異なりますので、事前に確認するようにしてください。

まとめ

医療法人化は、単なる税金対策ではなく、医療機関の将来像や院長のライフプランを踏まえた戦略的な判断が求められます。そのメリットを最大限に活かすためには、税理士や医療経営の専門家と十分に相談し、自身の診療所の財務状況や将来計画に合わせた適切な判断をするようにしてください。

法人化により得られるメリットと、それに伴う事務負担やコストのバランスを見極め、「いつ」「どのような形で」医療法人化するかを検討しましょう。

また、一度法人化した後の解散は容易ではないため、将来を見据えた慎重な判断が必要です。

 

参考文献

厚生労働省HP「医療法人・医業経営のホームページ」

国税庁HP「所得税の税率」

国税庁HP「法人税の税率」

USEFUL INFO.最新お役立ち情報