2024年の診療報酬改定でおさえておきたいポイントとは?
執筆はライター下田 篤男(管理薬剤師・薬局経営コンサルタント)が担当しました。
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2024年は、2年に1回行われる診療報酬改定の年です。今回の診療報酬改定では、従来の診療報酬改定に加えて、医師の働き方改革も同時期に実施されるため注目を集めています。
そこで今回は、2024年の診療報酬改定でおさえておくべきポイントを解説していきます。
今回の診療報酬改定のポイントを把握しておくことによって、今後の医院経営に活かしていきましょう。
目次
2024年診療報酬改定の時期は?
2024年の診療報酬改定は、従来の診療報酬とは時期がずれているので注意が必要です。
診療報酬改定のスケジュールを事前に把握し、対策を考えていきましょう。
例年よりも2か月遅れの6月1日施行予定
2024年の診療報酬改定は従来の4月改定から2か月後ろ倒しとなる6月1日施行となります。
引用:中央社会保険医療協議会 総会(第 551 回) 議事次第
従来よりも時間的な幅を持たせることで、システムベンダーの負担を減らすことができます。
また、十分な周知期間をとることができるので改定後の混乱を縮小させることが狙いだと考えられています。
2024年の診療報酬改定スケジュールの注意点
ただし、診療報酬改定は6月ですが、薬価改定は従来通り4月です。
薬価改定後およそ半年かけて価格交渉等を行ったり、毎年の薬価調査等もあったりしますので、薬価改定は従来通り4月となりました。
また医師の働き方改革に伴う医師の労働時間上限の設定も4月からスタートします。
このように、診療報酬改定とタイミングがずれている制度もありますので注意が必要です。
2024年診療報酬改定の基本認識
ここからは2024年診療報酬改定の内容について解説していきます。
今回の診療報酬改定に関する基本認識は、以下のように示されています。
- 物価高騰・賃金上昇、経営の状況、人材確保の必要性、患者負担・保険料負担の影響を踏まえた対応
- 全世代型社会保障の実現や、医療・介護・障害福祉サービスの連携強化、新興感染症等への対応
- 医療DXやイノベーションの推進等による質の高い医療の実現
- 社会保障制度の安定性・持続可能性の確保、経済・財政との調和
今回の医療報酬改定は、6年に一度の診療報酬、介護報酬および障害福祉サービス等の同時改正となる節目の改定となっています。
特に、団塊の世代が全員75歳以上となる2025年以降を見据えた全世代型の社会保障の実現は喫緊の課題です。
また、新型コロナウイルスの大流行で顕在化した医療のデジタル化の遅れを解消していくため、医療DXの推進が明記されました。
2024年診療報酬改定の具体的方向性
いままで紹介してきた基本認識を踏まえて、今回の診療報酬改定についての具体的な方向性について解説していきます。
この方向性を理解しておくことで、医院経営にも活かしていくことができるはずです。
診療報酬本体については「プラス0.88%の引き上げ」が決定しています。
医療人材の確保や賃上げ
医療人材の確保は今回の改定の重点課題に位置付けられています。患者の高齢化が進むにつれ、医療需要は増加する一方です。
対して、医療の担い手は慢性的な人材不足にあえいでいます。今回の診療報酬引き上げの大部分は、40歳未満の勤務医・勤務歯科医、薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所に勤務する歯科技工士などの賃上げにに充てられます。入院基本料や初再診料の見直しで対応する予定です。
また、看護師や病院薬剤師などの医療従事者に対しては、2024年度にベースアップ分で2.5%の賃上げ、25年度に同じく2.0%の賃上げを行うことが武見厚労相・鈴木財務相の間の話し合いで決まりました。
この賃上げ財源分として、今回の改定で外来・在宅ベースアップ評価料、入院ベースアップ評価料という評価が新設されます。
医師の働き方改革
4月からは医師の時間外労働に制限を設ける、医師の働き方改革もスタートします。
医師の働き方改革も、今回の改定重点課題に位置付けられています。
医師の働き方改革が本格的にスタートすることで、従来のように医師に長時間労働を強いることはできなくなります。
地域医療体制確保加算の施設基準に、医師の時間外・休日労働時間に係る基準を追加する事が義務化されます。
実際に今回の改定では、医師事務作業補助体制加算の見直しや薬剤業務向上加算の新設などで、看護師や薬剤師など他職種へのタスクシェアが評価されるようになります。
業務効率化、医師から他業種へのタスクシェアなどを進めることで、この課題に対応していかなくてはなりません。
参考記事:医師の働き方改革を実現するために必要な業務効率化とタスクシェア
地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の強化、連携の推進
地域包括ケアシステムの深化・推進も今回の改定の大きな柱です。2025年以降も高齢者は増え続け、その受け皿となる地域医療も大きな転換期を迎えています。
質の高い医療を適切に受けられるよう、介護サービス等と連携しつつ、切れ目のない提供体制を確保されることが重要です。
外来・入院・在宅を含めた地域全体での医療機能の分化・強化、連携を着実に進めることが必要なのです。
例えば、高齢の救急患者に対し、一定の体制を整えたうえで、リハビリ・栄養管理・入退院支援・在宅復帰等を包括的に提供する「地域包括医療病棟入院料」が新設されます。
この切れ目のない医療提供体制を実現するために医療DX推進をさらに加速していく必要があります。2023年よりオンライン資格確認や電子処方箋のシステムは本格的に導入されていますが、まだまだ全国的に普及しているとはいえません。
今後は、現行のオンライン資格確認をさらに充実させ、介護保険、予防接種、母子保健、公費負担医療などもマイナンバーカードへの紐付けが実現していく予定です。
医療情報を有効的に活用していくことは、適切な医療を提供することにもつながるのです。
今回の改定で、医療DX推進体制整備加算も新設される事が決まりました。
診療報酬改定で0.88%の引き上げがおこなわれますが、その大半は医療従事者の待遇改善に充てられるため、このような新規加算は確保していかなければなりません。
今後の医院経営において、デジタル化は医院の利益確保のためには必要不可欠といえるでしょう。
安心・安全で質の高い医療の推進
今回の改定では、原材料の高騰などの世相を反映し、入院時食事療養の費用額が上がります。
食材料費や光熱費など物価が高騰している中で、患者にとって必要な質の高い医療を確保しなければなりません。
安心・安全で質の高い医療の推進も、日本が進める全世代型社会保障を実現するうえで非常に大切です。
さらに、今回の改定では、重点的な対応が求められる分野への適切な評価(小児医療、周産期医療、救急医療など)や、口腔疾患の重症化予防に配慮した歯科医療の推進などが挙げられます。
重点的な対応はもちろん、口腔疾患などが重症化する前に治療を進めることは患者のQOLの維持だけでなく、医療費の削減につながるためです。
普段から地域住民が質の高い医療に接する環境作りを推進する必要があるのです。
効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上
今回の改定では、後発医薬品やバイオ後続品の使用促進、長期収載品目使用の場合の自己負担の見直しが予定されています。
これは、高齢化や高度な医療技術の承認などにより医療費の増大が見込まれているためです。
日本が世界に誇る、国民皆保険制度を維持するためには、「制度の安定性・持続可能性を高める不断の取組が必要」です。
団塊の世代全員が後期高齢者となる2025年をターゲットに医療保険制度の安定性・持続可能性の向上につながる様々な施策が進められてきました。
今回の改定は、この2025年をまたぐ重要な改定です。医療関係者が協働して、医療サービスの維持・向上を図るとともに、効率化・適正化を図ることが求められるのです。
今回の診療報酬改定を踏まえた対策は?
ここまでは、今回の診療報酬改定のポイントについて解説してきました。
ここからは、このポイントを踏まえて、実際の医院経営ではどのような点に注意しておく必要があるのかを紹介していきます。
医療DXへの対応
2024年の診療報酬改定を見据えた準備の重要なポイントの一つが医療DXへの対応です。
近年の新型コロナウイルスの大流行で、日本の医療のデジタル化が遅れていることが顕著になりました。
その後、「医療DX令和ビジョン2030」の提言がなされ、医療DXが急速に推進されています。
オンライン資格確認やオンライン診療により電子処方箋の発行も進みつつあります。特にオンライン診療は急速に普及し、医療の新たな形態として注目されています。
この動向を踏まえ、医療機関はオンライン診療にも対応できる体制整備も視野に入れておく必要が出てきました。
具体的な対応策としては、適切な情報通信機器の導入や患者とのコミュニケーション手段の確保、安全な電子カルテの活用などが挙げられます。
在宅医療でも往診に変わってオンライン診療も認められるようになり、患者の高齢化が進む現状では、あらゆるニーズに対応していかなければなりません。
さまざまなニーズに対応し、質の高い診療を提供するためにオンライン診療システムの導入はもちろん、PHRサービスなど遠隔でも患者さんの状況を正確に把握できるデジタルツールの需要が高まっています。
実際に、政府主導で医療情報の一元化とそれに伴うPHRサービスの活用が進められています。今後、これらのツールの導入が必須になるとも考えられているため、今から情報収集や準備を進めていくとよいでしょう。
参考記事:【医師監修】医療DX令和ビジョン2030とは?~医療情報の有用性とPHR~
PHR(パーソナルヘルスレコード)とは?医療機関での活用方法を解説!
医師の働き方改革への対応
医師の働き方改革における施策の一つである、医師の時間外労働上限の設定は4月からスタートします。
診療報酬改定にも医師の働き方改革に即した新評価が設定されるため、医師の労働時間には気を配っておく必要があります。
また、診療報酬改定による点数引き上げは、医師や他職種の賃上げに相当し、医院の利益を担保するものではありません。
このため、医院経営を軌道に乗せていくうえでも、医師の働き方改革の遵守は必須です。
医院の業務効率化や医師から他職種へのタスクシェアで効率的な医院経営を目指しましょう。
まとめ
今回は、2024年の診療報酬改定について解説しました。
診療報酬改定は0.88%引き上げられますが、医師や他職種の賃上げなども含まれたものとなり決して楽観できるものではありません。
2025年には団塊の世代が全て後期高齢者となり、医療需要はさらに高まっていきます。
特に今回の改定では、医療、介護、障害福祉サービス等報酬の3つともに改定されるため、重要かつ大規模なものとなっています。
その中でも注目されているのが、医療DXの推進と医師の働き方改革でしょう。
電子カルテやPHRサービスをはじめとするデジタルツールの導入を進め、業務効率化と医師から他職種へのタスクシェアを行うことで医療DXにも医師の働き方改革にも対応できるはずです。
参考文献