栄養指導の個別化と多職種連携とは
執筆はライター下田 篤男(管理薬剤師・薬局経営コンサルタント)が担当しました。
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「栄養指導の個別化が重要という話は聞くけど、実際はなかなか難しいよ」
「栄養指導は管理栄養士に任せっきりで、把握していないんだよね」
このように、医療機関において栄養指導は大事、ということはなんとなくわかってはいるんだけど、実際にどんな栄養指導をすればいいかを悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、栄養指導の個別化と、多職種連携について解説します。
今年度の診療報酬改定でも、あらためて栄養指導の重要性が明記されています。
今後クリニックの栄養指導のレベルを高めていきたい方はもちろん、栄養指導について深く考えてこなかった方も、ぜひ参考にして下さい。
目次
栄養指導の重要性とは
糖尿病、高血圧症、脂質異常症の患者を診察する際、多くのクリニックで特定疾患療養管理料を算定しているはずです。
特定疾患療養管理料を算定するうえで、治療計画に基づき「服薬」「運動」「栄養」等の療養上の管理を行う必要があることは、皆様もご理解いただいているのではないでしょうか。
つまり、上記3疾患を持つ方を診察するうえで、適切な栄養指導を行うことは非常に重要なのです。
糖尿病を持つ方や肥満症を持つ方などは食事が治療となる
糖尿病を持つ方や肥満症を持つ方は、普段の食生活によって症状が影響を受けます。
暴飲暴食が続けば、HbA1cやLDL-Cなどの数値は悪化するでしょうし、体重も増加してしまうでしょう。
定期的な診察で、患者さんに対して栄養指導を行うことで、日頃の食生活が治療へとつながることを理解してもらわなければならないのです。
生活習慣病管理料の算定に栄養指導は必要となる
2024年度の診療報酬改定で、特定疾患療養管理料から糖尿病、高血圧症、脂質異常症が外され、その受け皿として生活習慣病管理料(Ⅱ)が新設されることになりました。
参考記事:令和6年度診療報酬改定で新設される生活習慣病管理料(Ⅱ)の算定要件とは
厚生労働省の資料によれば、生活習慣病管理料(Ⅱ)の算定要件は以下のように定められています。
『生活習慣病管理料(Ⅱ)は、脂質異常症、高血圧症又は糖尿病を主病とする患者の治療において、治療計画を策定し、計画に基づき、栄養、運動、休養、喫煙、家庭での体重や血圧の測定、飲酒、服薬及びその他療養を行うに当たっての問題点等の生活習慣に関する総合的な治療管理を行った場合に、許可病床数が200床未満の病院及び診療所である保険医療機関において算定する。
この場合において、当該治療計画に基づく総合的な治療管理は、歯科医師、薬剤師、看護職員、管理栄養士等の多職種と連携して実施することが望ましい。』
栄養指導を行うことが生活習慣病管理料を算定するうえで必須となっています。
栄養指導に関しては従前の特定疾患療養管理料でも必要でしたが、生活習慣病管理料(Ⅱ)では多職種連携が望ましいとされているため、より踏み込んだ栄養指導が求められることになりそうです。
栄養指導の問題点とは
ここからは、クリニックで栄養指導を行う上での問題点を解説していきます。
患者さんの実態を把握するのは限界がある
クリニックでの栄養指導は、患者さんへの一方通行かつ一般的な指導になりがちではないでしょうか。
例えば、糖尿病を持つ方への栄養指導や運動指導は以下のような一般的で当たり障りのないものになりがちです。
・肥満防止のため毎日20分のウォーキングを行って下さい
・なるべく階段を使いましょう
・食事は毎日3食規則正しく摂って下さい
・間食や甘いものの過剰摂取は控えて下さい
患者さんも「わざわざこんなこと言われなくても・・・」と思ってしまうかもしれません。
このような栄養指導になってしまうのは、医療機関が患者さんの生活背景や、運動習慣、具体的な食事内容や量を把握しきれないという事情があります。
もちろん、患者さんによっては自分の食生活や運動内容について、しっかりと記録し教えてくれる場合もあるでしょう。
しかし、例え記録していたとしても、量まで正確に覚えることは難しいはずです。
そのため、患者さん側からのフィードバックが完全でない以上、踏み込んだ栄養指導をすることが難しくなるのです。
患者さんが指導内容を実践できているかどうかがわからない
また、クリニック側が患者さんに丁寧に栄養指導をしたとしても、その指導内容をしっかりと実践できたかどうかを知ることは難しいのではないでしょうか。
栄養指導は、食事内容だけでなく、運動内容や体重変動など、普段の患者さんのライフスタイルに合わせて変動していくものです。
どんなに綿密に計画を立てようとも、どんなに丁寧に栄養指導を行ったとしても、その指導内容が患者さんにとって実現できるものかどうか、そして実践してくれているかどうかはわからないのです。
栄養指導の質を高める方法
では、一般的で当たり障りのない栄養指導の質を高めるにはどうすれば良いのでしょうか。
今後の医院経営には、質の高い栄養指導を実践していく必要があります。
栄養指導の質を高める方法について解説しますので、医師や管理栄養士に限らず、医療に携わる方はぜひ参考にしてください。
栄養指導の個別化
2022年3月、東京大学などの研究チームが2型糖尿病を持つ方への栄養指導についての論文を発表しました。
個々人の食事調査を元に個別化した栄養指導を行うことで、従来の画一的な栄養指導と比較し、HbA1c、体重、中性脂肪、LDL-Cの減少、HDL-Cの上昇などの優位性がみられることがわかったのです。
近年オーダーメイド医療の有用性が議論されていますが、日常生活に密接に関わる栄養指導こそ個別化していくべきではないでしょうか。
栄養指導の多職種連携
栄養指導の質を高めるためには、医師だけの努力でできるものではありません。
管理栄養士が常駐しているクリニックでは、栄養指導の大部分を管理栄養士が管理していますが、管理栄養士だけで十分というものでもありません。
そこで必要となるのが、医師や管理栄養士だけでなく、看護師や薬剤師などの医療チームによる多職種連携です。
例えば、患者さんのHbA1cの数値が安定せず血糖マネジメントがうまくいかない場合、治療薬の変更を検討するでしょう。
しかしその時に、患者さんの栄養状態や運動習慣を把握することができていれば、栄養指導や運動指導を再検討することで、症状の改善ができるかもしれません。
その結果、薬の量を増やすことなく治療を継続出来る可能性もあります。
患者さんの状態をチーム医療で把握し、多職種で連携して治療を進めることができれば、栄養指導もより効果の発揮できるはずです。
栄養指導の個別化と多職種連携を可能にするデジタルソリューション
画一的な栄養指導ではなく、個別化した栄養指導を多職種連携のもとで行うことで、治療効果を高めることができることはわかりました。
しかし、実際に個別化した栄養指導を行うにはどうすれば良いのでしょうか。
この答えになるのが、デジタルソリューションの導入です。
個別化された栄養指導で治療効果を高める
先にも述べましたが、個別化した栄養指導を行う上で障害になっているのが、医療機関が患者さんの生活環境や食生活を把握できないということです。
患者さんからの医療機関への情報提供も完全とはいえないため、栄養指導の個別化には多くの課題がありました。
そんな栄養指導の問題点を解決するのが、デジタルソリューションです。
シンクヘルスなどのデジタルソリューションとCGMや血圧計などとリンクさせることで、血糖マネジメントや血圧値、体重などを把握できるだけでなく、食事の写真や内容も記録することができ、そのデータを医療機関側でも把握できるようになったのです。
その結果、患者さんのさまざまな生活背景がわかるようになり、これまで一方通行だった栄養指導が、より個別化できるようになったのです。
実際にデジタルソリューションを導入することで、患者さんの治療や栄養指導に役立てている事例を紹介します。
参考記事:体重コントロールと栄養指導の継続率向上~患者さんのやる気を引き出す秘密とは~医療法人 緑風会みどりクリニック 健診センター長 阿比留 教生 先生
この事例でも、デジタルソリューション導入前は「栄養面談でも以前は、面談の中で患者さんからの聞き取りや、食事の手書き記録などを参考に面談してもらっていましたが、一方通行の栄養指導になってしまい、具体的なアドバイスにつながらないため定期的な指導の継続を希望されない場合も多かった」という状況でしたが、導入後は、個別化された栄養指導が実現し、患者さんの治療に対するモチベーションも上がっているようです。
スタッフ間でのデータ共有で多職種連携が可能に
日常の治療で、デジタルソリューションを活用することで、多職種連携も容易に行えるようになっています。
同じ医療機関内で患者さんのデータを医師だけでなく、管理栄養士や看護師など他の医療従事者間でも共有できるようになりました。
このことにより、チームで一貫した患者ケアを実現できます。
また、各職種が行ったケアの内容をシステム上に記録として残しておけるため、情報共有漏れや認識の齟齬を防ぎ、よりスムーズな連携を可能にします。
参考記事:チーム医療による糖尿病療養支援に活用しています 岡山済生会総合病院 内科・糖尿病センター 副センター長 利根淳仁先生
シンクヘルスの新機能『AIによる食事分析』が栄養指導の可能性を高める
シンクヘルスでは、栄養指導に役立つ新機能『AIによる食事分析』が実装されました。
『AIによる食事分析』は撮影した食事写真をもとに食事メニュー、カロリー、炭水化物、脂質、たんぱく質が自動解析されて記録できるというものです。
今までは食事写真と栄養素を別で入力する必要があったため、写真のみ記録してもらうというパターンが多かったようですが、その場合、管理栄養士が別でカロリー等を計算する必要がありました。
この新機能を使えば、そういった手間も省くことができ、より簡易に栄養指導のデータを活用できることが可能となります。
また、患者さんにとっても大まかなカロリーや炭水化物量を把握できるようになるため、自身の食生活も振り返りやすくなります。
詳細はこちら:https://synchealth.my.canva.site/food-ai
患者さんの満足度を高めるためにも、デジタルソリューションを活用した栄養指導をぜひ検討してみませんか。
まとめ
今回は栄養指導の個別化と多職種連携について解説してきました。
生活習慣病管理料(Ⅱ)の算定要件に栄養指導が含まれているだけでなく、多職種連携についても盛り込まれました。
これまでのような一方通行の栄養指導では限界があり、患者さん一人ひとりに個別化した栄養指導の重要性が高まっています。
医療機関と患者さんの双方向性の栄養指導を実現するためにもデジタルソリューションの活用は必須です。
デジタルソリューションを導入することで、栄養指導の個別化と多職種連携は実現できるはずです。
参考文献:
「世界初、2型糖尿病患者に対し、食事調査に基づき個別化した栄養指導を従来の栄養指導と比較した優位性を実証~東京大学 佐々木敏教授の BDHQ が糖尿病栄養指導を変える~」