生活習慣病管理料の算定要件とは?【令和6年度診療報酬改定】
執筆はライター下田 篤男(管理薬剤師・薬局経営コンサルタント)が担当しました。
*シンクヘルスブログ監修・執筆者情報一覧はこちらをご覧ください。
「今回の診療報酬改定で、生活習慣病管理料(Ⅱ)が新設されたけど、(Ⅰ)と(Ⅱ)ってどういう時に算定できるのだろう」
このように考えておられる先生も多いのではないでしょうか。
糖尿病や高血圧、脂質異常症といった、いわゆる「生活習慣病」を持つ方の治療は医院の経営を安定化する上では非常に重要です。
いままではこの3つの疾患を持つ方への医学的管理として、特定疾患療養管理料を算定してきました。
今回の令和6年度診療報酬改定では、特定疾患療養管理料からこれら3つの疾患は外され、代わりに新設される生活習慣病管理料(Ⅱ)へと移行しました。
また、従来から設定されていた生活習慣管理料は、生活習慣管理料(Ⅰ)となりました。
そこで今回は、令和6年度の診療報酬改定で改正された生活習慣病管理料について解説していきます。
従来の特定疾患療養管理料との算定要件の違い等も紹介していますので、糖尿病内科や循環器内科、内分泌科の先生はもちろん、これらの疾患を持つ方を治療する可能性のある先生はぜひ参考にして下さい。
目次
生活習慣病管理料とは
生活習慣病管理料とは、脂質異常症、高血圧症、糖尿病を主病とする患者さんの総合的な治療管理を行った際に算定できる点数です。
今回の診療報酬改定で、生活習慣病管理料が(Ⅰ)と(Ⅱ)に分けられました。
ここからは、実際に生活習慣病管理料を算定するにあたっての考え方や注意点を解説します。
生活習慣病管理料(Ⅰ)と(Ⅱ)
従来の生活習慣病管理料は、患者さんの同意を得て治療計画を策定したうえで、服薬、運動、休養、栄養、喫煙、家庭での体重測定や血圧測定、飲酒およびその他療養を行うにあたっての問題点等の生活習慣に関する総合的な治療管理を行った時に算定できるものとされていました。
さらに1ヶ月に1回の診察や、療養計画書の策定、診療録への検査値の記録、注射、病理診断が必要となるなど算定要件がかなり多いため、医療機関にとってはかなりの負担になっていました。
そのため、1ヶ月に1回の診察が困難であったり、そもそも毎回の診察で検査を行うことが難しい場合などは算定できませんでした。
今回の診療報酬改定で、従来の検査、注射、病理診断などを含む生活習慣病管理料(Ⅰ)と検査等を含まない生活習慣病管理料(Ⅱ)とに分けられることになりました。
生活習慣病管理料(Ⅰ)は、いままでの生活習慣病管理料を踏襲するものです。
一ヶ月に1回の定期診察は撤廃されましたが、従来通り検査や注射、病理診断を包括するもののため、気軽に算定できるものではありません。
ただし、上記全てを行うことが確定している場合は、算定も視野に入れておきましょう。
対して、生活習慣病管理料(Ⅱ)に関しては、検査等を包括しないため算定の機会は増えるでしょうし、現行の特定疾患療養管理料が算定できなくなるためにぜひとも算定したい点数です。
なお、生活習慣病管理料(Ⅱ)は、生活習慣病管理料(Ⅰ)算定月から6か月は算定できませんが、令和6年度診療報酬改定前に【生活習慣病管理料】を算定していた患者さんについては、算定時期にかかわらず生活習慣病管理料(Ⅱ)を算定できます。なお、同一の保険医療機関において、生活習慣病管理料(Ⅰ)を算定する患者さんと、生活習慣病管理料(Ⅱ)を算定する患者さんが同時期にそれぞれいても問題はありません。
生活習慣病管理料(Ⅰ)の点数、および算定要件
生活習慣病管理料(Ⅰ)
01 脂質異常症を主病とする場合 610点
02 高血圧症を主病とする場合 660点
03 糖尿病を主病とする場合 760点
生活習慣病管理料(Ⅰ)の算定要件のポイントは、厚生労働省の資料を参考にまとめると、以下のようになります。
[生活習慣病管理料(Ⅰ)算定要件のポイント]
※厚生労働省の資料をもとにシンクヘルス株式会社にて作成
生活習慣病管理料(Ⅱ)の点数、および算定要件
生活習慣病管理料(Ⅱ) 333点(月1回に限る)
生活習慣病管理料(Ⅱ)(情報通信機器を用いた場合) 290点(月1回に限る)
※情報通信機器を用いた場合は療養計画書への署名は電子署名などで代用可能
生活習慣病管理料(Ⅱ)の算定要件のポイントは、まとめると以下のようになります。
[生活習慣病管理料(Ⅱ)算定要件のポイント]
※厚生労働省の資料をもとにシンクヘルス株式会社にて作成
生活習慣病管理料を算定する際の留意事項
生活習慣病管理料はその名の通り、患者さんの病状を管理し、把握しておくという意識が非常に重要です。
実際に生活習慣病管理料を算定する際、以下の留意事項を意識しておきましょう。
・糖尿病を主病とする患者さんに関しては、従来の眼科に加え歯科の受診を勧奨する。
・多職種連携に関しても明文化されたため、チーム医療で患者さんと向き合う。
・28日以上の長期処方やリフィル処方箋も対応可能であることを掲示する。
長期処方やリフィル処方箋の周知義務に関しては、厚生労働省が作成するポスターを掲示することで条件を満たすことができます。
もちろん、明示したからといって全ての患者さんに対し、長期処方やリフィル処方箋を発行するということではありません。
患者さんの治療を進めるうえで、安定していない患者さんやこまめに診察が必要と感じるのであればその旨を丁寧に患者に説明すれば問題ないはずです。
生活習慣病管理料(Ⅰ)と(Ⅱ)の区別はどう考えるか
ここからは、生活習慣病(Ⅰ)と(Ⅱ)の違いと、実際に算定する上での注意点について解説します。
生活習慣病管理料(Ⅰ)、(Ⅱ)の包括する内容
生活習慣病管理料は(Ⅰ)と(Ⅱ)に区分されることになりましたが、それぞれで包括する内容が変わります。
ここでは、厚生労働省の資料をもとにそれぞれが包括する内容を表にしてみました。
※厚生労働省の資料をもとにシンクヘルス株式会社にて作成
生活習慣病管理料(Ⅰ)は、通常の診察に加え、検査、注射、病理診断を包括します。
対して、生活習慣病管理料(Ⅱ)では、検査等は包括しません。ただし、ニコチン依存症管理料、療養・就労両立支援指導料など医学管理料の包括範囲は(Ⅰ)よりも多くなります。
生活習慣病管理料(Ⅰ)、(Ⅱ)の施設基準
生活習慣病管理料の施設基準は以下の通りです。
※厚生労働省の資料をもとにシンクヘルス株式会社にて作成
生活習慣病管理料(Ⅰ)、(Ⅱ)はどちらを算定すべきか
では、実際に糖尿病や高血圧、脂質異常症の患者さんを診察する際に生活習慣病管理料は(Ⅰ)と(Ⅱ)どちらを算定すべきでしょうか。
従来、特定疾患療養管理料を算定していた先生にとっては、生活習慣病管理料(Ⅱ)の算定が現実的といえるでしょう。
多くのクリニックでは、生活習慣病管理料ではなく、算定要件がより緩やかな特定疾患療養管理料を算定していました。
しかし、今回の診療報酬改定で「糖尿病」、「高血圧」、「脂質異常症」の3疾病は、特定疾患療養管理料の対象から外されました。
その受け皿として、今回生活習慣病管理料(Ⅱ)が新設されたのです。
生活習慣病管理料(Ⅰ)は、従来の生活習慣病管理料を踏襲したものです。
従来より診察時に検査、注射、病理診断などを包括する生活習慣病管理料を算定していた先生は、そのまま生活習慣病管理料(Ⅰ)を継続して算定するとよいでしょう。
従来の特定疾患療養管理料と生活習慣病管理料(Ⅱ)との違い
それでは、従来の特定疾患療養管理料とどのような違いがあるのかを解説していきます。
特定疾患療養管理料を算定している患者さんを生活習慣病管理料(Ⅱ)の算定へとスムーズに移行させることができるように、しっかりと理解しておくようにしてください。
療養計画書の作成が必要
従来の特定疾患療養管理料と新設される生活習慣病管理料(Ⅱ)の大きな違いは、「療養計画書」の有無です。
生活習慣病管理料(Ⅱ)を算定する為には療養計画書を作成しなければなりません。
療養計画書への記載内容は以下のとおり定められています。
・対象患者に対して治療計画及び療養計画書を策定すること
・療養計画書は当該患者の治療管理において必要な項目のみで差し支えない
・療養計画書を基に患者へ治療計画の説明を行い、患者の署名による同意を得ること
・交付した療養計画書の写しは診療録に添付しておくこと
・保険者から特定保健指導を行う目的で情報提供の求めがある場合、患者の同意の有無を確認し療養計画書に記載し、同意を得ている場合には必要な協力を行うこと
・療養計画書の内容に、変更がない場合は療養計画書のこの限りではない。その場合においても、療養計画書について“患者又はその家族から求めがあった場合”、“概ね4か月に1回以上”は交付すること。
・患者の求めに応じて、電子カルテ情報共有サービスにおける患者サマリーに、療養計画書での記載事項を入力し、診療録にその記録及び患者の同意を得た旨を残している場合は、療養計画書の作成及び交付をしているものとみなす。
・血液検査結果を手交している場合、又は患者の求めに応じてその旨を患者サマリーに記載している場合は、療養計画書の血液検査項目についての記載は不要。
※療養計画書のフォーマットはこちらをご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/topics/2008/03/dl/tp0305-1e_0002.pdf
療養計画書が必要と聞くと、かなりハードルが高いのではと考える先生も多いのではないでしょうか。
しかし、実際には、『療養計画書は当該患者の治療管理において必要な項目のみで差し支えない』という指摘の通り、患者さんの治療に関する基本的な確認事項を記載しておくことで条件を満たすことがわかります。
そもそも、従来の特定疾患療養管理料でも、患者さんの治療を行う上で治療計画を策定し、検査値を確認したり栄養指導などの指導は必要であったはずですし、あらためて明文化したものが療養計画書と考えておくとよいでしょう。
なお、生活習慣病管理料(Ⅰ)も療養計画書の作成が必要です。
療養計画書の作成については、詳しく解説した記事がございますので、そちらを参考にしてください。
参考記事:生活習慣病管理料を算定するための療養計画書の書き方のポイントとは?
生活習慣病管理料(Ⅱ)へと移行するうえで注意したいこと
従来の特定疾患療養管理料は、月2回まで算定が認められていましたが、生活習慣病管理料(Ⅱ)は月1回までしか認められていません。
また、療養計画書に、患者さんから同意の署名をもらう必要があります。
あらためて署名をもらう必要があることを、診療報酬改定前から周知しておくとスムーズに対応できるはずです。
療養計画書への署名については、初回は必須になりますが、2回目以降は、「療養計画書の内容を患者に対して説明し、患者がその内容を十分に理解したことを医師が確認し、その旨を療養計画書に記載した場合」については、患者署名は省略可能です。
また、医師による丁寧な説明を行なった上で、医師以外の薬剤師・看護職員等が追加的な説明を行い、診察室外で患者の署名を受けた場合も算定可能です。
生活習慣病管理料(Ⅱ)を算定するために
生活習慣病管理料(Ⅱ)は、現行の特定疾患療養管理料の受け皿として想定されていることはわかりました。
ここからは、実際に生活習慣病管理料(Ⅱ)を算定するにあたって、医療機関としてどのように考えるのかを説明します。
算定できなければ、医院経営には大打撃
現在糖尿病、高血圧症、脂質異常症の患者さんを主に診察しているクリニックでは、特定疾患療養管理料を算定しているはずです。
例えば、再診の患者さんの場合は以下のような点数加算になります。
これを今回の生活習慣病管理料(Ⅱ)を算定する形で想定してみましょう。
特定疾患療養管理料の対象から糖尿病、高血圧症、脂質異常症が外されてしまうため、従来算定できていた特定疾患処方管理加算2も算定できなくなります。
また、外来管理加算は、生活習慣病管理料(Ⅱ)に包括されていますので別で算定することができなくなります。
再診料の点数は上がっているものの、これらのマイナス部分があるため、全体としては、16点のマイナスとなってしまいます。
特定疾患療養管理料を生活習慣病管理料(Ⅱ)に移行しても16点マイナスなのに、もし生活習慣病管理料(Ⅱ)を算定しなければさらに大きなマイナスとなってしまいます。
療養計画書などでハードルが高く感じられるかもしれませんが、しっかりと算定して診療報酬改定によるマイナスを最小限に食い止めましょう。
今までは月2回まで特定疾患療養管理料を算定できていたのですが、生活習慣病管理料(Ⅱ)は月1回までしか算定できません。
そのため、今まで2週間ごとの診察で月2回診察をしていた先生は、月1回の診察に切り替えることになるはずです。
この機会に定期患者の月1回の診察に切り替え、新たな患者さんの獲得や、個人宅や保養施設への往診など新たなビジネスモデル獲得へのチャンスととらえるようにしてください。
また、思い切って生活習慣病管理料(Ⅰ)の算定を検討してもよいでしょう。
再診の糖尿病患者さんに生活習慣病管理料(Ⅰ)を算定する場合、以下のような点数計算になります。
生活習慣病管理料(Ⅰ)は、検査、注射、病理診断などを包括します。
診察のたびに検査が必要で、高度な治療管理が必要と考えられるのであれば、生活習慣病管理料(Ⅰ)の算定に踏み切ってもよいはずです。
多職種連携が算定のカギ
生活習慣病管理料の施設基準で、「治療計画に基づく総合的な治療管理は、歯科医師、看護師、薬剤師、管理栄養士等の多職種と連携して実施することが望ましい。」という文言が盛り込まれた通り、多職種連携はもはや必須といってよいでしょう。
実際に糖尿病の治療にデジタルソリューションを活用していることで多職種連携や血糖自己測定もスムーズに行なうことができます。
参考記事:チーム医療による糖尿病療養支援に活用しています 岡山済生会総合病院 内科・糖尿病センター 副センター長 利根淳仁先生
参考事例のように、普段の診察に加えてデジタルソリューションを活用することで、医師だけでなく、多職種で連携し治療にあたることができますし、患者さんとの双方向コミュニケーションも実現できます。
指導内容の記録が今後より重要に
生活習慣病管理料を算定するにあたって、療養計画書の作成・同意が必要になったということから、今後、計画書に基づいた指導を行っているかどうかのエビデンスを求められてくる可能性も十分考えられます。
指導内容の記録とデジタルソリューションの活用は親和性が高い
シンクヘルスなどのデジタルソリューションを活用することで、患者さんとのやり取りや、チームで行った指導内容の記録、血糖値や血圧等の様々な数値の推移を残しておくことが可能となります。
また、栄養指導やそれに対する患者さんの行動変容なども記録できますので、充実した指導記録を残すことができるのです。
指導内容の記録は新たな技術料の算定にもつながる
生活習慣病管理料(Ⅰ)および(Ⅱ)では、年に1回血糖自己測定指導加算が認められています。
血糖自己測定指導加算 500点
2型糖尿病でインスリン製剤を使用していない患者(当月もしくは前月にHbA1cがJDS 8.0%以上(NGSP 8.4%以上))に対して、月20回以上の血糖自己測定の実施と検査値、生活状況等に関する患者からの報告に基づく指導、療養計画への反映を行った場合、年1回算定できる。
※算定はSMBGに限る。
血糖自己測定指導加算を算定する上で、シンクヘルスなどのデジタルソリューションで患者さんの血糖自己測定の回数を記録しておけば、対応しやすくなります。
このように、療養計画の策定や多職種連携、計画に沿った治療内容のエビデンスは今後の医療経営で大きなウエイトを占めてくるのではないでしょうか。
デジタルソリューションを活用することで、これらの課題を克服できるはずです。
まとめ
今回は、2024年度の診療報酬改定で改定される生活習慣病管理料について解説しました。
今まで特定疾患療養管理料の対象だった糖尿病、高血圧症、脂質異常症の3つの疾患が外されてしまうため、これらの疾患の患者さんについては生活習慣病管理料(Ⅱ)を算定しなければクリニックの経営に大きな影響を及ぼしてしまいます。
療養計画書の作成が必要などの条件はありますが、しっかりと算定するようにしていきましょう。
生活習慣病管理料の算定では、多職種連携の必要性も高まっています。
シンクヘルスなどのデジタルソリューションを導入することで多職種連携や治療管理もスムーズに行なうことができます。
参考資料
令和6年度診療報酬改定に関する参考資料について (厚生労働省)