2023年医療法改正のポイント~医療機能情報提供制度の刷新とかかりつけ医機能の新設とは~
執筆はライター下田 篤男(管理薬剤師・薬局経営コンサルタント)が担当しました。
*シンクヘルスブログ監修・執筆者情報一覧はこちらをご覧ください
2023年5月12日、医療法の改正(「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律(全世代社会保障法)」)が参議院本会議で可決、成立しました。
今回の医療法の改正では以下の3つが大きな柱となっています。
・医療機能情報提供制度の刷新(2024年4月施行)
・かかりつけ医機能報告制度の創設(2025年4月施行)
・慢性疾患患者等に対する書面交付・説明の努力義務化(2025年4月施行)
そこでこの記事では、この医療法改正が医療現場にどう影響していくのかを3つの柱を中心に解説していきます。
医療機能情報提供制度の刷新
3つの柱の中で先行して、2024年4月から医療機能情報提供制度の刷新が施行されることとなりました。
ここでは、医療機能情報について再確認し、具体的にどう変わっていくのかを解説していきます。
従来の医療機能情報報告の課題
医療機能情報提供制度は、住民や患者さんによる医療機関の選択を適切に行うことができるようにする制度です。
平成18年の第五次医療法改正により導入されました。
従来の医療機能情報は、医療機関が個別に報告した情報を各都道府県が集約し、住民や患者に提供することになっています。
しかし、この都道府県ごとに情報を提供するという手法が問題となっていました。
現在の医療機能情報提供制度には以下のような課題が挙げられています。
・都道府県ごとの公開であるた め、スマートフォンや外国語への対応等、公表方法に差が出てきてしまう
・県境の患者さんは複数の都道府県の検索サイトを閲覧しなけ ればならず、利便性に問題がある
・都道府県によって報告すべき情報や公開する情報が異なるため、内容の正確性が十 分ではない
このような意見を踏まえ、今回の医療法改正により医療機能情報提供制度の刷新が施行されることになったのです。
医療機能情報提供制度刷新の目的と概要
では、実際に2024年4月から施行される医療機能情報提供制度の刷新のポイントを紹介していきます。
・国民や患者さんが、かかりつけ医機能その他の医療提供施設の機能を十分に理解した上で、自ら適切に医療機関を選択できるよう、「医療機能情報提供制度」の充実・強化を図る
・全国の情報を一元化・標準化した全国統一システムを構築し、より検索性が高くわかりやすい情報を提供する
・医療機能情報の病院等からの報告に際して、医療機関等情報支援システム(G-MIS)を活用する
これまで各都道府県で管理されていた医療機能情報を全国統一化することで、地域住民や患者さんが利用しやすい情報を提供することを目指しています。
また、医療機関からの医療機能情報報告に関しては、全国共通の医療機関等情報支援システム(G-MIS)を活用することで、従来の報告よりも簡便にできるようになるでしょう。
さらに、現在の医療情報をより患者さん目線へと内容の見直しを図ることで、患者さんが自分に合う医療機関を選びやすくなります。
G-MISを利用したオンライン報告の開始
G-MIS(Gathering Medical Information System、医療機関等情報支援システム)は、もともと病院の稼働状況、病床や医療スタッフの状況、受診者数、検査数、医療機器(人工呼吸器等)や医療資材(マスクや防護服等)の確保状況等を医療機関から報告を受け、一元的に把握・支援するために厚生労働省が運営するシステムです。
G-MISを医療機能情報報告へと応用することで、医療機能情報提供制度の全国統一化へのスムーズな移行が期待されています。
医療機能情報提供制度の全国統一システムの運用は2024年4月開始予定となっており、2023年10月頃から各医療機関にG-MISの案内が届いているようです。
今後は、各医療機関が義務付けられている医療機能情報報告はG-MISに一本化されます。
G-MISへの登録がまだの医療機関は速やかに登録するようにしましょう。
※登録申請方法やログイン方法については厚生労働省 医療機能情報提供制度について(医療機関向けページ)をご参照ください。
かかりつけ医機能報告制度の創設
今回の医療法改正における最大の柱が、2025年4月から施行される「かかりつけ医機能報告制度」の創設です。
かかりつけ医機能報告制度は、今後の医院経営において重要視されるべき制度です。
「かかりつけ医機能報告制度」の目的と概要
かかりつけ医は、慢性疾患を有する高齢者や、その他の継続的に医療を必要とする方を地域で支えるために必要な存在です。今後、さらに複数の慢性疾患を持つ患者さんや医療と介護の複合ニーズを有する高齢者が増えていくことが予想されます。多様化するニーズに対応し、「治す医療」から「治し、支える医療」の実現が急務とされています。
そのために、各医療機関から都道府県知事にかかりつけ医機能の報告を求めることとなりました。
都道府県で、かかりつけ医機能を持つ医療機関の現状を確認し、その機能を把握することで、地域でかかりつけ医を確保・強化する狙いがあるのです。
都道府県知事は、地域の医療機関が、かかりつけ医機能の確保に係る体制を有することを確認する必要があります。
地域医療を円滑に運営する上で、充足している機能もあれば、強化しなかればならない機能もあります。
かかりつけ医機能報告制度を活用することで、地域の医療機関におけるかかりつけ医機能の不足点を洗い出すことができるようになるのです。
この不足点を改善していくために、外来医療に関する地域の関係者と協議を行います。
この協議の過程で、地域でかかりつけ医機能を確保するための具体的な策を検討し、厚生労働省に公表していく流れとなっているのです。
このように、医療機能情報提供制度の拡充に加え、各都道府県がかかりつけ医機能を把握し、その情報を地域住民に公表することで、以下のような効果が期待できます。
・身近な地域で提供される日常的な医療が充実する
・医師・医療機関との継続的な関係を確認できる
・大病院に行かなくても身近なところで必要な医療が受けられる
・誰もが確実に必要な医療につながる環境が整う
具体的な報告内容については、今後厚生労働省が制度設計を進めていくことになります。
経済界などを中心に検討を求める声があった「かかりつけ医の認定・登録制」に関しては今回は見送られる形となりました。
「かかりつけ医」が果たしていく役割
では、実際には「かかりつけ医」はどのような役割を果たしていくべきなのでしょうか。
今回の医療法改正で、かかりつけ医は「身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談等を行う機能」という存在であると示されました。
かかりつけ医の果たしていく役割としては以下のような機能が定義されています。
・日常的な診療を総合的かつ継続的に行う機能
・時間外診療を行う機能
・病状急変時等に入院など必要な支援を提供する機能
・居宅等において必要な医療を提供する機能
・介護サービス等と連携して必要な医療を提供する機能
各医療機関が、それぞれが担うことのできるかかりつけ医機能や専門性に応じて、地域で連携しながら、各地域の状況やニーズに対応できるようにかかりつけ医機能を強化していく必要があるでしょう。
今後は、さらに医療や介護における地域連携が重視されていくと言われています。
慢性疾患患者等に対する書面交付・説明の努力義務化
今回の医療法改正でのもう一つの柱が「慢性疾患患者等に対する書面交付・説明の努力義務化」です。2025年4月から施行されます。
現在、慢性疾患患者に対する診察では、口頭での指導になっていることが多いのではないでしょうか。
この口頭での説明を書面にするというものです。
この指導の書面化が、なぜ必要なのかを解説していきます。
慢性疾患患者等に対する書面交付・説明はなぜ必要なのか
かかりつけ医機能が発揮される制度整備の施行の背景のひとつに、高齢化が急速に進む中での患者さんのニーズの多様化があります。
医療機能情報提供が刷新されることにより、地域住民や患者さんはそれぞれのニーズに合わせてかかりつけ医機能を持つ医療機関を選択できるようになります。
そのことにより、地域や医療機関は患者さんのニーズを考慮して役割分担や連携をしていく必要があります。
その際に、医師によって継続的な医学管理が必要と判断される患者さんに対して、かかりつけ医として提供する医療サービスの内容を書面で説明することになりました。
現時点で、説明努力義務の対象となるのは、以下の4項目です。
・患者の疾患名
・治療に関する計画
・医療機関の名称・住所・連絡先
・その他厚生労働省令で定める事項
患者等から求めがあったときは、正当な理由がある場合を除き、疾患名、治療計画等について適切な説明が行われるよう努めなければならない(努力義務)、とされています。
説明の具体的な内容等は、今後、有識者等の参画を得て検討されます。
かかりつけ医機能が発揮される制度の施行における展望および課題
2023年11月より、「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行 に関する分科会」が開催され、今回の医療法改正に盛り込まれた新制度の具体的な運用について検討がすすめられています。
ここからは、これらの制度を運用していくうえでの今後の展望や課題について解説していきます。
医療機能情報提供制度についての課題
先の医療機能情報提供制度でも述べましたが、医療機能情報提供制度が全国統一システム化されることとなりました。
全国統一化されることで、情報の画一化、検索のしやすさという点ではより実用的になることは間違いないでしょう。
その一方で、医療機能情報制度を刷新していく上で以下の内容について、これから議論を深めていく必要があります。
・情報提供項目の表現の見直し
・対象者別の情報提供のあり方
・情報提供のためのインターフェイスのあり方
などです。全国統一システムの構築は、大きな病院から地域に戻るときにかかりつけ医を探す中で、非常によいことです。
その上で、現状の情報提供項目の表現を見直し、対象患者別の情報提供に対応させるなどの工夫をすることで、より国民にとって使いやすいシステムとなるのではないでしょうか。
より実践的なかかりつけ医機能報告制度を実現していくために
かかりつけ医機能報告制度が実現することとなりましたが、まだ大枠が決まった程度で、これから具体的な方向性を決めていく必要があります。
・報告を求めるかかりつけ医機能の内容
・かかりつけ医機能の報告対象医療機関の範囲
・かかりつけ医機能の体制に係る都道府県の確認・公表
・かかりつけ医機能を有する医療機関の患者等への説明の内容
など、どこまでを報告内容とするのかをはっきり決めていかなければなりません。
厚生労働省は、医療機能情報提供制度とかかりつけ医機能報告の両者の整合性を確保しつつ、国民・患者にとって分かりやすい情報提供を進めることが重要であり、施行に向けて次のように検討を進めています。
1.「国民・患者に対するかかりつけ医機能をはじめとする医療情報の提供等に関する検討会(仮称)」を新設
2.1.の分科会として、「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会(仮称)」を新設し、かかりつけ医機能報告等の施行に向けた検討を行う。
3.既設の「医療情報の提供内容等の在り方に関する検討会」を、1.の分科会として位置づけ、これまでの議論との継続性も踏まえ、医療機能情報提供制度の全国統一システム化、かかりつけ医機能の情報提供項目等について検討する。
4.検討会・分科会の検討状況について、相互に共有するとともに、医療部会に報告しながら検討を進める
患者さんの状況を把握しておくための体制づくり
今後、かかりつけ医が重視されていく中で、各医療機関ではどれだけ患者さんの状況を包括的に把握・管理していくかが課題になってきます。
定期的に通院している患者さんでも、患者さんの日々の健康状態を常に把握することは簡単ではありません。
そこで、弊社の提供するシンクヘルスなどをはじめとするPHRを活用することで、効率的に患者さんの管理ができるようになります。
患者さんの自己管理の促進と慢性疾患の治療をサポートするシンクヘルスプラットフォームとは?≫
まとめ
今回の記事では、2023年の医療法改正について紹介してきました。
医療機能情報提供制度の刷新やかかりつけ医機能報告制度の創設など、地域医療の充実という点でかなり踏み込んだ改正になったといえるのではないでしょうか。
特に、かかりつけ医機能について法定化したことは今後の医療のあり方を決定づけたといえるでしょう。
しかし、かかりつけ医の具体的な機能についての議論など、まだまだ曖昧な部分も残っているのが現状です。
いずれにせよ、高齢化社会が進み、慢性疾患患者が今後も増え続けていくことを考えると、かかりつけ医として地域医療に関わっていく流れは避けられません。
今後の議論を注視しつつ地域医療に貢献していく体制づくりを今から進めておくべきではないでしょうか。
参考文献
- 厚生労働省公開資料「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための 健康保険法等の一部を改正する法律(令和5年法律第31号) の成立について」
- 厚生労働省公開資料「医療機能情報提供制度の現状と課題」
- 厚生労働省HP「医療機能情報提供制度について(医療機関向けページ)」
- 厚生労働省HP「医療機関等情報支援システム(G-MIS):Gathering Medical Information System」
- 厚生労働省公開資料「かかりつけ医機能が発揮される制度整備の 施行に向けた検討について」
- 厚生労働省公開資料「国民・患者に対するかかりつけ医機能をはじめとする医療情報の提供等に関する検討について」