糖尿病治療におけるチーム医療の必要性とは?

執筆はライター下田 篤男(管理薬剤師・薬局経営コンサルタント)が担当しました。
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「糖尿病のチーム医療の重要性は理解しているんだけど、実践できていないな・・・」
「チーム医療はどうやって整備すればよいのだろう」
このように、糖尿尿などの慢性疾患の治療においてチーム医療の重要性は理解しているものの、なかなか実践となると難しいと考えている先生は多いのではないでしょうか。
慢性疾患の治療では、医師による診察だけでは十分ではありません。他の医療従事者も協力して患者さんが治療を進めていくことが理想です。
そこで今回は、糖尿病などの慢性疾患におけるチーム医療の必要性について解説していきます。チーム医療をどのように導入していけばよいか悩んでいる先生は、ぜひ参考にしてください。
チーム医療とは
チーム医療とは、異なる専門分野の医療従事者が協力して患者さんの治療に取り組む方法です。この医療提供の形では、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士などが、それぞれの専門知識やスキルを活かしてチームを組み、患者さんを総合的にサポートします。具体的には、医師が診断と治療方針を決定し、看護師が日常的なケアを行い、薬剤師が服薬指導を担当します。また、管理栄養士が食生活のアドバイスを行い、理学療法士がリハビリテーションを指導することで、各専門家が連携して患者さんの健康を支えるのです。
チーム医療の最大のメリットは、複雑で多様な患者さんのニーズに対し、より包括的で効果的な治療を提供できる点です。このアプローチにより、一人ひとりの患者さんの全体的な健康状態を考慮し、最適な治療法を見つけることが可能です。その結果、治療の効果が向上し、患者さんの満足度も高まるとされています。さらに、複数の視点から患者さんをサポートすることで、医療の質が向上し、医療従事者同士の協力関係も強化されます。
糖尿病治療ではチーム医療が重要となる
糖尿病治療においては、チーム医療が欠かせません。医師が適切な治療方針を決定し、看護師が日常のケアを行い、薬剤師が服薬の指導を担当します。また、管理栄養士が食事管理をサポートし、理学療法士が運動指導を行うなど、各専門家が連携して患者さんを包括的にサポートします。このアプローチにより、患者さんの健康状態が改善され、生活の質が向上するのです。
高齢化社会と慢性疾患の増加
高齢化社会の進展と慢性疾患の増加により、現代の医療はチーム医療の重要性を一層高めています。特に、高齢化が加速する日本などの先進国では、平均寿命が延びるに伴い高齢者の割合が増加しています。この結果、糖尿病をはじめとする慢性疾患を抱える患者数が増加の一途をたどっているのです。
糖尿病は、生活習慣の改善や薬物療法が長期間にわたり必要です。そのため、各専門家が連携し、糖尿病の患者さん一人ひとりに対して個別のサポートを提供する必要があります。
高齢化と慢性疾患の関係
患者さんの高齢化に伴い、慢性疾患の治療は重要度をましています。高齢者の慢性疾患では、しばしば複数の疾患を同時に引き起こし、単一の治療法だけでは十分に対応できないことが多々あります。
そのため、患者さん一人ひとりに対してきめ細やかなケアが求められるのです。
糖尿病治療におけるチーム医療とは
糖尿病の治療では、単に血糖値を管理するだけでなく、高血圧や動脈硬化といった心血管疾患、腎障害による腎不全、神経障害による感覚麻痺や痛みといった幅広い合併症のリスクを防ぐ必要があります。
これらの合併症は、早期の発見と予防が極めて重要であり、様々な専門分野の医療従事者が連携して患者さんを包括的にサポートすることが不可欠です。ここでは、糖尿病のチーム医療について詳しく解説します。
各専門職の具体的役割
糖尿病の治療において、各職種の役割について解説します。
医師
糖尿病の治療に際して、医師は診断、治療方針の決定、治療薬の処方を行います。定期的な検査結果を評価することで、合併症の早期発見・予防にも努めます。
患者さんの状態に応じて治療計画をその都度調整し、他の職種との連携の中心となります。
看護師
看護師は、血糖自己測定(SMBG)の指導、インスリン注射の手技指導、低血糖・高血糖時の対応方法などを患者さんに教育します。
また、継続的な治療のサポートや心理的ケアも重要な役割です。
管理栄養士
患者さんの生活習慣、嗜好、文化的背景を考慮した個別の食事療法プランを作成します。
炭水化物カウント法などの具体的な食事管理技術の指導や、外食時の食品選択のアドバイスなども行います。
理学療法士
患者さんの身体状態や合併症の有無を考慮した安全で効果的な運動プログラムを設計します。有酸素運動と筋力トレーニングの適切な組み合わせ方や、自宅でできる運動方法なども指導します。
薬剤師
処方薬の意義を説明し、服薬方法を指導します。相互作用や副作用が起こっていないか、服薬アドヒアランスは良好に維持されているかなどの確認を行います。特に複数の薬を服用している高齢の患者さんでは、薬剤の一元管理が重要です。
臨床心理士
糖尿病による心理的負担や抑うつ症状へのカウンセリングを提供し、行動変容を促すための心理的アプローチを行います。
チーム医療の連携と効果
これらの専門職は定期的なカンファレンスや電子カルテを通じて情報共有を行い、患者さんの状態や目標について統一された方針で支援します。例えば、HbA1cが高値の患者さんに対して、医師が薬物療法を調整する一方、栄養士は食事内容の見直し、理学療法士は運動強度の調整を同時並行で行うことで、総合的な改善を目指します。
この多面的なアプローチにより、通常の診察や薬物療法だけでは達成困難な血糖コントロールの改善、QOL向上、合併症予防、再入院率の低下などの効果が期待できるのです。
また、患者さん自身がチームの一員という意識を持って能動的に管理する能力を高めることで、長期的な治療成功につながります。
糖尿病のチーム医療は、単なる分業ではなく、各専門職の知識と技術を統合した協働的ケアであり、慢性疾患管理の理想的なモデルとされています。
チーム医療における課題とは
チーム医療を効果的に行うためには、職種間での情報の連携が不可欠です。しかし、その実現にはいくつかの課題があります。
情報の統合がうまくいかない
医療現場での情報は、しばしば断片化されてしまうことがあります。医師のカルテ、看護師の記録、栄養士の指導内容など、各職種で収集した情報が連携されずに個別に管理されることが多く、このために患者さんのケアが一貫しない場合があります。
まずは院内や連携する関係各所で統一のプラットフォームを活用したり、互換性のあるシステムを利用したりするなど、情報の一元化を進める必要があるでしょう。
コミュニケーションにギャップが生じる
異なる職種間でのコミュニケーションは、医療用語の違いや視点の違いによってスムーズに進まないことがあります。これにより、患者さんのケアにおいて、きちんと意思の疎通ができないというリスクがあります。
お互いを尊重し、理解しあえるような関係性を構築することで、コミュニケーションのギャップを解消する必要があるでしょう。
PHRの活用でチーム医療の課題を解決しよう
チーム医療において、職種間の円滑なコミュニケーションや、継続的なモニタリングにPHR(Personal Health Record:個人健康記録)を活用することができます。PHRとは、患者さん自身が管理する健康情報を、許可した医療従事者と共有できるシステムです。
血糖値、血圧、体重などの数値データだけでなく、服薬状況や運動記録、睡眠の質まで、幅広い健康情報を一元管理できるのが特徴です。
チーム全員で同じデータを見ながら一貫した治療ができますし、患者さんが希望すれば日々の食事写真も共有することができるため、栄養指導に活かすこともできます。
例えば医師が処方した薬の服薬状況を薬剤師が確認し、管理栄養士は食事内容と血糖値の関係を分析、看護師は生活習慣の改善状況をフォローするなど、各職種が専門性を活かしながら連携できます。また、患者さんの状態変化にもリアルタイムで気づけるため、早期介入にもつながるでしょう。
実際に糖尿病の治療におけるチーム医療でPHRを活用している事例を紹介します。
参考事例:チーム医療による糖尿病療養支援に活用しています〜岡山済生会総合病院 内科・糖尿病センター副センター長 利根淳仁先生
まとめ
今回は、糖尿病治療において効果的なチーム医療の実現に必要な要素について解説してきました。多職種が単に集まるだけでなく、それぞれの専門性を尊重しながら有機的に連携することで、患者さんを医学的・心理的・社会的側面から包括的にサポートすることが可能になります。
糖尿病などの生活習慣病では、医師による治療だけでなく、看護師のケア、薬剤師の服薬指導、管理栄養士の栄養サポート、理学療法士の運動指導など、多角的なアプローチが治療効果を高めます。さらに、このようなチームでの関わりは、患者さんの治療への理解と参加意識を促し、長期にわたる治療継続へのモチベーション向上にも大きく貢献します。
こうしたチーム医療をさらに進化させる鍵となるのがPHRの活用です。患者さんのデータをリアルタイムで共有し、一貫性のある医療を提供することで、職種間の情報格差を解消し、よりシームレスな医療サービスが実現します。
参考文献
チーム医療の推進について(チーム医療の推進に関する検討会 報告書):厚生労働省がまとめたチーム医療に関する資料です。
令和6年度診療報酬改定に向けた基本認識、基本的視点、具体的方向性について(厚生労働省資料):タスク・シェアリング/タスク・シフティングやチーム医療の推進等に言及しています。