研究結果で見えた糖尿病アプリの有効性
執筆はライター下田 篤男(管理薬剤師・薬局経営コンサルタント)が担当しました。
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「医療DXを糖尿病などの慢性疾患の治療に活かすことはできないだろうか」
「血糖値の記録などをデジタル化することは治療に有効というのは本当?」
こんな風に考える方もいるのではないでしょうか。
生活習慣病などの慢性疾患と向き合う患者さんの場合は、日々の生活習慣の改善が重要になります。
従来は血糖値や血圧などの数値を患者さん自身に紙媒体に記録、管理をお願いしていました。
しかし、紙媒体だとどうしても記入漏れや間違いなどもあり煩雑で、治療に活用していくには限界があります。
そこで、今回の記事では糖尿病などの慢性疾患にデジタルソリューションを活用していく方法とその有効性について紹介していきます。
デジタルソリューションを日常の生活に組み込むことで、定期的な診察でもより具体的なアドバイスを行うことができるようになるのです。
慢性疾患の患者さんと向き合うことが多い方は、ぜひ参考にしてください。
目次
糖尿病患者におけるデジタルソリューションの活用
現在、糖尿病患者におけるデジタルソリューションの活用が注目されています。糖尿病では、患者さんの血糖コントロールを良い数値で維持することが日々の治療では重要ですが、ここにスマホアプリを導入する手法が注目されています。
アメリカの研究で糖尿病治療におけるアプリ活用の有効性を発表
では、スマホアプリを実際に治療に活用するためにはどうすればよいのでしょうか。
2022年3月に米コロラド大学医学部による研究チームが、米国心臓学会に発表した論文は大きな反響を呼びました。
この研究では、糖尿病患者の治療において、生活習慣の改善のために個別化された支援を提供するスマホアプリは、従来の療養指導と同じくらいの効果があることを証明したのです。
糖尿病治療において、患者さん個別に認知行動療法を提供するスマホアプリを6ヵ月利用した糖尿病患者は、血糖値等の記録のみを行うスマホアプリを利用した糖尿病患者に比べ、有意に血糖値が低下したというのです。
この研究で活用した個別の認知行動療法アプリでは、行動変容を目的として、週の1回糖尿病教育など、多くの支援を受けられるようにしました。
対照となる一般的なアプリはいくつかの質問をする以外は、とくに個別化された支援は受けられないようにして、血糖値などのデータにどのような変化があるかを調べたのです。
その結果、6か月後の試験終了時には、認知行動療法アプリ使用群では有意にHbA1cを減らし、治療薬の減量などでも効果が認められました。
また、うつ病症状の軽減やQOLの向上を実感した患者さんもいたことも報告されています。
論文内では、生活習慣の改善が血糖値を下げるための基本であり、様々な合併症の発症を防ぐと述べられています。しかし、従来の対面での療養指導は糖尿病治療に効果がある一方で、コスト面や時間・空間的な制限などの課題があることを指摘しています。
今回の論文で、スマホアプリを使用して患者さんが自己管理を行うことに加えて、従来の対面の療養指導を非対面化した場合でも、対面方式と同等の結果を得られることが分かりました。
このように、スマホアプリを活用することは糖尿病などの慢性疾患患者にとって有用ではないか、と考えられるようになってきているのです。
アプリ継続的な利用は治療効果を高めることが期待できる
慢性疾患患者の診察や日々の生活にスマホアプリを活用することで、治療効果をさらに高めることが期待されています。弊社のブログ記事「【医師監修】最新の血糖測定器はすごい~刺さない血糖測定とPHR~」でも紹介しましたが、血糖測定器による測定値とPHRを連動させる治療方法が注目されています。
糖尿病管理アプリを継続活用することによって良好な血糖コントロールを維持できるという論文が、台湾の研究グループによりアメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health、NIH)によって2021年7月に発表されました。
この研究では、実際の臨床現場で1年間にわたる HbA1c の改善を追跡することにより、デジタルソリューション活用の有効性を評価しています。
糖尿病患者に、シンクヘルスアプリを使用してもらい、自己測定された血糖値を追跡するだけでなく、医療従事者 とコミュニケーションをとるようにしました。
患者さんの治療を担当する医療従事者には、シンクヘルスアプリと連携しているWeb ベースの患者管理プラットフォームを使用してもらい、遠隔で患者さんと相互的にコミュニケーションをとれるようにしたのです。
研究内では、患者さんを最初の 6 か月間におけるシンクヘルスアプリの使用レベルに基づいて、 3 つのグループ (定着率高、中、低) に階層化しています。
およそ1年間の調査機関で脱落しなかった2036人の患者サンプルを分析した結果、シンクヘルスアプリの定着率が高いグループでは大幅にHbA1cが減少しました。また、定着度中や定着度低のグループでもある程度HbA1cの低下が認められました。
この結果は、シンクヘルスアプリの継続的な使用が実際の臨床現場における血糖コントロールの向上に関連していることを示していると言えるのではないでしょうか。
参考記事:シンクへルスアプリの紹介記事①(前編)
慢性疾患の患者を診察する上で留意すること
紹介してきた2つの研究から、糖尿病治療においてスマホアプリなどのデジタルツール活用の有効性が明らかになったのではないでしょうか。
デジタルソリューションの活用は、患者さんの日々の治療を支援し、患者さんの行動変容につなげるきっかけの一つとなりえるのです。
慢性疾患ではQOLの維持が治療の目的となる
糖尿病をはじめとした慢性疾患では、患者さんのQOLの維持が治療の目標となります。
今回のシンクヘルスアプリを活用した研究では、定期的な診察に加えてアプリで患者さんと医療従事者が相互的にコミュニケーションをとることで、症状の悪化を防止を支援できることがわかりました。
慢性疾患においては、治療に終わりがなく服薬も生涯にわたって行う必要があります。その中で、症状が悪化したりするとQOLも低下してしまうでしょう。
治療、服薬に対する患者さんのモチベーションも下がってしまいます。
治療にあたる医療従事者も定期的な診察で患者さんの病状を把握できたとしても、日常の細かな症状の変化や患者さんのモチベーションの変化まではフォローできません。
しかし、ここでデジタルソリューションを活用することで患者さんの日々の治療にも介入できるようになるのです。
患者さんの状況をリアルタイムで把握できていれば、より実用的なアドバイスを患者さんに伝えられるようになります。患者さんも、安心して日常の生活を送ることができるようになるでしょう。
慢性疾患においては、定期診察に加えてデジタルソリューションを活用することが、患者さんのQOLを維持するうえで有用といえるのではないでしょうか。
糖尿病では日常生活での良好な血糖コントロール維持が重要
糖尿病においては、QOLの維持も必要ですが、良好な血糖コントロールを維持することも大きな治療目標といえます。
シンクヘルスアプリでは、SMBGやCGM、isCGMと連携できるので、患者さんの血糖モニタリングを容易に行うことができます。
※医療機関向けシンクヘルスプラットフォーム上ではCGMのデータは閲覧できません。
患者さんの血糖管理を行うことは、糖尿病治療において非常に重要です。
シンクヘルスアプリなどの血糖値管理アプリでは、医療従事者も患者さんの血糖状態を知ることができるため、低血糖症状の危険性などを察知できます。
また血糖値が高くなってしまった時でも、適宜患者さんとコミュニケーションをとることで、血糖コントロールを良好にすることもできるでしょうし、患者さんに運動療法や食事療法の提案なども行いやすくなるはずです。
このように、自己管理が簡単で且つ医療従事者とのコミュニケーションが可能なデジタルソリューションの活用は有効な選択肢のひとつとなるでしょう。
糖尿病患者の血糖測定について
患者さんが自身で血糖値を測定する血糖測定器は、大幅に進歩しています。
現在では多くの機種で、測定データをスマートフォンなどに転送できるようになりました。
このようにデータを管理できるようになったことにより、実際に紹介したシンクヘルスアプリなどのアプリで、そのデータを医療従事者と共有できます。
患者さんは日々手書きや手入力での記録の手間が省けるだけでなく、医療従事者も簡単により正確な血糖記録を医療機関で確認できるようになっており、日々の治療に活かせるでしょう。
日々の治療にデジタルソリューションを取り入れることで、患者さんの行動変容にもつながるのです。
まとめ
今回は、糖尿病治療におけるデジタルソリューション活用の有効性について紹介しました。
慢性疾患の患者さんは一生涯にわたり治療を続けなければならず、日々の治療において目的を設定しにくいことが問題となっています。
また、日々の治療でのモチベーションの維持が難しいことも課題です。医療機関でも、定期診察以外での患者さんの病状の把握は困難です。
その中で、医療機関でも患者さんの状態を確認できるデジタルソリューションの活用が注目されています。
デジタルソリューションを活用することで、患者さんと医療従事者で双方向のコミュニケーションが円滑化し、患者さんの血糖コントロールを良くすることがわかりました。
また、糖尿病治療における個別化された認知行動療法アプリの活用により、血糖コントロールが良好になるだけでなく、うつ症状やQOLの向上を実感したという報告もあります。
糖尿病に限らず、慢性疾患にデジタルツールを活用することは必要不可欠となっていくのではないでしょうか。
参考文献
・American College of Cardiology
・National Institutes of Health、National Library of Medicine