WebORCA の概要と導入のメリット・課題とは
執筆はライター下田 篤男(管理薬剤師・薬局経営コンサルタント)が担当しました。
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「WebORCA(ウェブオルカ)を導入しているところが増えたらしいけど、実際どうなんだろう」
このように、WebORCAが気になっている先生も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、WebORCAを深堀りします。
導入するメリットや課題についても紹介しますので、ぜひ参考にして下さい。
目次
WebORCAとは
WebORCAは、日本医師会ORCA管理機構株式会社が提供するクラウドサービスを利用するレセプトソフトです。ここでは、WebORCAの概要と従来版からの改良点について紹介します。
WebORCAの概要
ORCA(Online Receipt Computer Advantage)プロジェクトは、2000年に日本医師会でスタートした医療現場のIT化を支援するプロジェクトで、医療機関が誰でも無料で使用できるレセプトソフトを配布しています。
2015年12月より日本医師会ORCA管理機構株式会社が運営を受託しており、多くの医療機関で採用されているのです。ORCAプロジェクトが始まってから20年以上経過し、日本医師会標準レセプトソフトを導入している医療機関はすでに19,000件を超えています。
元々はパッケージ版として始まったオンプレミスの商用版ORCAは、旧クラウド版ORCA、そして現在のWebORCAと進化を遂げてきています。
オンプレミス版、旧クラウド版との違い
現在のWebORCAは2021年10月に提供開始され、従来のオンプレミス版や旧クラウド版の欠点を改善して、より快適な運用ができるようになりました。
ここでは、オンプレミス版と旧クラウド版の特徴をあげ、WebORCAでの改善された点について解説します。
オンプレミス版の特徴
・院内にサーバーを設置しなければならず、院内にスペースを確保する必要がある
・多くの医療機関で導入されており、信頼性が高い
・日レセオンプレミス版は、順次OSサポートが終了する
日レセオンプレミス版は、現在も多くの医療機関で使われており、信頼性が高いレセプトソフトです。
ただし、WebORCAの提供開始もあり、順次OSサポートが終了します。
旧クラウド版の特徴
・クラウド上にサーバーを設置するため、院内の省スペース化につながる
・オンプレミス版と比較すると、レスポンスが遅く、動作環境が課題
オンプレミス版は院内にサーバーを設置する必要がありました。この欠点を改善するために誕生したのがクラウドを利用するレセプトソフトです。
ただし、オンプレミス版と比べるとレスポンスが遅く動作環境が課題になっていました。
WebORCAでの改善点
・旧クラウド版の欠点だった動作速度が大幅に向上している
・ブラウザでも利用できる
・アクセス数の増大にも対応可能
・災害に強いデータセンターで情報が管理できる
・オンプレミス版をバージョンアップさせることも可能
このように、オンプレミス版や旧クラウド版のレセプトシステムを改善し、今後の医療のICT化に対応したのがWebORCAなのです。
WebORCA導入のメリットと注意点とは
ORCAオンプレミス版から旧クラウド版、そして現行のWebORCAと日本医師会のレセプトソフトは進化を遂げてきました。WebORCAになって、それまでの製品の欠点を克服しています。
WebORCA導入のメリット
WebORCA導入で、以下のようなメリットがあります。
・サーバー不要のため院内の省スペース化を実現
・インターネット環境があれば使用できるためいろいろな場所で活用できる
・地域医療連携、多職種連携に参加しやすくなる
・指定の機器購入などの縛りはなく、コスト削減につながる
・さまざまなクラウドサービスと連携できる
ここからは、それぞれのメリットについて解説します。
クラウドのため診療報酬改定等に自動で対応
診療報酬改定や新薬発売、規格変更、剤形追加など、制度改正、医薬品の追加、変更などに伴うプログラムの更新は全てクラウド上で行われます。
医療機関側での対応が不要で、更新業務がスムーズに進行するため、医療現場での負担は軽減されます。
院内の省スペース化を実現
WebORCAは、オンプレミス版で必須となるサーバーの設置は必要ありません。
サーバー設置で必要となる煩雑なケーブル配線などの設置作業は、医療機関側にも大きな負担となっていました。
WebORCAであればインターネットにつながる端末があれば利用可能です。占有スペースも少なくできるため、限られた院内スペースを有効活用できます。
インターネット環境があれば使用できるためいろいろな場所で活用できる
WebORCAはインターネットがつながる場所であれば、どこでも活用できます。
院内のデスクトップPCだけでなく、ノートPCやタブレットなどのモバイルツールにも対応していますので、往診先でレセプトや請求書、処方箋を発行したり、自宅で治療内容の確認をしたりすることもできます。
地域医療連携、多職種連携に参加しやすくなる
WebORCAの活用で、地域医療連携・多職種連携に参加しやすくなります。
組織でのグループ内連携が構築しやすくなり、医療・介護の連携が容易になるのです。
また、医学の向上など公益に資する研究に参加しやすくなります。
指定の機器購入などの縛りはなく、コスト削減につながる
一般的な医療機器メーカーによるオンプレミス版のレセプトコンピューターシステムを利用する場合、メーカーが指定するパソコンやサーバー代などが必要となる場合があり、初期費用がかさんでしまいがちです。
WebORCAはクラウドを利用し、あらゆる場所でも活用できることを想定しているため、でいろいろなデバイスに対応しています。
自前のPCやタブレットを活用できるため、初期費用を節約することができるのです。
また、更新作業などもクラウド上で無料で行われるため、追加費用等も不要で、コスト削減につながります。
さまざまなクラウドサービスと連携できる
WebORCAはさまざまなクラウドサービスと連携できるのが特徴です。
例えば、日本医師会ORCA管理機構株式会社には、WebORCA以外に以下のようなクラウドサービスソフトウェアがあり、連携して使用することができます。
・給管帳クラウド版:給付管理/介護報酬請求/訪問看護請求ソフトウェア
・特定健診システムクラウド版:健診医療機関電子化対応を支援
・MI CAN:地域医療連携のための紹介状作成ツール
・SignedPDF Client ORCA:HPKI電子署名ソフトウェア
・DiedAi:死亡診断書(死体検案書)作成ソフト
WebORCA導入で注意すべきこと
WebORCA導入で注意点があるとすれば、ネットワーク障害などのインターネット環境に問題が起こった場合でしょう。
何らかの理由で、インターネット環境が稼働しない場合、クラウドを利用するWebORCAは患者情報などを取り出せない危険性があります。
このような場合に備え、日本医師会ORCA管理機構株式会社では、ネットワーク障害、データセンター障害、その他の理由によるシステム停止や医療機関への災害・ハードウェア故障等に対応したハイブリッドサービスを用意しています。
WebORCAハイブリッドサービス運用図(日本医師会ORCA管理機構株式会社HPより引用)
また、WebORCAはシンプルで使いやすいことが特徴であるものの、画面がやや簡素でデザイン性に欠けるとの意見もあります。
見やすさなどインタフェース面にこだわりのある先生にはやや物足りなく感じるようです。
インターフェースの改善は今後のWebORCAの課題といえるのではないでしょうか。
WebORCAを導入しよう
ここからはWebORCAの実際の導入方法について紹介していきます。
スケジュール感やランニングコストに関しても解説しますので、WebORCAの導入を検討している先生はぜひ参考にして下さい。
WebORCA導入手順
WebORCA導入フローチャート(日本医師会ORCA管理機構株式会社HPより引用)
一般的なWebORCA導入スケジュールは上記の通りになります。実際に運用を開始するのは契約締結から3ヶ月目になりますので、導入スケジュールには余裕を持っておいた方がよいでしょう。
検討
導入スケジュール・予算・ネットワーク構成など、WebORCAを活用するシチュエーションを想定し、必要なデバイス等の検討を進めます。
契約・申し込み
検討課題がクリアになった段階で、日本医師会ORCA管理機構株式会社にクラウドサービスを申し込み、クラウド利用契約を締結します。
アカウント受取・機器導入
WebORCAを利用するため、電子証明書等のアカウントを受けとり、利用する機器・デバイスに端末へ電子証明書及びクライアントソフトを導入します。
日レセマスタ設定・サービス開始
日レセマスタに医療機関情報等を登録し、クラウドサービスを開始します。申し込みから3週間程度でクラウドサービス開始となります。
教育・練習
本格的に運用を開始する前に、利用するスタッフの教育を行い、スムーズに運用できるように練習します。
運用開始
契約から3ヶ月目を目処に本格運用を開始します。実際にWebORCAでのレセプト請求がスタートします。
WebORCAの導入にかかる費用は?
WebORCAの利用料は以下のとおりです。
※料金は税込みです。
WebORCAの利用料は、一般的なレセプトコンピューターと比べると安く設定されています。
WebORCAに関するQ&A
ここからは、WebORCAに関するよくある質問に回答します。
オンプレミス版は使えなくなるの?
現在、多くの医療機関で使用されている日医標準レセプトソフトオンプレミスの商用版は、OSのサポートが終了となり、将来的にWebORCAのオンプレミス版に移行される予定です。
クラウドに抵抗がある先生でもWebORCAのオンプレミス版という選択肢があるのです。
WebORCAのオンプレミス版もクラウド版のWebORCAのスキームで統一されます。
WebORCAはオンライン資格確認に対応している?
WebORCAは、オンライン資格確認にも対応しています。
追加費用も必要ありません。
オンライン資格確認について詳しく解説した記事がありますのでそちらもお読み下さい。
WebORCAは電子カルテ機能も備わっている?
WebORCA自体はレセプトソフトであり、電子カルテ機能は備わっておりません。
しかし、40種類以上の電子カルテシステムと連携し、医療機関で活用されています。
まとめ
日本医師会主導のレセプトソフト「WebORCA」は旧クラウド版の弱点であった動作速度の遅さを克服し、スムーズな運用と医療機関内の省スペース化を実現した次世代型クラウドサービスレセプトソフトです。
オンライン資格確認にも対応し、さまざまなクラウドサービスとも連携しており、医療現場だけでなく、介護現場や往診先でも活用できます。
多くの電子カルテと連携できるため、診療業務の効率化にもつながります。
医療機関でもクラウドサービスの利用が広がってきており、さまざまなサービスが出てきています。PHRなど患者さんの日々の状況を把握できるクラウドサービスなども合わせて検討してみてもいいかもしれません。
参考文献:
日本医師会ORCA管理機構株式会社「WebORCA クラウド構築手順書」
日本医師会ORCA管理機構株式会社「WebORCA オンプレミス版について」
日本医師会ORCA管理機構株式会社「日医標準レセプトソフト稼働状況」
日本医師会ORCA管理機構株式会社「WebORCAハイブリッドサービス」