なぜ今、医療DXなのか〜推進の背景にあるものとは〜
執筆はライター下田 篤男(管理薬剤師・薬局経営コンサルタント)が担当しました。
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「国は今、医療DXを推進しているけど、なぜだろう」
「医療DXのメリットって何かな」
普段医療機関で働いている皆さんは、「医療DX」という言葉を耳にする機会も多いのではないでしょうか。
自民党が打ち出した「医療DX令和ビジョン2030」など、政府としても医療のDX化を喫緊の課題と捉えています。
そこで、今回は医療DXについて解説します。医療DX推進にある、日本の医療の課題についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
医療DXとは
医療DXとは、医療や介護のさまざまな段階で生まれる情報やデータを、クラウドなどの共通プラットフォームで管理することを指します。
医療や介護に関わる人たちの業務を効率化し、システムやデータを標準化・共有化します。
国民一人ひとりが病気を予防しやすくなり、質の高い医療やケアを受けられるようにすることを目指しているのです。
ここでは、この医療DXについて解説していきます。
いまさら聞けない医療DX
DX(Digital Transformation、デジタルトランスフォーメーション)は、データやデジタル技術を用いて、業務のプロセスや枠組みを変えていくことを指します。
医療分野はDX化が遅れていますが、超高齢社会となった日本では、喫緊の課題となっています。
例えば、患者さんは、異なる疾患で複数の病院に通うことがよくあります。こうした場合、それぞれの病院で同じ検査や診察を繰り返してしまう可能性があります。
服用している薬についても、おくすり手帳で一貫して管理できていれば問題ありませんが、病院ごとに別々のおくすり手帳を使用してしまっている場合もあり、同じ薬が異なる医療機関で重複して処方されてしまう可能性もあるのです。
このように、患者情報や服用している薬の情報が医療機関や調剤薬局ごとに分散されていると、無駄な手間や時間、コストがかかり、検査や処方薬の重複が発生します。これは非常に非効率であり、医療費を増大させる原因ともなっているのです。
それだけではありません。場合によっては薬の過剰服用や、併用禁忌の薬の組み合わせに気づかないこともあり、患者さんに深刻な健康被害を引き起こす可能性もあります。
このような状況を改善するために、医療情報システムやデータの標準化、共有化を目指す医療DXが注目されているのです。
国の医療DXへの取り組み
医療分野でもDX化を推進するために、自民党が提唱したのが、「医療DX令和ビジョン2030」です。
医療DX令和ビジョン2030については詳しく解説した記事がありますので、そちらをご覧ください。
参考記事:【医師監修】医療DX令和ビジョン2030とは?~医療情報の有用性とPHR~
この「医療DX令和ビジョン2030」を骨子とし、政府は医療DXへの取り組みを進めています。
政府は医療DX推進に以下の5つの目標を定めています。
1.国民の健康をさらに向上させること
2.途切れることなく質の高い医療を効率的に提供すること
3.医療機関の業務を効率化すること
4.システムや人材をより有効に活用すること
5.医療情報の二次利用を進めるための環境の整備
これらの目標を医療DXで実現するために、「医療DXの推進に関する工程表」をもとに、3つの柱に沿って進めています。
・全国医療情報プラットフォームを新たに設立すること
・電子カルテの情報を標準化する取り組み
・診療報酬の改訂をデジタル化すること
これらの取り組みによって、医療の質をより高め、将来の医療サービスの充実を図っているのです。
実際2024年12月2日以降はマイナ保険証によるオンライン資格確認が基本となっており、患者さんの服用情報や健診情報などは確認できるようになっています。
医療DX推進のメリット
医療DXを推進することで考えられるメリットをまとめてみました。
・患者さんの利便性の向上
・医療現場の業務効率化
・コストの削減
ここからはそれぞれのメリットについて具体的に説明していきます。
患者さんの利便性の向上
医療DXが進むことで、患者さんの利便性が向上します。医療情報がスムーズに共有されるようになり、より適切な医療を受けられるようになるでしょう。
オンライン診療が可能になることで、非対面や遠隔地からでも診療を受けられ、院内感染のリスクを減らし、医師不足の地域でも通院負担なく専門的な医療を受けることができます。
医療現場の業務効率化
医療機関には、多くの業務があります。これらの業務をデジタルツールで自動化することで、医療従事者の業務が効率化され、労働時間の短縮が期待できます。
近年医師の働き方改革が提唱されるなど、長時間勤務が常態化している医療業界にとって業務の効率化は歓迎すべき事柄です。
また、問診票のやり取りなどの物理的な対応が減ることで、医療スタッフの負担も減らすこともできます。
コストの削減
医療DXが進むことで、各種システムの標準化やクラウド化が進みました。これまで煩雑だった医療機関でのシステム運用や改修作業が簡単になり、人的・財政的なコストを削減することができるようになってきています。
今までは医療機関側で更新作業やバックアップ作業をしていたためコストや対応に時間がかかっていましたが、クラウド化したことにより、これらの更新やバックアップ等をシステムが自動で行ってくれるようになります。また、医療機関側で行っていたサーバーの運用・管理も、クラウド化によりネットにつながる端末があればサーバーを用意する必要もありません。このように、医療DXを進めることで効率的な方法に移行できるため、コスト削減につなげることができるのです。
医療機関ですべき医療DXへの取り組みとは
ここまでは国の推進する医療DXと、それに伴うメリットをマクロ的な視点で解説してきました。ここからは医療機関で取り組むべき医療DXについて紹介します。
電子カルテ
医療DXの推進に伴い、電子カルテを導入する医療機関も増えてきました。電子カルテは、従来の紙のカルテを、コンピューターで管理できるようにしたシステムです。
紙カルテでは、医師が患者の診療経過を紙に手書きで記録していましたが、今ではコンピューターやタブレットを使って、患者の情報を電子的に入力できるようになりました。
入力された情報はデータベースに保存され、いつでも必要なときに見ることや編集することができます。
電子カルテを導入することで、医薬品が互いに悪い影響を及ぼさないかチェックしたり、これまでの診療の履歴を瞬時に確認できるようになりました。これにより、医師の仕事がより効率的になり、ミスが減少します。
また、政府が進める電子カルテの標準化が進むことで、今後は各医療機関での診療情報等の連携も可能となるでしょう。
予約システム
電子カルテの導入と合わせて、予約システムの導入も医療機関で取り組むべき医療DXです。
予約システムを導入することで、患者さんは待ち時間が短くなり、スムーズに診察を受けられることでストレスも減ります。
また、オンラインシステムなら24時間いつでも予約を受け付けることができるので、普段電話で予約できないような患者さんの獲得にもつながります。
医療従事者にとってもメリットがあります。予約システムを導入することで予約管理が簡単になるので、業務負担が減り、他の仕事に集中できる時間が増えるでしょう。
また、予約システムを使うことで、診察予定の人数が事前に分かるので、効率の良い人員配置が可能となります。
また、特定の時間に患者さんが集中するのを防げるので、診療をスムーズに進めることもできるのです。
さらに、予約システムと電子カルテを連携させることで、患者さんの情報をまとめて管理でき、過去の診療歴や処方歴についても事前に確認しやすくなります。
より適切な診療ができるようになり、医療の質も向上します。カルテの確認作業もスムーズになるため、全体の業務がさらに効率的になるでしょう。
PHRの導入
PHR(Personal Health Record)を導入することで、医療機関の可能性を広げることができます。
PHRは、血糖値や血圧、体重などの個人の健康データに加え、診察時に得られた検査値などの医療データを一括管理することができるシステムです。
現在提供されているPHRサービスの中には、患者さんが使用するアプリのデータを医療機関がクラウドを通じて閲覧できるものが多くあります。
医療機関側は過去の診療内容や検査結果に加えて、患者さんの日々の健康状態や生活習慣に関する多様なデータをすぐに確認できるようになります。
PHRを活用することによって、医療従事者と患者さんとのコミュニケーションがより円滑になることが期待できます。
患者さんの健康状態を診察時以外でも把握することができるため、低血糖や高血糖などの血糖異常があった時にも迅速に適切なフォローが可能となります。
さらに、PHRデータを活用することで、医療従事者間で患者さんの治療情報を共有できるようになります。
スタッフ同士の情報共有もスムーズとなり、チーム医療の連携も強化されます。患者さんへの対応が一貫し、全体の診療プロセスが効率的になるでしょう。
まとめ
今回は医療DXについて解説しました。超高齢社会に突入する中で、医療のデジタル化が遅れている現状を打破するため、政府は医療DXを推進しています。電子カルテの標準化、全国医療情報プラットフォームの設立などの具体的な施策を進める中で、各医療機関でも医療DXへの取り組みは喫緊の課題です。電子カルテや予約システム、PHRの導入を通じて患者さんの満足度を高めていく必要があるのです。
参考記事: